業平が詠んだ情景。光琳が描いた風景。
緑と青の燕子花(かきつばた)が群生し、墨色にくすんだ八橋が金色に輝く背景から浮かび上がる。そして、並立する燕子花と斜めに横切る八橋が緊張感を生み出す。橋には、墨のにじみを利用するたらしこみの技法によって、柔らかみが添えられる。「八橋図屏風」は、光琳の傑作と言われ、その高精細複製品が里帰りしました。原本は、ニューヨーク・メトロポリタン美術館に所蔵されています。
「からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもふ」
在原業平が三河の八橋で、美しく咲く燕子花を見ながら、遠く京に残してきた恋人を歌った、伊勢物語「東下り」。句の頭に「かきつはた」と折り込んであります。尾形光琳など琳派は、伊勢物語・源氏物語など王朝文学で詠まれた、その情景や名場面を好んで描きました。時を越え、遠く米国から里帰りした「八橋図屏風」。いつまでも、日本にあり続け、愛され続けることでしょう。
寄贈先:京都市 原本所蔵:メトロポリタン美術館
Facsimile of a work in the collection of The Metropolitan Museum of Art. May not be further reproduced or resold.
The Metropolitan Museum of Art, Purchase, Louisa Eldridge McBurney Gift, 1953(53.7.1-2) Photograph c 1993 The Metropolitan Museum of Art.
綴プロジェクト作品「八橋図屏風」(高精細複製品)で見ることのできる絵の特徴をご覧ください。
京都市
メトロポリタン美術館
アメリカ合衆国ニューヨークにある世界最大級の美術館。1866年、ジョン・ジョンストンがアメリカに国際的規模の美術館が存在しないことを憂い、設立構想を訴えた時、美術館の建物はおろか1点の絵画さえ所有していなかったが、6年後に開館。その後は基金による購入や、さまざまなコレクターからの寄贈によって収蔵品数を増やし、現在では絵画・彫刻・写真・工芸品ほか家具・楽器・装飾品など300万点を所蔵。その特色は、コレクションの幅がきわめて広く、古今東西問わずあらゆる時代、地域、文明、技法による作品を収集していることにある。