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日本の色いろいろ

赤色

赤色(あかいろ)
ベニバナの紅のほかにも、日本人が好んできた赤系の色はいろいろとあります。
ベニバナのような植物から赤い色素を取るようになる前、原始時代の人は土の中から赤い土を発見して、土器の模様に使ったり、顔にぬったりしていました。赤い土は、「朱(しゅ)」「べんがら」など、顔料(がんりょう)といわれるものです。
古墳(こふん)時代には、死者の再生を願って、古墳(こふん)内の壁や遺骨に朱(しゅ)をぬったり、朱(しゅ)をまいたりする習慣もありました。
人は、顔料の次にベニバナやアカネなどの草花から赤い色素を取ることを覚え、木や虫からも赤を取り出して、さまざまな赤色を手に入れていきました。

千三百年前から輸入されていた赤い木

インドや東南アジアにあるマメ科の木にスオウという木があります。この木の中心部は赤く、赤い色素が取れます。日本にはない木なので、日本では奈良(なら)時代から海外から輸入して使っていました。奈良(なら)の正倉院(しょうそういん)は、シルクロードを運ばれてきた中国(唐:とう)や、遠くはペルシャなどからの輸入品を宝物(ほうもつ)としてたくさん保存していますが、その中にスオウの木もあります。スオウは、布や糸を「すおう色」にするのに使われ、平安時代の貴族たちの衣服をいろどりました。琉球(りゅうきゅう:いまの沖縄県)との貿易が盛んになった鎌倉(かまくら)時代の終わりごろには、たくさんのスオウが輸入されて広まったようです。スオウではなやかに染められた、安土桃山(あづちももやま)時代、江戸(えど)時代の衣装や着物がいまに伝わっています。

すおう色

「すおう色」は、少しむらさき色がかった赤色。変化しやすい色なので、昔の美術品などでは赤茶色に見えることもある

卑弥呼(ひみこ)がプレゼントした赤い糸

古代中国の歴史の本に『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』があります。これは3世紀末ごろに書かれたもので、日本に邪馬台国(やまたいこく)という国があり、女王の卑弥呼(ひみこ)がいたと書かれています。卑弥呼(ひみこ)は中国の魏(ぎ)の国王におくり物をしているのですが、品物のひとつに「絳青?こうせいけん:赤い色の糸と青い色の糸」があります。この赤い糸はあかね色だったと考えられています。あかね色は、アカネという草の赤い根っこから作ります。ただ、アカネからきれいな赤色を出すのはとても手間がかかって難しいため、卑弥呼(ひみこ)の時代の赤い糸は、朱やべんがらなどの顔料を使っていた可能性もあります。

あかね色

「あかね色」は、赤とんぼ(アキアカネ)のように、ほんのり黄味がかかった赤色。黄味が少しでもこいと、にごった赤になって美しくならない

織田信長が大好きだった虫の赤色

土や木や草だけでなく、虫から取った赤い色もあります。これも、古来から世界各地で使われてきました。虫は、東洋ではラック、ヨーロッパではケルメスというエンジ虫が使われてきました。エンジ虫の赤色「えんじ色」はとてもあざやかです。15~16世紀(日本の戦国時代)にやって来たスペイン人やポルトガル人(南蛮人:なんばんじん)がケルメスの赤いマントをはおっていたため、織田信長や豊臣秀吉ら戦国武将は赤いマントにあこがれました。マントをそのまま着たり、戦場で使う陣羽織(じんばおり)にして着たりしたようです。ちょうどそのころ、スペイン人は南米大陸をせい服していましたが、その際には、コチニールという赤い色素を持つ虫が発見されました。コチニールは安価で大量にヨーロッパに運ばれたため、ケルメスはあまり使われなくなっていきました。コチニールは、いまでもメキシコやペルーなどで生産され、食品の着色料や口紅の原料として使われています。

えんじ色

「えんじ色」は、とてもあざやかな色。戦国時代、それまで日本人になじみがなかった羊毛の織物が輸入され、えんじ色の羊毛地は特に「猩々緋(しょうじょうひ)」と呼ばれてめずらしがられた

緋羅紗地三葉葵紋陣羽織

表地の「猩々緋(しょうじょうひ)」、裏地の金糸のししゅうがあざやかな陣羽織(じんばおり)。これは江戸(えど)幕府最後の将軍だった徳川慶喜(よしのぶ)の弟にあたる徳川昭武(あきたけ)が、幕府がたおれる直前にパリ万博(1867年)に招かれたときに着用したもの。徳川家伝来のものとされる。「緋羅紗地三葉葵紋陣羽織(ひらしゃじみつばあおいもんじんばおり)」(江戸時代)松戸市戸定歴史館所蔵

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監修者(かんしゅうしゃ)吉岡 幸雄(よしおか・ゆきお)先生について
1946年京都生まれ。早稲田大学卒業後、美術図書出版社「紫紅社(しこうしゃ)」を設立。日本の伝統色や染織史(せんしょくし)の研究を行ってきた。88年生家「染司よしおか(※)」5代目を継承(けいしょう)。最近では、海外で展示会や講演をする機会も多く、日本の伝統色のすばらしさを世界に広めている。

※ 江戸時代から続く京都の染屋。昔ながらの「植物染」を伝える工房(こうぼう)で、製品は東大寺、薬師寺などの伝統行事にも役立てられている。

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