人権の尊重
取り組み
人権デュー・デリジェンスの実施
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キヤノンでは、人権デュー・デリジェンスをリスクマネジメント委員会下の活動として位置づけ、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」にもとづき、グループ全体で実施しています。キヤノン(株)各部門および各グループ会社は、サプライチェーンを含むそれぞれの事業活動における人権に対する負の影響の洗い出し、評価および顕著な人権リスクの特定を行っています。その後、事務局は各組織の人権リスクを集約、分析、評価し、ステークホルダーエンゲージメントを経て、キヤノンとしての顕著な人権リスクを特定しています。人権リスクの評価にあたってはRBA(Responsible Business Alliance)が提供する国・地域別の人権リスクインデックスなども参照しています。また、各部門・各社で特定された顕著な人権リスクのうち、現状の取り組みでは不十分と思われるものについては、リスクを防止・軽減するさらなる取り組みを実施しています。
また、新規事業についても人権リスクを評価しています。たとえば、M&Aを行う際にはデュー・デリジェンスの一環として、労働基準や安全衛生などに関する法令の遵守状況を調査したり、新たな取引先と取引を開始する際には、取引先において人権侵害リスクの評価を実施したりしています。
こうしたキヤノンの取り組みが国際労働機関(ILO)による「アジアにおける責任あるバリューチェーン構築」プロジェクト(経済産業省拠出)においてグッドプラクティス事例として収載されたほか、ジェトロのWebサイトで特集記事として紹介されました。
2024年にはインド労働省や関係省庁、使用者団体、労働者団体、日本大使館、企業関係者が参加したイベントでキヤノンの人事部門の既存のモニタリング指標を人権デュー・デリジェンスに活用した事例が好事例として紹介されました。
ウェビナーにてキヤノンの人権デュー・デリジェンスを紹介
2024年3月14日にILO駐日事務所、日本貿易振興機構(ジェトロ)、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)が開催したウェビナー「何から始める人権デューディリジェンス?―日本企業のグッドプラクティスと人権・労働に関するツールのご紹介―」においてキヤノンの人権の取り組みを紹介し、参加者から寄せられた実務に関する質問に対して事例を交えながら回答しました。
外部専門家とのダイアログ
人権デュー・デリジェンスを効果的に推進するために、積極的に外部専門家とダイアログを実施しています。国連開発計画(UNDP)主催の人権研修や法律事務所主催のセミナーへの参加を通じて世の中の最新動向、他社のグッドプラクティスの収集をすることで今後の対応の参考にしています。2024年は、2027年から適用開始となる「欧州コーポレート・サステナビリティ・デュー・デリジェンス指令(CSDDD)」をはじめとした人権分野の法規制情報をセミナーへの参加や専門家との個別ダイアログにより収集し、対応の検討を進めています。
キヤノンにおける顕著な人権リスク
サプライチェーンを含むキヤノンの事業活動において発生する可能性がある顕著な人権リスクとして特定したのは、「人種・性別・宗教等による差別」「ハラスメント」「児童労働」「強制労働」「賃金不払い・低賃金」「過重労働」「労働安全衛生」「プライバシーの保護」など11項目です。これらのリスクについては、下表記載の通り、リスクを防止・軽減するためのさまざまな対応策がとられています。
キヤノンにおける顕著な人権リスク
権利主体 | キヤノンにおける対応 | ||||
---|---|---|---|---|---|
サプライヤー・ 委託先従業員 |
自社従業員 | 顧客・消費者 | 地域社会 | ||
人種・性別・ 宗教等による差別 |
● | ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進 | |||
ハラスメント | ● | ハラスメントの防止 | |||
児童労働 | ● | サプライチェーンにおける人権尊重 | |||
強制労働 | ● | サプライチェーンにおける人権尊重 | |||
賃金不払い・ 低賃金 |
● | サプライチェーンにおける人権尊重 | |||
過重労働 | ● | ● | 過重労働の防止 サプライチェーンにおける人権尊重 |
||
労働安全衛生 | ● | ● | 労働安全衛生と健康経営 | ||
プライバシーの 保護 |
● | ● | 個人情報の保護 | ||
紛争鉱物の調達 | ● | 責任ある鉱物調達への取り組み | |||
事業拠点の 騒音、環境汚染 |
● | 環境 | |||
製品に起因する 健康被害・事故 |
● | 製品責任 |
救済メカニズム
キヤノン(株)は、人権に関する具体的な懸念についての内部通報を受ける窓口を設けています。イントラネットや研修などを通じて通報窓口の周知に努めるなど、適切な利用のための施策を行っています。
さらに、キヤノン(株)では、社外のステークホルダーに対しても窓口を設けています。この窓口を通じて、キヤノンの企業活動にともなう人権に関する具体的な懸念について通報することができます。
社内外向けいずれの窓口においても、通報者のプライバシーを保護し、通報したことを理由として、キヤノンが通報者に対して不利益な取り扱いをすることはありません。また、匿名での通報を可能とするなど、通報者の利便性に配慮しています。
通報を受け付けた事案については、事実関係の調査を行い、最終的に違反の有無の判定を行います。調査の結果、問題があると判断された事案については、必要な是正措置・再発防止策(行為者の処分・異動など、行為者(または該当部門)への注意・指導など)を取っています。
また、従業員が現地語で通報することができる内部通報窓口を国内外のほぼすべてのグループ会社にも設けています。
過去3年間の人権に関する通報事案件数およびコンプライアンス違反が認められた通報事案件数は以下の通りです。なお、人権に関する重大なコンプライアンス違反事例はありませんでした。
人権に関する通報案件数・コンプライアンス違反通報事案件数
(件)
2022 | 2023 | 2024 | ||
---|---|---|---|---|
年間通報事案件数 (各年末時点) |
110 | 94 | 140 | |
調査が完了した通報のうちコンプライアンス違反が認められた通報事案件数 (各年末時点) |
21 | 17 | 27 | |
分類 | 差別・ハラスメント | 16 | 14 | 23 |
労務管理 | 5 | 3 | 4 |
人権啓発活動
ビジネスと人権に関わる基礎的な知識や、「キヤノングループ人権方針」をはじめとするキヤノンの人権に関する取り組みの周知・啓発を目的として、2021年より従業員を対象とした人権研修を実施しています。海外拠点では、その国・地域の特性を考慮して各社で内容を最適化した上で、各言語に翻訳して実施しました。
キヤノングループの人権研修の受講率
年度 | 2021年 | 2022年 | 2023-24年 |
---|---|---|---|
対象 | キヤノン(株) | 国内グループ会社 | 海外グループ会社 |
受講率 | 92.5% | 98.2% | 98.0% |
キヤノンベトナムでは「キヤノングループ行動規範」、RBA行動規範、人権の保護を含むキヤノンベトナムのさまざまな社内ルールを網羅した「従業員ハンドブック」を発行し、職場環境のさらなる改善と会社と従業員の相互理解を深めています。

ステークホルダーエンゲージメント
「責任ある企業行動のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」では、企業が、自らの活動において、実際のまたは潜在的な負の影響を特定・評価し、かかる負の影響に対する防止策や軽減策を考案する時点でステークホルダーとのエンゲージメントを行うことが重要であると規定しています。キヤノンは、キヤノン労働組合のほか、機関投資家、サプライヤー、協力会社のみなさまと対話を実施しています。
エンゲージメント事例1(労働組合)
キヤノンの顕著な人権リスクを特定・評価し、防止策を検討するにあたり、従業員の人権リスクとして考えられる「人種・性別・宗教等による差別」「ハラスメント」「過重労働」「労働安全衛生」「プライバシーの保護」について、キヤノン労働組合と対話を実施しています。2024年は、会社を取り巻く人権対応に関する動向を確認するとともに、女性の活躍、LGBTQ+、障がい者、ハラスメントに関する相談やそれらに対する取り組み内容、その他従業員のキャリア形成やテレワークをはじめとした柔軟な働き方などに関して広く意見を交換しました。その結果は、キヤノンとしての顕著な人権リスクの特定・評価・防止策の検討に反映しています。
エンゲージメント事例2(産業機器協力会社)
キヤノンでは、半導体露光装置などの産業機器の開発・製造・販売事業をグローバルに展開しています。産業機器事業における顕著な人権侵害リスクの一つに、機器の運送や設置にともなう自社および業務委託先従業員の事故や労働災害があります。産業機器は大型かつ重量があることから、安全配慮が徹底されていない場合、挟まれや高所からの転落など大きな事故につながる恐れがあります。キヤノン(株)では、自社従業員に対する労働災害を防止するための取り組みだけではなく、機器の搬入業務の委託先と定期的に情報交換会を開催し、ヒヤリハット事例、ルール違反や問題点を共有し対策を講じることで、労働災害防止につなげています。
従業員の人権尊重
過重労働の防止
キヤノンでは、過重労働のリスクが特に高いとされる海外の生産拠点において、従業員の労働時間を正しく把握するしくみを構築し、その運用状況はキヤノン(株)の人事部門に毎年報告されます。また、2015年にアジア生産会社向けに労働ガイドラインを導入して人権に関する取り組みを始めましたが、2022年、RBAの基準にも適合する形で、新たな労働ガイドラインへ刷新し、国内外すべてのグループ生産会社に対して統一の労働ガイドラインを導入しました。
結社の自由と団体交渉権の尊重
キヤノンは、「キヤノングループ人権方針」において明らかにしているように、結社の自由と団体交渉権を尊重しており、労使の対話を促進することで、労働に関するさまざまな課題の解決に努めています。たとえばキヤノン(株)は、キヤノン労働組合との間で締結している労働協約において、団体交渉を通して会社と組合の双方が正常な秩序と信義をもって迅速に問題の平和的解決に努めることを明記しています。
ハラスメントの防止
キヤノンは、創業以来の人間尊重主義に従い、性別や職種による差別の禁止に加え、「ハラスメントを許さない」という考えのもと、経営幹部をはじめとしてキヤノンで働くすべての従業員にハラスメント防止を周知徹底しています。キヤノン(株)では、セクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの禁止に加え、マタニティハラスメントなどの禁止を明記した「就業規則」「ハラスメント防止規程」を制定しています。同規程を国内グループ会社に周知し、多くのグループ会社では同様の規程が設けられています。また、キヤノン(株)および多くの国内グループ会社では、快適な職場環境の保持を図るために、ハラスメント相談窓口を設置しています。なお、従業員からの相談に関しては、プライバシーの保護など、相談者・協力者が不利益を受けることのないよう徹底しています。ハラスメント防止対策として、キヤノン(株)の各事業所、国内グループ会社の担当者を対象に定期的に連絡会を開催し、相談窓口の運用状況について把握・共有するほか、マニュアルの確認や対応方法の共有を行っています。
また、近年の働き方・生活様式・コミュニケーションスタイルなどの変化にともない、急速に多様化する価値観やハラスメントを取り巻く状況において、ハラスメントについて従業員一人ひとりが正しく理解し、共通認識を持つことが重要となります。2024年にはキヤノン(株)の全従業員を対象として、ハラスメント防止のeラーニングプログラムを実施しました。今後は国内グループ会社へも順次展開していく予定です。
自社生産拠点における人権侵害リスク評価と改善活動
キヤノンでは、2024年に国内外64カ所の自社生産拠点において、RBAのSAQ(Self-Assessment Questionnaire)を用いた人権侵害リスク評価を実施し、児童労働、強制労働がないこと、結社の自由や団体交渉権などの実態を確認し、一部の拠点で発覚したリスクに対し、主に以下の改善を行いました。
- 身分証明書などの個人関連書類の原本を、会社側が保持しないことを規程に明記
- 外が暗い時間帯での避難訓練の実施
- 従業員の障がいや宗教的慣習などに関する要望に対して合理的な配慮をするためのしくみの整備
さらにキヤノンでは、現場確認を含めた内部監査を実施するとともに定期的な外部監査を受審しています。2024年には、国内外22拠点でRBAのVAP監査を受審しました。2025年2月末時点で有効な認証を保持している拠点数は以下の通りです。
RBA VAP監査認証保持拠点※(2025年2月末時点)
取得ランク | 拠点数 |
---|---|
プラチナ | 14 |
ゴールド | 3 |
シルバー | 7 |
- ※2023年にVAP監査を受審し、認証を取得した拠点を含む
なお、2024年に受審した拠点では、以下の項目につき一部指摘を受け、是正を行っています。
2024年に受審したVAP監査で、指摘を受けて改善した項目

RBAのVAP監査を受審して
私たちはRBAの活動を通じて、企業風土が良くなったことを実感しています。
VAP監査に向けて私たちはまず、RBAの要求事項にもとづき内部監査を実施し、年間を通して労働時間が基準を超えていないか、必要な手当が適切に支払われているかなど、現場の実態を確認しました。そして必要に応じて、関連する社内のルールやプロセスを適宜整備・見直すことで、社内の管理体制を改善していきました。また、これらの対応を通じて、人事、安全衛生、調達などの部門間の連携も強化されました。
さらに、「RBA行動規範に対する会社のコミットメントによって、会社がわれわれの人権に配慮していることが感じられた。」という声をきくこともでき、VAP監査に向けた会社の取り組みが従業員に前向きに受け止められているということを実感しました。

キヤノンバージニア
コーポレート コンプライアンス部
児童労働・強制労働・不合理な移動制限の防止
キヤノンでは、国内外の自社の生産拠点において、RBAのSAQを用いた自己点検を行い、児童労働や強制労働および職場や施設内での自由な移動に関して不合理な制限がないことを確認しています。また、強制労働リスクの低減のため、身分証明書などの個人関連書類の原本を会社で保管していないことをSAQを通して確認しているほか、会社が個人関連書類の原本を保持しないことを定めた規程を策定しています。
児童労働を防止するために、入社時の年齢確認を徹底するとともに、万が一、就労可能年齢にいたらない従業員が発見された場合に備えた対応フローを整備しています。また、18歳未満の若年労働者については、時間外労働や夜間勤務、危険な業務への従事を禁止し、健康への配慮を行っています。
サプライチェーンにおける人権尊重
キヤノンは、サプライチェーンにおけるCSRのさらなる向上を目的として、2019年にRBAに加盟しました。RBA行動規範を採用した「キヤノンサプライヤー行動規範」を策定し、労働・安全衛生・環境・マネジメントシステムなどに配慮した調達活動を推進しています。また、主要サプライヤーについては行動規範の遵守に関する同意書を取得するほか、調査票を用いた自己点検を毎年実施することにより、サプライヤーにおける児童労働・強制労働・不合理な移動制限・過重労働などの人権リスクの特定・評価・防止に取り組んでいます。一部の主要サプライヤーについては、キヤノンが自己点検結果の検証や現地監査を行い、必要に応じて、人権リスクの軽減や防止のための助言などを行っています。さらに、経団連の「パートナーシップ構築宣言」に賛同し、不合理な原価低減要請、適正なコスト負担をともなわない短納期発注、急な仕様変更を行わないことや労務費上昇分の影響を考慮した価格設定などを通じて取引先と連携・共存共栄を進めていきます。また、サプライヤーや業界団体と協力しながら、責任ある鉱物調達の取り組みも進めています。また、気候変動や人権など、近年のサステナビリティを実現するための重要課題への取り組み、サプライヤーへの協力要請と調査などの依頼事項をまとめた、「キヤノン サステナビリティ サプライヤー ガイドライン」を2024年7月に発行し、取引先とともにサプライチェーンにおける持続可能な調達の推進の取り組みを強化していきます。

グローバルサプライチェーンにおける社会的責任を推進する企業同盟
キヤノン サステナビリティ サプライヤー ガイドライン(354KB) |
継続的なモニタリング
「キヤノングループ人権方針」で表明した内容の遵守状況については継続的にモニタリングするとともに、人権デュー・デリジェンスについては、継続的に特定・評価手法を改善し、定期的にグループ全体で確認していきます。また、社会的な要請やステークホルダーとの対話、キヤノンの事業状況に応じて、キヤノンの人権への取り組み内容は適宜見直しを行っていきます。
現代奴隷法への対応
キヤノンは、自社およびそのサプライチェーンにおける強制労働、人身取引、児童労働のリスクを確認し、各国の現代奴隷法にもとづき、年次のステートメントを公表しています。