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プリント画質定量評価技術 プリント画質定量評価技術

写真プリントで鍛えた高画質を商業印刷へ

プリント画質定量評価技術

「人がどう感じるか」を点数化する評価・シミュレーション技術の開発により、高速デジタル印刷機の高画質化を実現。グラフィックアーツ印刷の可能性を大きく広げています。

2022/11/22

商業印刷のデジタルシフトに立ちはだかる印刷品質の壁

いま、あらゆる業界で急速に進む「デジタルシフト」。カタログや書籍、チケット、ダイレクトメールなどに代表される商業印刷の世界もその例外ではありません。主流だったアナログのオフセット印刷は、アルミなどでつくられた印刷版を使った版画の原理で印刷する方式で、印刷品質や安定性に長所があり、大量印刷に向いています。一方、デジタル印刷では、デジタルデータに基づいて用紙に直接プリントします。版が不要なため、1枚1枚内容が違うダイレクトメール/請求書で使われるバリアブル印刷や、必要なときに必要な分だけ印刷するオンデマンド印刷を簡単に実現。ペーパーレスの流れが進み、印刷の絶対量は減るなかでも、多品種少量化という印刷ニーズの多様化に対応するデジタル印刷は成長を続けています。

オフセット印刷からのデジタルシフトにあたり、課題となっていたのは高速プリントにおける印刷品質です。インクジェット方式のデジタル印刷は、生産性ではオフセット印刷に対抗できるものの、高速であるがためにオフセット印刷に匹敵する印刷品質をなかなか実現できず、写真やカタログといった画質が重視されるグラフィックアーツなどの分野では、デジタル印刷への置き換えがあまり進んでいない状況にありました。

グラフィックアーツのユーザーにアピールできる高画質を達成するために、キヤノンが取り組んだのは「画質定量評価技術」の確立です。

多品種少部数のニーズに対応するデジタル印刷

多品種少部数のニーズに対応するデジタル印刷

主観評価だった画質評価を数値化

プリンターを開発する際にはさまざまな段階で「画質評価」が行われます。従来、画質をどう評価するかは、人の主観、すなわち「人が感じる画質印象」を頼りにしていました。しかし、画質に関する「着目点」や「基準」が人それぞれ異なるため、信頼できる評価結果がなかなか得られませんでした。

1960年代から電子写真方式、1970年代からインクジェット方式と、デジタルプリントの2大技術をいちから開発してきたキヤノンは、デジタルプリントの先駆者として、開発の基盤になる画質評価技術をしっかり確立する必要性に早くから気づき、開発に取り組んできました。

画質を主観で評価する代わりに、基準を数値で表す(定量化する)ことをめざし、長年培った写真画質の評価をはじめ、電子写真プリンター、インクジェットプリンター、そしてカメラやレンズの開発で磨いた評価のノウハウを結集。人が感じる画質印象をノイズ(スジ・粒状性)、文字ライン、シャープネス、色、光沢に分解し、5つの評価項目として設定しました。そして、各評価項目を端的に表現した評価チャートを作成し、その評価チャートを基準とした主観評価を行うことで、「着目点」や「基準」が一致した信頼度の高い主観評価値を、評価項目ごとに取得しました。さらに、高精細スキャナーや測色器などの「計測器の読み取り特性」と「人の視覚特性」との対応関係を測定しました。これらの結果を用いて、スキャナーなどを使った計測値を主観評価値と対応させる変換手法を各評価項目に定義し、画像の計測値から「人が感じる画質印象」を数値化できるようにしました。このような評価技術を確立することで、人によらず・経験によらず、世界のどこでも共通の画質評価ができるようになりました。

キヤノンにおいて、インクジェット商業印刷プリンターは、帳票や明細書などバリアブル印刷の分野で特に高い実力を発揮し、オランダやドイツに拠点があるキヤノンプロダクションプリンティング(以下、CPP)が開発・生産を担っています。グラフィックアーツを扱う高速インクジェットプリンターの開発は、日本のキヤノンと欧州のCPPの双方が綿密に協力。その過程で画質定量評価を共通言語として開発が進められました。

5つの画質定量評価項目

5つの画質定量評価項目

高速インクジェット印刷の悩みだったスジとざらざら感を
画像処理技術で解決

高速性が求められる商業印刷用のプリンターでは印刷幅いっぱいにインクノズルを配置した横長のプリントヘッドで印刷するラインヘッド方式と呼ばれる方法が採用されています。このラインヘッド方式では、ノズルごとに微妙に異なるインクの濃さの影響や、ノズルの目詰まりによるスジ(バンディング)が出やすくなります。

スジを目立たなくさせるために、「ノイズ」を意図的に画像に入れてぼかす印刷手法もありますが、ノイズの入れ方次第で粒状性(ざらざら感)が生じることがあります。写真集やカタログといったグラフィックアーツにおいては、スジやざらざら感があっては商業印刷物としての価値がありません。

スジとざらざら感はトレードオフ(二律背反)の関係がありますが、高画質が求められる商業印刷において、画質定量評価技術を活用して画質の確認を行いながら、キヤノンが培ってきたインクジェットプリントの高度な画像処理技術で解決していきました。

スジの解消では、印刷前にスジを測定するチェックパターンをプリント。プリントヘッドのすぐ先に配置されたラインセンサーが読み取ったスジから、ノズル一本一本の状態をチェックします。

この結果に基づいてスジが目立たなくなるように、濃度が不足しているノズルはインクを増やし、濃度が過剰なノズルはインクを減らすことによって、ノズルごとにインク量を補正します。さらに目詰まりを起こしているノズルは左右のノズルを使って補います。そして、印刷中にも定期的にチェックパターンをプリント。改めて補正し直すなど、印刷の最初から最後まで、スジのない画質を実現しました。

スジのない画質を実現(varioPRINT iXシリーズ)

スジのない画質を実現(varioPRINT iXシリーズ)

一方、ざらざら感をなくすための画像処理は通常、ノズルごとのインク量が均一であることを前提に、製品を出荷する前にパラメータ設計(ドットの配置パターン)が決められています。しかし、「ざらざら感をなくすこと」だけを考慮したドット配置にすると、スジを消す目的でノズルごとのインク量が補正されるためにドット配置が変わり、別のざらざら感が生じる心配がありました。そこで、キヤノンはこの問題による影響が出ないよう、新パラメータを開発。画質定量評価技術を利用して、設計~開発~評価のサイクルを効率的に進めることで、高速インクジェット印刷で難しかった、スジにもざらざら感にも妥協しない安定した高画質化を達成しました。

グラフィックアーツ分野の多様なニーズに応える

キヤノンとCPPの連携のもと製品化された商業印刷用高速カットシートプリンター「varioPRINT iXシリーズ」は、前機種と比べ、特に写真などの画質が格段に進化。グラフィックアーツ市場から新たに多くの受注を獲得しています。また、世界有数の独立評価機関 米国Keypoint Intelligence社の「BLI 2021 Outstanding Innovation Awards in Production Print」も受賞。デジタル印刷市場のさらなる拡大に向けて、グラフィックアーツの多品種少量印刷の需要をはじめ、多様なニーズに応えていきます。

画質定量評価技術は、印刷物の測定結果に基づいて評価値を定めるため、世界中どこでも安定した画質評価を行うことができます。品質向上という面からも、今後グローバルに活用の場が増えていくことが期待されています。

varioPRINT iXシリーズ

varioPRINT iXシリーズ

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