春になるとまちや山々をいろどる桜(さくら)。日本で桜といえば、いっせいに花をさかせるソメイヨシノが思いうかびます。毎年、春が近くなるとソメイヨシノがいつさくのか?という開花予想もニュースになりますが、実は桜にはほかにもたくさんの種類があって、さく時期もまちまち。そして、なぞも多い植物です。
色と光
春になるとまちや山々をいろどる桜(さくら)。日本で桜といえば、いっせいに花をさかせるソメイヨシノが思いうかびます。毎年、春が近くなるとソメイヨシノがいつさくのか?という開花予想もニュースになりますが、実は桜にはほかにもたくさんの種類があって、さく時期もまちまち。そして、なぞも多い植物です。
いま、日本の道ぞいや桜の名所などに植えられている桜のうち、80〜90%のわりあいともいわれている桜がソメイヨシノで、「桜といえばソメイヨシノ」ともいえる日本を代表する品種※1です。
ソメイヨシノは、古くから日本に自生※2する野生種※3のエドヒガンと日本固有種※4のオオシマザクラとをかけ合わせ、江戸(えど)時代後期につくりだされたと考えられています。これを明治の最初のころに、江戸(えど=いまの東京)の染井(そめい)という町にある植木屋さんが「吉野桜(よしのざくら)」という名前で売り出しました。その後、これが奈良県の有名な桜「吉野桜(よしのざくら)」とはちがう種類であることがわかり、区別するために「染井吉野」と名づけられた…というエピソードが知られています。
1950年代後半あたりからは、さかんに日本全国でソメイヨシノが植えられるようになりました。花がきれいだったうえに、枝(えだ)を別の桜の木につなぎ合わせること(=接ぎ木(つぎき)といいます)でたくさん木をつくることができ、成長のスピードが速いためわりと早く花がさくことが大きな理由だと考えられています。
木としてのソメイヨシノには、かさを広げるように枝がのびていく特ちょうがあり、約10〜15mの高さまで成長します。また、老木になると幹(みき)がねじれたようになります。
花がさくのは3月の後半から4月ですが、地域(ちいき)によって時期にはかなり差があります。花は満開からおよそ1週間で散ってすぐに葉が広がり、秋にはこい赤色からだいだい色に紅葉した後に散り、毎年これをくりかえします。
同じ場所でたくさんの木がいっせいに開花することから見ごたえがありますが、これは日本に植えられているソメイヨシノのほとんどがとてもよくにた性質(せいしつ=ものがもっている特ちょう)をもつためです。実は日本のソメイヨシノはある一本の木からつぎつぎと接ぎ木で増やされたもの。つまり同じ遺伝子(いでんし)をもったクローンであることが、1995年に遺伝子研究でたしかめられています。兄弟以上に強い遺伝のつながりがあるため、ソメイヨシノはいっせいに花をさかせるのです。
桜は、植物の分類のしかたでいうと、バラのなかまと同じグループの植物です。最初はヒマラヤで生まれたと考えられ、その後にユーラシア大陸からシベリア、日本、中国、さらにはアメリカやカナダなどの各地に広がりました。
日本でも古くから野生の桜が自生し、いままで見つかっているその種類は10または11※になります。
しかし日本列島に人が住みはじめてから長い間、桜は注目を集めていませんでした。奈良時代までは春の花といえば梅で、桜に注目が集まったのは平安時代から後のことでした。そして、江戸時代には、桜はとても人気が高くなり、オオシマザクラ、ヤマザクラ、カスミザクラ、エドヒガンなどが多くさいばいされました。このなかで良い性質をもった木を選んでさいばいするなどの品種改良もおこなわれました。
桜は、自然の中で遺伝的なDNAの変化(=とつぜんへんい)がおこりやすい植物です。このため同じようにさいばいしていても、とつぜんへんいによって育ちかたや花の特ちょうなどにちがいができて新品種ができる場合があります。また、ある桜に別の桜の花粉(かふん)がついて、新しい品種が生まれることもあります。日本に10〜11種ある野生種の桜も、自然にまざりあって変種ができ、その種類は100種以上になったとされています。
江戸時代からは花を楽しむために接ぎ木などのさいばいの工夫で新しい品種をつくる品種改良が進みました。さらに、20世紀のなかばからは人間がある品種の花粉を別の品種のめしべにつける方法や薬品を使った処理などで新品種を生みだすようになりました。最近では種子などに重イオンビームを照らしてとつぜんへんいをおこさせる技術(ぎじゅつ)※なども使われ、桜の品種は、名前がつけられているものだけでも800をこえるとされています。
日本各地では、2月から5月にかけて、つぎつぎにさく桜を楽しむことができます。ソメイヨシノのほかにもたくさんある桜の種類の中で、身近に見られる種類を、花がさく時期とともにしょうかいします。
カワヅザクラ(=漢字では「河津桜」と書きます)…2月はじめごろ〜3月はじめごろにさく、早ざきを代表する桜です。花の色がこいピンクで目立ち、さきつづける期間が約1ヶ月間とほかの桜にくらべて長いのも特ちょうです。静岡県河津町で発見され、この名前がつきました。
オカメ(=よく「おかめ桜」または「オカメ桜」ともいいます)
オカメ桜は、カワヅザクラとソメイヨシノの中間の3月中ごろにさく早ざきの桜です。1947年にイギリスでカンヒザクラとマメザクラをかけ合わせてつくりだされた、わりと新しい品種で、その後、日本に里帰りしてきました。花は直径1.5cmぐらいとかなり小さく、こい紅(べに)色で下向きにつりがねのようにさく、かれんなすがたが人気です。
オオシマザクラ…ソメイヨシノよりやや早い3月の後半ごろから白い花をさかせます。伊豆(いず)の島々や伊豆半島に自生することからこの名前がつきました。品種改良に多く使われ、ソメイヨシノの元になった種でもあります。香りが強く、葉っぱは桜もちなどに使われます。
シダレザクラ(=漢字では「枝垂桜」と書きます)…多くはソメイヨシノよりやや早めの3月の終わり近くにさきます。花をつけた枝がヤナギのようにたれさがるすがたのエレガントさで観しょう用として人気があります。花はあわい紅色が多く、ややこい紅色もあります。野生種のエドヒガンからの変種が多く、長じゅで名木として有名な古くからの木もあります。
ヤマザクラ(=写真は「日本にある野生の桜は11種」のなかにあります)…山地に自生する野生種のひとつで、和歌によまれるなど古くから人々に親しまれてきた桜です。桜としてはややおそめの3月の終わりごろ〜4月はじめごろに、ソメイヨシノにつづいて白〜あわい紅色の花をさかせます。ソメイヨシノなどとはちがい、花がさくと同時に赤かっ色の若葉が出ます。
カンザン(=漢字では「関山」と書きます)…4月中ごろ〜終わりごろとかなりおそめにさく桜で、八重桜(やえざくら)を代表する品種です。花びらは多くて大きく、ごうかではなやかな、こい紅色〜こいピンクの花をさかせ、桜シーズンの最後をかざります。
桜がいつさくのかは毎年のように話題になります。この場合の桜とはソメイヨシノのことで、開花時期を予そくするさまざまな“法則(ほうそく=決まり)”もあります。
中でも「600℃の法則」はよく知られています。2月1日から毎日の「最高気温」を足していき、合計600℃になると開花するというものです。このほかにも2月1日からの「一日の平均気温」を毎日足して400℃になると開花するという「400℃の法則」もあります。どちらの法則も年によって少しの差はありますが、かなり正かくに開花日を予想できるといわれています。
ポイントは計算をはじめる日が2月1日であることと、温度を足し重ねていくところです。つまり桜の開花には何か始まりのタイミングがあって、温度と深く関係しているらしいということがわかります。
桜の開花は次のような流れでおこることがわかっています。
まず、前の年の夏(=7~8月ころ)に花芽(かが=花になる芽)ができ、秋から冬にかけて葉で特別なホルモンがつくられて活動が止まります(=これを「休みん」といいます)。さらに5℃前後の冬の寒さにさらされるとそのしげきで休みんから目覚めます。これが「休みん打破(だは)」とよばれる開花の始まりのタイミングで、だいたい2月1日ごろと考えられています。
その後、気温が上がるにつれてだんだん花芽が成長し、開花をすすめるジベレリンというホルモンが花芽の中につくられます。この時期の気温の上がりぐあいがとても大事で、花がさくタイミングに大きくえいきょうします。たんじゅんに「何℃になるとさく」のではなく、温度が上がりつづけて花芽がじゅうぶんに成長することが重要なのです。
科学的には花芽が成長する度合いを「温度変かん日数(=DTSとよばれます)」という方法で計算することができます。計算結果がある数をこえると開花すると考えられていて、「600℃の法則」や「400℃の法則」はこれをかんたんにしたものといえます。花がさく時期は、桜がさくしくみを利用して予そくしているのです。
桜がさくとき、木の中ではどのような変化がおきているのでしょうか。
桜だけではなく、植物はふつう、光と温度でまわりのようすを感じとります。たとえば植物の葉には「光を感じるたんぱく質」があり、日光があたっている時間を感じとって、季節の変化をはんだんしています。
また、植物の細ぼうには温度で変化するたんぱく質が数種類あります。さらに、温度によっておきるDNAの変化、細ぼうのまくのかたさの変化などからまわりの温度を感じとります。
そして、光や温度の情報(じょうほう)がその植物のある決まった遺伝子のスイッチをオンにしたりオフにしたりして、細ぼうの中にホルモンがつくられます。特に花をさかせるためのフロリゲン※というホルモンがつくられて花芽に運ばれると、開花が進んでいきます。
花が開くタイミングがくると、花びらなどをつくっている細ぼうにいつもより多くの水が流れこんでふくらみ、花びらなどがのびて広がり花が開きます。ぎゃくに、流れこむ水が止まると水分は蒸発(じょうはつ)して花びらがちぢみ、花が閉じます。これは花をさかせる植物のほとんどで共通の特ちょうで、花が開くときには、水分が重要なはたらきをしているのです。
光の“正体”は?
レンズと反射鏡
色と光