varioPRINT iX1700

商業印刷の新たな地平を拓く

情報伝達や経済活動に不可欠な印刷物。デジタルメディアと相互補完しながら社会のさまざまなコミュニケーションを支えています。小ロット・短納期での注文に対応するためデジタル化が進む商業印刷の現場では、多様化する顧客ニーズに、より柔軟に対応することが求められています。
キヤノンの設計・開発部門とデザイン部門は、発想の段階から協働し、商業印刷の未来を創るデジタル印刷機の開発を進めてきました。機能性、審美性、ユーザビリティすべてにおいて、あらゆる挑戦を経て誕生したのが「varioPRINT iX1700」です。

洗練とユーザビリティを究める

開発にあたり、デザインチームは一つの大きな目標を立てました。それは、洗練とユーザビリティを究めた今までにないデザインを実現し、商業印刷の新たな地平を拓くこと。使う喜びを感じられる、所有する価値を見出せる、プロフェッショナルのパートナーと呼ぶに相応しい道具づくりを目指して、デザイナーはユーザーの気持ちに真摯に向き合い、妥協することなく一つひとつを造り込んでいきました。

水平・垂直で構成された白い筐体と、対照的な黒い立方体の構造物。左右に貫かれた黒とシルバーのライン。iX1700の直感的な美しさは、細部や隠れた部分に至るまで使い手の感覚に共感し、考え抜かれた、意味ある造形が創り出しています。ユーザビリティをどこまでも追い求めたその先に見えてきたのが、シンプルという美を湛えたプロダクトデザインでした。

「稼働」を感じるデザイン

「デジタル印刷機は中の様子がわからない」。デザイン開発の準備のためデジタルプレスの現場を訪れたデザイナーは、そんな声を聞きました。一般的なデジタル印刷機は全体を不透明な金属板で覆われており、稼働状況を目視することはできません。しかし、もしもエンジン部が「ブラックボックス」ではなく、印刷状況を直接視認できるとしたら? オペレーション内容はプロの目で常に把握され、それゆえの操縦感も相まって、エラー発生時にも速やかな対応が可能になるはずです。

印刷の心臓部を可視化する——。その大胆な試みは、「機器の稼働を感じながら業務を遂行したい」という印刷機を操作するオペレーターの純粋なニーズに応えるべく模索を積み重ね、立方体のプリントモジュール部に透明な開閉窓を付けるという解にたどり着きました。設置高さや窓の開き方については、人間工学に基づき綿密に検証。日々の業務であるプリントヘッドのメンテナンスやインク補給が簡単な操作で行えるようにしました。窓が上方向に大きく開くことで左右への動きも妨げることなく、また、透明であるため手元の明るさを保持できる設計となっています。

黒の立方体は白が多い全体の中でひときわ存在感を放ちます。窓を取り囲むベゼルは文字通り額縁としての効果を生み、高性能な印刷技術を強調しています。このベゼルが斜め内側に折り曲がった特徴的な形状をしていることでシャープな印象が生まれ、強度も向上しています。キヤノンの商業印刷機「varioPRINT iXシリーズ」に共通の形状であり、シリーズとしての一体感にもつながっています。

生産性を高める機能デザイン

白を基調に、要所に黒を割り当てたモノトーンの配色。これは印刷物の高精細で鮮やかな色を際立たせ、刷り出しなどの確認作業に集中できるよう配慮したものです。大型機器であっても白が空間に軽やかさをもたらし、一刻一秒を争うような作業時の心理的圧力を軽減します。また、凹凸のないフラットな天面は、仕分け作業などの使い勝手を考慮しています。

本体左右に伸びる黒とメタリックのラインは、右端の給紙部から左端の排紙部へと進む用紙の流れを示すとともに、シンプルな直線の作業動線を表しています。実用性のみ重視されがちな印刷機の外観にスタイリッシュな表情とアイデンティティを付す役割もあります。黒のライン上には「ナビLED」が点灯します。エラー時は赤、注意喚起状態はオレンジの光が灯り、各ユニットの状態を報知するのです。LEDの位置は開けるべきユニットの扉の把手と一致しており、オペレーターは対処すべき所がどこかを離れた場所からも視認でき、直ちに作業に取り掛かることができます。

ナビLEDの光り方は、柔らかいグラデーションの光に見えるよう工夫しています。エラーを示す赤や注意喚起のオレンジが強く主張すると見る人に不安を与えてしまうと考え、細かい部分ではありますが粘り強くこだわりました。また、ユニットの上扉にはダンパーを用いた開閉アシスト機構を搭載し、把手はソフトなタッチで開けやすく閉めやすい形状にしています。忙しい作業のなか扉の開閉動作を意識せず自然に行えるよう意図した造形です。

プロフェッショナルの誇りを生むデザイン

すべてデザインにはデザイナーの想いが込められ、個々に意味を持っています。それは美しさであり、使いやすさや機能性、信頼性であり、使う人、所有する人のモチベーションを高めるものです。iX1700のデザイン開発では、デザイナーが自ら印刷の現場を見て声を聴き、ニーズを掴んだうえで「操作する誇りにつながる道具を使ってもらいたい」という想いを形にすることができました。機能が満たされているだけの機器と、使い手がどう感じるかまで考え尽くされた機器の間には圧倒的な隔たりがあります。デザイナーがユーザーの気持ちに寄り添い、意匠や機構を提案することの意義はそこにあると考えます。

キヤノンは欧州など海外拠点のデザイナーと連携しながら国内外で製品を開発・生産しています。互いにデザインの方向性を擦り合わせながら、協働によって新しいキヤノンブランドの製品を誕生させてきました。iX1700でも、グローバルなプロダクトアイデンティティによって機能的でオリジナリティあふれる高いブランド力を世界に訴求することができたと考えています。創業時からデザインを重要視してきた企業のデザインチームとして、キヤノンらしさを受け継ぎ、デザイン力を鍛えながら、さらなる進化を目指していきます。

アートディレクション 後藤啓志/撮影 早川圭
(総合デザインセンター)

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