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紅色

紅色(べにいろ)
人が太陽や火の赤い色から目をはなせなくなるのは、それが自分の体の中を流れる血と同じ色で、生命をはぐくむ色だからかもしれません。 はずかしくてドキドキすると、顔が赤くなります。こうふんしたときにも、顔が赤くなります。
顔の皮ふはうすいので血管がすけて見えますから、頭部に集まってくる血液の動きもよく見えてしまうのです。 でもこれは、血行がよくて健康だという証こです。 ほおの赤さだけでなく、くちびるの赤さも健康の証こになります。
顔の血行がよいと表情がいきいきとして、エネルギーあふれる"若さ"を感じることができます。そんな若さを表現するために、大人の女の人は、ほおや口に「紅」をつけるのかもしれません。

口紅は花から作られていた

昔の口紅は「ベニバナ」という花から作られていました。花から取り出した赤い色素の液体を小皿に入れてかわかしたもの(紅皿:べにざら)から、筆や指で紅をぬぐい取り、くちびるに移していました。いまの口紅は化学的に合成された薬品が主成分で、ベニバナはほとんど使われていません。しかし、数年前にフランスの有名な化しょう品メーカーが日本古来のベニバナ口紅の色を化学的に再現して発売したところ、人気を集めたそうです。
ベニバナは漢方薬としても使われていて、血行をよくする効果があります。くちびるにぬるとあれ止めにもなります。

紅皿

紅皿に入った紅は、江戸(えど)時代には一般(いっぱん)の人にも広く使われるようになり、京都の「小町紅(こまちべに)」というブランドが流行した

紅がブームになった平安時代

ベニバナはエジプトが原産地といわれています。ミイラを包む布がベニバナで染められていたそうです。エジプトから中国を経て、日本に伝わったのは5世紀ごろ。奈良(なら)県の藤ノ木古墳(ふじのきこふん:6世紀後半)ではベニバナの花粉が発見されているので、6世紀にはすでに栽培(さいばい)されていたことがわかります。
平安時代になると、ベニバナの紅の色は大流行しました。ベニバナは貴重で高価であったので、紅はあこがれの色として、貴族の衣服やお化しょう用にもてはやされたのです。そして、「今様色(いまよういろ)」と呼ばれるようになりました(「今様」とは「流行」の意味です)。ブームになりすぎて、今様色はごく一部の貴人しか着用を許されない「禁色(きんじき)」となったほどです。それでも人々は紅をうすく染めた色をもてはやし、特に女の人はうす紅色の服を着たがったといいます。

濃紅色

ベニバナで絹地を染める場合、何度もくり返して重ね染めするとこい色になる。「濃紅(こきくれない)」色にするには8回も重ね染めする

厳しゅくな行事で使われるツバキの紅色

「奈良(なら)の大仏」で有名な東大寺では、毎年3月に「お水取り(おみずとり)」という行事が行われます。正式には「修二会(しゅにえ)」といい、8世紀から1200年以上一度も絶えることなく続いてきた、たいへんに伝統ある厳しゅくな行事です。
お水取りでは、本尊(ほんぞん)の十一面観音(じゅういちめんかんのん)にツバキの造花を作ってささげますが、ツバキのあざやかな赤い花びら用の紙は、ベニバナの紅を使わないと再現できません。こいどろ状の紅を和紙に5回くらいぬり重ねていくのですが、1枚の紅紙(べにがみ:大きさ約60cm×40cm)を作るのに1キログラムのベニバナが必要だそうです。
暗いお堂の中、ほのかな明かりによって、ツバキの造花は金色がかった深紅(ふかきくれない)にかがやきます。

ツバキの紅色

「修二会(しゅにえ)」は仏教修行で、厳しゅくなイベント。そこで使われるツバキの花は、選ばれた11人のおぼうさんによってひとつずつ手作りされる

ベニバナはいまもとても貴重な花

ベニバナは意外と身近な植物で、家庭の台所では「ベニバナ油(サフラワーオイル)」が使われますし、マーガリンの原料にもなっています。ドライフラワーでもよく見かけます。ところが同じベニバナでも、油をとったり飾ったりする黄色い花からは、紅の色素はほとんど取れません。赤い色素の多い赤っぽい花を使います。それでも1キログラムの花びらから3~5グラムの紅しか取れないのです。
赤っぽいベニバナは、山形県の最上川流域や三重県の一部、中国四川省の一部で作られていますが、生産量は減ってきています。いまは、花びら1キログラムで3万円くらいする貴重なものとなっています。

乾燥させて固めたベニバナ

乾燥(かんそう)させて固めたベニバナ

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監修者(かんしゅうしゃ)吉岡 幸雄(よしおか・ゆきお)先生について
1946年京都生まれ。早稲田大学卒業後、美術図書出版社「紫紅社(しこうしゃ)」を設立。日本の伝統色や染織史(せんしょくし)の研究を行ってきた。88年生家「染司よしおか(※)」5代目を継承(けいしょう)。最近では、海外で展示会や講演をする機会も多く、日本の伝統色のすばらしさを世界に広めている。

※ 江戸時代から続く京都の染屋。昔ながらの「植物染」を伝える工房(こうぼう)で、製品は東大寺、薬師寺などの伝統行事にも役立てられている。

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