テクノロジー

しくみと技術インクジェットプリンター

手軽に高品位の写真プリントを可能にし低ランニングコストに至るまで多彩なプリントを実現

手軽に高品位の写真プリントができるインクジェットプリンターは、インクやヘッド、紙送り機構などさまざまなノウハウが必要な精密・ケミカル技術の集大成です。

2021/06/03

インクジェットプリンターのしくみ

インクジェットプリンターはパソコンから転送されたデータを処理し、pl(ピコリットル、1兆分の1リットル)単位という極小のインクの滴を紙などに吹き付けて印刷します。プリンターの中ではプリント用紙を少しずつゴムローラーで緻密にコントロールして印刷する場所に送り、プリントヘッドを左右に動かしながら、インクを吐出し着弾させて印刷を行います。インクは印刷の三原色シアン(青緑)マゼンタ(赤紫)イエロー(黄)と黒の組み合わせと着弾の密度によって、さまざまな色を生み出します。プリントヘッドから吐出されるインクの滴は、より小さい方が高解像で滑らかな階調を表現することができますが、インクの滴が細かくなると多くのインクの滴を速く正確に紙に吐出しなければなりません。そのため極小のインクの滴をより速く正確に紙に着弾させる技術の開発も必要です。

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インクジェットプリンターの技術

FINE(Full-photolithography Inkjet Nozzle Engineering)


微細なインク滴をコントロール

キヤノンは、1970年代半ばにインクジェットプリンターの基本メカニズム「バブルジェット方式」を発明後、新発想を加えながら独自技術を育ててきました。その基幹技術が「FINE(ファイン)」です。FINEのインク吐出メカニズムとプリントヘッド製造技術により、印刷品質の画質、階調性、画像安定性が飛躍的に向上しています。


インク滴を正確に打ち出すメカニズム

写真画質の実現には、インク滴の極小化や吐出の高精度化が不可欠です。しかし、旧来の方式では、インク滴を小さくすればするほどプリントヘッドの移動による気流の乱れや、温度変化によるインク粘度変化の影響が大きく、吐出量や着弾位置にばらつきがありました。FINEのプリントヘッドは、一度の発泡でヒーター直下に充填されたインク滴をほぼすべて吐出するため、安定した吐出量を実現できます。さらに、インク滴の吐出速度を旧来の1.5倍以上に高速化し、ヘッドの移動による気流の影響も小さくし、着弾精度を向上させました。




半導体露光装置を用いたナノ精度のヘッド製造技術

インク滴の微細化とプリントの高速化には、より多くのノズルをより広い範囲に高精度につくり込む技術が必要です。FINEのプリントヘッドは、約20×16mmほどの小さなチップに6,000個以上のノズルを並べることができます。これは、キヤノンが得意とする半導体製造技術や独自の材料技術、斬新なプロセス技術を駆使して、ヒーターやノズルを半導体ウエハーに一体形成することで作られています。



ChromaLife100+


写真を美しく長持ちさせる

キヤノンは、純正染料インク1と純正写真用紙の組み合わせにより、アルバム保存約300年、耐光性約40年、耐ガス性(オゾン)約10年、混合ガスで約20年という長期間2にわたって写真プリントを美しく保存できるシステム「ChromaLife100+」を実用化しています。バブルジェット方式のインクジェットプリンターのインクには、ヒーターの加熱による劣化を防ぐ熱安定性、実使用環境で吐出が常に安定する微細な形状(正しい球状)の保持、安全性など多くの性能が同時に求められます。 色における特性として、発色の美しさ、インク濃度の高さ、色あせしにくいという点も重要です。キヤノンの純正染料インクでは、染料構造の変更と写真用紙のインク受容層に添加した堅牢性向上剤により、耐ガス性や耐光性が大幅に向上。さらに、赤領域の色再現性も拡大し、豊かで鮮やかな色の長期保存を実現しています。


  1. 構成要素の1つである色素が水に溶けず粒子のまま残った顔料インクに対し、色素が分子レベルで溶けているインク。
  2. アルバム保存約300年、耐光性約40年、耐ガス性(オゾン)約10年/約20年(混合ガス)キヤノンが加速試験によりシミュレーションしたものであり、保証値ではありません。

プレミアム6色ハイブリッドインク


写真をより美しく繊細に

キヤノンは2018年発売のPIXUS XK80に搭載されたプレミアム6色ハイブリッドインクにおいて、マゼンタインクを材料レベルから開発。赤領域の発色をより鮮やかにすることに成功しました。さらに、新色の「フォトブルーインク」も開発し、シアンインクとマゼンタインクを組み合わせて再現する色領域の色彩表現力を高めると同時に、青色から白色の領域の粒状感を抑えて、風景やひと肌をはじめとした淡い色をより滑らかに美しく見せることを可能にしています。




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