じっさいに起きていることと自分の感じ方とがちがってしまうことを錯覚(さっかく)といいます。なかでも、目でものを見るときに起きる錯覚は「錯視(さくし)」と呼ばれています。さまざまな目の錯覚の図形を見ながら、私たちが見たものをどのように理解しているかを考えてみましょう。
光の“正体”は?
じっさいに起きていることと自分の感じ方とがちがってしまうことを錯覚(さっかく)といいます。なかでも、目でものを見るときに起きる錯覚は「錯視(さくし)」と呼ばれています。さまざまな目の錯覚の図形を見ながら、私たちが見たものをどのように理解しているかを考えてみましょう。
わたしたちは目と脳のれんけいプレーでものを見ています。外から目に届いた光は、もうまくに映(うつ)り、それをもうまくにある神経さいぼう(=視(し)さいぼう)が感じとって電気信号にし、視神経をとおして脳に送ります。そして、脳があらためて信号を「何がどう見えているか」に組み立て直しているのです。
目の錯覚である錯視は、視さいぼうや脳などがかんちがいなどを起こして、じっさいのようすとはちがって見えたり、ないはずの図形やものが見えたり、また起きていないことが見えたりする現象(げんしょう)です。かんたんにいえば目の錯覚は、目か脳、あるいはその両方が見ているものにだまされて起こる現象なのです。
人間はずっと昔から目の錯覚に注目し、利用してきました。古代ギリシャのたてものや古い寺院建築(じいんけんちく)、また芸術作品にも錯視のしくみがつかわれています。今もゆうえんち(=アミューズメントしせつ)のアトラクションなどは、大いに目の錯覚が利用されています。
眼球のしくみ
パルテノン神殿
柱は下の方が太く、上の方が細くするなどの安定して見える工夫がされています。
目の錯覚にはいろいろな種類(しゅるい)があります。
たとえば、図形のかたちや長さ、面積などがじっさいとはちがって見えるもの※1や、かかれていない図形が見えるように感じるもの※2など、いくつかのグループがあります。また、現実にはありえない形をえがいた「だまし絵」も目の錯覚のひとつといえます。さらにこのほかにも、明るさや色がちがって見えたり、動いていないのに動いて見えるなど、さまざまな種類の目の錯覚があります。
目の錯覚のしくみは、150年くらい前からさかんに研究がすすめられるようになりましたが、まだわからないことがたくさんあります。これは「ものを見る」という脳のはたらきに今でもなぞが多いためです。しかし、心理学(しんりがく)や神経科学(しんけいかがく)といった学問では、逆に目の錯覚の起きかたを調べることで、目や脳のはたらきを考える研究も進められています。
※1 きかがくてき(「幾何学的」と書く)錯視と呼ばれています
※2 しゅかんてきりんかく(「主観的輪郭」と書く)と呼ばれています
ここからは、いろいろな目の錯覚の例を見ていきましょう。
両側に矢のついた2本の線は上より下の方が長く見えますが、じっさいは同じ長さです。ミュラー・リヤー錯視と呼ばれるたいへん有名な目の錯覚の図形※です。さらに、レンガのかべのもように1つおきに濃い色をつけると、まっすぐの線が曲がって見えます。
※ 図形の形や長さ・面積などが実際とちがって見える「きかがく(幾何学)的錯視」です。
左右の図形で周囲にあるふちどりやとりまいている円の大きさが変わると、まん中の赤い円の大きさが変わって見えます。最初の図形がエビングハウス錯視、次に見えるのがデルブーフ錯視と呼ばれます。私たちはものの大きさをみつもるときに、ものだけでなくまわりのようすも参考にしているためと考えられています。月が地平線近くで大きく感じられるのも、同じようなしくみがはたらいていると考えられています。
エビングハウス錯視、デルブーフ錯視
月の錯視
ぼんやりした画像を30秒見たあと、クリックしてみましょう。すると、モノクロ写真がカラーに見えます。そのまましばらくするとモノクロに…。これは目の錯覚を利用し、白黒画像に色を感じさせるトリックです。
灰色のドーナツがさかいめで2つにわかれると、左右で濃(こ)さが変化して見えます。目と脳はものの明るさを見るときに周囲の明るさのえいきょうを受けますが、1つにまとまっているときは「同じものだから同じく見えるはず」と感じ、分かれると「2つが別なら同じに見えなくてもいい」と目と脳が判断(はんだん)して、明るさが変わるように感じる目の錯覚が起きると考えられています。
じっさいにはない三角形がまん中に見える目の錯覚です。自分の頭の中で輪郭(りんかく)が作られるという種類の目の錯覚※で、この図形は研究を行ったイタリアの心理学者にちなみ「カニッツァの三角形」と呼ばれます。目と脳は図形を見るときに頂(ちょう)点を中心にとらえていると考えられます。
※ 「しゅかんてきりんかく(「主観的輪郭」と書く)」と呼ばれる目の錯覚です。
上下左右の線の交差する部分にだけ色をつけると、交点の回りに色がにじみ出して見えます。ネオンカラー拡散(かくさん)という図形です。目と脳は切れた線を見たとき「何かがおおいかくしているから見えない」と感じておおっているものを推測(すいそく)します。そこに色の十字があるのでその色の何かを推測すると考えられています。ちなみに色の十字がないと白い円が感じられます(エーレンシュタイン図形と呼ばれています)。
中央の点を見つめながら頭を前後ろに動かすと、リングが回転するように見えます。また、PDFをプリントして厚紙にはり、厚紙を上下にゆらしても回転するように見えます。バインジョ ピンナという研究者が開発したピンナ錯視です。もようの濃さのちがいや形によって、本当はリングになっている一つひとつの図形の見える大きさが変わっているのに、回転しているように感じられるといわれています。
プリントアウトして、ゆらしながら見ると輪が動き出す?
だまし絵の一種でペンローズ三角形と呼ばれます。三角の頂点だけ見るとじっさいにある立体に感じられますが、よく見るとありえない形です。呼び名は、図形全体を脳がどのように理解しているかをしらべたロジャー ペンローズにちなんでいます。
左右は同じ写真ですが左側は少しぼかしています。まん中の×印を15秒見つめたあとにクリックすると、左右両方がぼかしていない元の同じ写真になるのですが、左側がよりくっきり(ボケていないように)見えます。(しだいに効果がうすれて同じに見えるようになります)。左側のぼけた画像(がぞう)は目と脳がくっきりさせようとはたらいているため、左の写真が元に戻ってもはたらきはすぐには止まらず、写真がよりくっきり見えるのです。
うずまきのように見えますが、指でなぞってみるとじつはどの部分も円になっています。錯視研究で有名な心理学者ジェームス フレイザーが発表し、フレイザーのうずまき錯視と呼ばれています。えがかれているななめのもようから、目と脳がうずまきであると思い込むために起きる現象です。
ポンゾ錯視と呼ばれる有名な図形で、左右にある2つの長方形は大きさがちがって見えますが、実は同じ大きさです。まわりにある線によって目と脳は「奥行きがある」と感じ、左の長方形が遠くにあると理解します。同じ大きさに見えるなら遠くにあるものの方が大きいはずなので、左の方が大きいと理解(りかい)するわけです。
目の錯覚のしくみを利用すると、たのしいマジックや工作ができます。いくつかをごしょうかいしましょう。
500円玉2枚をタテにならべておき、上の500円玉をはさむように2本のはしを「ハ」の形に並べると、上にある500円玉のほうが大きく見えます。目と脳がはしの形につられて、「同じ大きさに見えるなら遠い(=上の)ほうの500円玉が大きいはず」と錯覚するしくみで、ポンゾ錯視を応用したマジックです。
2本のわりばし(またはストロー)をななめにずらしてならべ、まん中を定規(じょうぎ)やはし袋などで、下のはじを手でかくします。「右上のわりばしはどっちにつながっている?」と聞くと、多くの人は「右」と答えるでしょう。ななめの線と定規がするどい角度で接(せっ)していると、目と脳が「より大きな角度で接している」と感じてしまう錯視を利用しています。
わりばしを2本、直角に組み合わせてみます。「長いほうは?」と聞くと多くの人は「縦(たて)のほう」と答えるでしょう。そのまま交わる位置をずらしていくと、長さが変わったように感じるはずです。しくみにはいくつかの説がありますが、2つに分けられた直線と分けられていない直線とでは、奥に向かっているようす(奥行き)がちがうように感じ、このことから「奥に向かっているほうが長いはず」と感じる(フィック錯視という)という説明が有名です。
白と黒で描いた図形をコマにして回転させると、色が見えます。これは、有名なベンハムのコマと呼ばれるもので、厚紙とつまようじでかんたんにつくれます。色を感じる目の神経が白黒のてんめつを色のしげきとかんちがいするのが理由とされていますが、まだくわしいしくみははっきりしていません。
100年以上も前にアメリカの心理学者ジャストローが発表した目の錯覚の図形を厚紙で試してみましょう。大きさと形が同じおうぎの形を2枚、厚紙で切りとります。上下や左右に並べてかんさつしてみると、並べかたによって大きさがちがって見えるのです。たとえば、上下に並べるとおうぎの丸い部分の内と外が近くなりますが、その長さが違うため、長いほうが大きくなるはずと脳がかんちがいするのが原因と考えられています。まわりの人に見くらべてもらってから図形をかさねると、同じ大きさだとわかってみんなびっくりします!
光の“正体”は?
レンズと反射鏡
色と光