多様な撮影環境でも人物を認証。AIで「顔」を見分ける映像解析技術
顔認証技術
スマートフォンのユーザー認証やオフィスの入退出管理、決済時の本人確認など、本人を識別する技術として使われるようになった顔認証。技術の進化によって精度が上がり、さまざまな分野で活用が広がっています。
2022/02/21
利用が広がる顔認証
顔認証は、カギや暗証番号、パスワード設定などが不要で、紛失・盗難・失念などのリスクがありません。また、指紋認証や静脈認証のように機器を操作する必要もなく、非接触で認証できることから、衛生面でも安心なほか、入退出の証拠が残るといったメリットがあります。例えば、ウォークスルーゲートにおいては、カメラの前で立ち留まることなく本人確認ができるため、スムーズな入退出が可能になります。
ウォークスルーゲートでの顔認証イメージ
一方で顔認証には、明るさ・逆光や顔向きの違いなどによる映り方の差、髪型や顔の経年変化、メガネやマスクの着用などによって認証精度が低くなるといった課題があります。
認証が難しい例
顔認証のメリット
① 利用者は手ぶらでよく、簡便
② 非接触で衛生的
③ カメラがあればよい(専用機器不要)
④ 紛失や盗難リスクがない
顔認証の課題
① 逆光・顔向きなどの撮影環境の違い
② 髪型の変化や顔の経年変化
③ メガネ・マスク着用時の変化
ディープラーニングで高精度に顔を認証
顔認証は、事前にデータベースに登録された顔画像と、認証を行いたい場所・場面で撮影した顔画像を一人ずつ自動で照合して、類似度が一定の値を超えれば同一人物と判定するしくみです。
顔認証技術は、AI技術のひとつであるディープラーニング(深層学習)によって大きく進展してきました。ディープラーニングは、人間の脳の機能をコンピューターで実現する「ニューラルネットワーク」の階層構造を、さらに深めて多層化した「ディープニューラルネットワーク(DNN)」を用いた学習です。DNNによる顔認証では、膨大な顔の情報をコンピューターが事前に学習して作成したDNNモデルを用いて撮影された顔の特徴を抽出・照合することで、人間の判別能力以上に高精度な識別が可能です。さまざまな人種や年齢の顔画像を教師データとして大量に読み込むことで、同じ人物が近い特徴量になるように学習して、高い認識精度を達成できるようになります。
顔認証の流れ
課題を解決するキヤノンの顔認証技術
キヤノンは、これまでに培ってきたデジタルカメラやネットワークカメラの映像解析技術を顔認証技術にも生かしています。大規模データベースの整備、高精度と高速性を両立する独自のAIディープラーニング設計技術により、従来の技術では判定が難しい画角の画像や低画質画像に対しても、高精度な顔認証を可能にしています。
キヤノンでは、一般的な写真画像に加え、高い場所に取り付けられたネットワークカメラからの見下ろし画角の画像や、悪条件下で撮影したブレやノイズが発生した低画質な画像など、大規模で多様な顔画像データベースを整備し、DNNモデルの学習を実施。逆光や顔向きなどの撮影環境の違い、髪型の変化や経年劣化に対応します。さらに、同一人物なら近い特徴量、類似している他人の顔は離れた特徴量になるように学習をさせて、判別が難しい画像でも高い認証精度を実現しています。また、マスクやサングラスの着用時についても、膨大な画像データを自社内で作成して学習に投入するなど、顔の一部が見えない場合でも高精度の照合・判定を行うことを可能にしています。こうした学習方法の工夫に加え、複数のアルゴリズムを最適に組み合わせることにより、ウォークスルーなど多様な撮影環境下でも安定した精度の顔認証を実現しています。
特徴のばらつきがあっても本人と他人が離れた特徴量になるように学習
キヤノンの顔認証技術の特徴
① 見下ろし画角が大きい、正面から外れている顔画像でも高精度
② 低解像度、ブレや低画質の画像に強い
③ マスクやサングラスを着用していても高精度に判定
権威あるテストで高評価を獲得
2021年、NIST(米国国立標準技術研究所)が主催する顔認証のベンチマークテスト「FRVT※1」において、キヤノンは多人数の顔のなかから特定の人物を探し出す「1:N照合」のInvestigationにおける4つのカテゴリーで、日本1位、世界トップクラスの検索精度を達成※2しました。特に、正面から良好な照明条件下で撮影した「入国審査書類用の顔画像(Visa)」と、そうでない画像を含む「入国審査ゲートで撮影された顔画像(Border)」との間で認証する「Visa Borderカテゴリー」でのエラー率(本人を他人として誤推定する確率)は0.15%(ベンダー順位:日本で1位、世界4位)となり、多様な撮影環境下での安定性を示しました。
多人数から特定の人物を探し出す「1:N照合」
FRVTは年間を通して随時実施され、評価方法は公開されていませんが、NISTが持つ1200万人分の大規模データを利用してすべての参加団体が公平に評価されることから、業界標準のベンチマークテストとして位置づけられています。2021年のテストでは、ロシアや中国をはじめ、世界各国から提出された300を超えるアルゴリズムを評価。キヤノンの高い認証精度が証明される結果となりました。【プレスリリースはこちら】
カテゴリー |
内容 |
Visa Border |
入国申請書類用の顔画像(Visa画像)と、入国審査ゲートで撮影された顔画像(Border画像)を利用するテスト。Visa画像は正面で良好な照明条件下で撮影。Border画像には正面向きでない画像や、照明環境が良好とはいえない条件下で撮影された画像を含む |
Mugshot Webcam |
ほぼ正面の顔画像(Mugshot画像)と、安価なカメラで撮影された顔画像(Webcam画像)を利用するテスト。Webcam画像には、正面向きでない画像やコントラストの良くない画像、解像度が低い画像を含む |
Visa Kiosk |
入国申請書類用の顔画像(Visa画像)と、旅行者用キオスク端末で撮影された顔画像(Kiosk画像)を利用するテスト。Kiosk画像には顔が下を向いている画像や、顔の一部がはみ出ている画像を含む |
Mugshot Profile |
ほぼ正面の顔画像(Mugshot画像)と横顔(Profile画像)を利用するテスト |
キヤノンが日本1位となったNIST顔認証ベンチマークテストFRVTのカテゴリー
(「1:N照合」のInvestigationにおいて)
広がる顔認証技術の活用
キヤノン独自の顔認証技術は、すでにさまざまなソリューションへ活用が進んでいます。2021年12月には、天井や壁に設置しているネットワークカメラの映像から、専用の端末の前で立ち止まることなくすばやく高精度な顔認証を実現する「スマートフォーカス顔認証 for Milestone XProtect」の提供を開始。キヤノンのネットワークカメラと連携し、顔の明るさに合わせて露出を自動で補正するなどして、逆光や時間帯によって明るさが変化する環境でも、スムーズに顔認証を行うことを可能にしました。
キヤノンはプライバシーに十分配慮をした上で、今後も日本国内で開発した独自のAI技術を駆使した顔認証技術にさらに磨きをかけ、デジタルカメラやネットワークカメラと組み合わせた映像解析ソリューションを提供していきます。
幅広い顔認証の活用領域