『源氏物語』は平安時代に書かれました。さまざまな国でほん訳されて、いまも世界中で愛読されているベストセラーです。作者は、紫式部(むらさきしきぶ)。名前は本名ではありません。当時の天皇のきさきにつかえたときの役職名が「藤式部(とうのしきぶ)」でした。『源氏物語』がたいへんな評判となって尊敬されたことと、物語中の高貴な登場人物に「むらさき」にちなむ名前が多いことから、この呼び名で呼ばれるようになったといわれています。
日本の色いろいろ
『源氏物語』は平安時代に書かれました。さまざまな国でほん訳されて、いまも世界中で愛読されているベストセラーです。作者は、紫式部(むらさきしきぶ)。名前は本名ではありません。当時の天皇のきさきにつかえたときの役職名が「藤式部(とうのしきぶ)」でした。『源氏物語』がたいへんな評判となって尊敬されたことと、物語中の高貴な登場人物に「むらさき」にちなむ名前が多いことから、この呼び名で呼ばれるようになったといわれています。
『源氏物語』は、宮中の高貴な人々の物語です。登場する女性たちの名前は「桐(きり)」「藤(ふじ)」など、むらさき色の花がさく植物からとっている例が多くあります。主人公の光源氏(ひかるげんじ)の妻となるのは、「紫の上(むらさきのうえ)」です。(紫式部肖像)
いちばん身近なむらさき色といったら、くだもののブドウかもしれません。ブドウは漢字で「葡萄」と書きます。この字を使った「葡萄色」という、黒ずんだむらさき色があります。この読み方ですが、なぜか「ぶどういろ」ではありません。「えびいろ」と読むのです。えび色は、山に自生する「山ブドウ」の実から作られます。山ブドウの古い名前が「エビカズラ」で、昔、ブドウのことは「えび」といっていたのです。では、おなじみの海のエビにも由来した色はないかというと、実はちゃんとあって、イセエビのカラの色ような赤茶色です。この色を「海老色(えびいろ)」または「海老茶(えびちゃ)」といいます。
葡萄色
海老色
どちらもおなじ「えび色」!(葡萄色と海老色)呼び方は同じでも、まったくちがった色です。
むらさき色には、たくさんのバリエーションがあります。たとえば「京紫(きょうむらさき)」に「江戸紫(えどむらさき)」。平安時代からの伝統のやや赤っぽい京都のむらさき色に対して、江戸時代に流行したやや青っぽい江戸のむらさき色。江戸っ子は、この色が江戸名物だと、じまんしたそうです。花の名前がついているむらさき色も多く、ふじ色、かきつばた色、あやめ色、しおん色、ききょう色、ふじばかま色、すみれ色……と、豊富にあります。こんなにたくさんの名前がついたのは、それだけむらさき色が高貴な色で、あこがれの色だったからといわれています。
平安時代の2大女流作家、『源氏物語(げんじものがたり)』の紫式部(むらさきしきぶ)も、『枕草子(まくらのそうし)』の清少納言(せいしょうなごん)も、むらさき色が大好きでした。作品には、たくさんの花の名前がついたむらさき色が登場します。
監修者(かんしゅうしゃ)吉岡 幸雄(よしおか・ゆきお)先生について
1946年京都生まれ。早稲田大学卒業後、美術図書出版社「紫紅社(しこうしゃ)」を設立。日本の伝統色や染織史(せんしょくし)の研究を行ってきた。88年生家「染司よしおか(※)」5代目を継承(けいしょう)。最近では、海外で展示会や講演をする機会も多く、日本の伝統色のすばらしさを世界に広めている。
※ 江戸時代から続く京都の染屋。昔ながらの「植物染」を伝える工房(こうぼう)で、製品は東大寺、薬師寺などの伝統行事にも役立てられている。
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