テクノロジー

国立がん研究センターと2023年4月より臨床研究を進めているフォトンカウンティングCT 国立がん研究センターと2023年4月より臨床研究を進めているフォトンカウンティングCT

体内物質までも識別可能な次世代CT

フォトンカウンティングCT

疾病の早期発見、早期治療への関心が年々高まっています。そこで、検査時間が短く、病院での普及台数も多いCT装置に注目が集まっています。そのなかでも、さまざまな性能改善が期待されているフォトンカウンティングCTには大きな期待が寄せられています。

2023/9/22

高まるCT装置への期待

急速な高齢化の進展により、健康増進や疾病予防に対する需要はこれまで以上に高まっています。
CT装置(コンピューター断層撮影。以下、CT)は、MRI装置(磁気共鳴画像。以下、MRI)に比べて検査時間が短く、頭部や心臓、腫瘍など適用範囲が広いうえに、鮮明な画像を得られることなどの特長があり、多くの病院で導入されています。その一方で、X線を使用するため、患者さんの被ばくリスクを考慮する必要があります。
そこで、被ばく量を少なくしながら、より高精細な画像が得られる、フォトンカウンティングCT(以下、PCCT)の登場が望まれています。

被ばく量を減らし、体内物質まで識別するPCCT

キヤノンが臨床研究を進めるPCCTは、光の最小単位であるフォトンを数えて診断画像をつくり出しています。
従来のCTとPCCTのしくみを水とバケツにたとえると、従来のCTはフォトンというさまざまな色のついた雨粒をバケツにためたあとに水量を測定します(図1)。この測定方法だと、直接フォトンを数えることができずに、大体の数で計測するためフォトンの数に誤差が発生します。

フォトンカウンティングのしくみ(図1)

雨粒の色は、フォトンのエネルギー情報を表していて、それぞれに異なっていますが、バケツのなかで雨粒の色が交じりあってしまうので、個別のフォトンのエネルギー情報を取得することができません。

一方、PCCTは、フォトンという雨粒を一つひとつ高速に計測が可能です。雨粒を個別に計測することで、雨粒と回路ノイズといわれるチリを別々に識別できるため、画像のノイズを排除でき、結果としてより低被ばくで、より鮮明な画像を得ることができます。

また、雨粒の色一つひとつを識別できるので、フォトンそれぞれのエネルギー情報の取得が可能となります。すべての物質は、その物質内を透過するフォトンの減衰(吸収や拡散などにより次第に減少していく現象)量に関して固有のエネルギー応答特性をもちます。そのため、取得されたエネルギー情報を活用することにより、体内物質に関する情報も高精度に取得することができるようになります。

このフォトンカウンティングのしくみをもったPCCTにより、体内物質が悪性度の高い腫瘍なのか、どれだけの造影剤の量なのかといった判別もできることが期待できます。より効率的に診断が行えることにより、患者さんの負担を軽減できるとともに、確実な治療へとつなげることをめざしています。

フォトンカウンティングの要、特殊な半導体を活用した検出器

PCCTの技術そのものは決して新しいものではなく、技術的な原理自体は1970年代から知られていました。PCCTは、X線を受け取る部分である検出器の性能が非常に重要です。キヤノンは、検出器にテルライド、カドミウム、亜鉛の化合物でできた半導体(以下、CZT)を採用しています。

CZTは、CTの検出器に使用できれば技術的に最も大きなメリットがあるといわれていましたが、これまではその量産技術の確立が非常に困難でした。特に、PCCTとして要求される性能を実現しながら、安定した品質で半導体を製造することに大きな課題がありました。

その状況を大きく変えたのが、2021年にキヤノングループに加わったレドレン・テクノロジー社がもつ技術でした。レドレン・テクノロジー社は、CZT半導体を製造するノウハウに長け、安定した品質を実現し、フォトンカウンティング検出器の実用化に目処をつけたのです。

予防から予後まで患者さんに寄り添う

PCCTは、低被ばくであるため、予防的な観点での使用が広がっていくことも期待されています。診断精度の向上と体内物質の高精度な識別が実現されれば、治療方法の迅速な判断につなげることが可能です。

予後では、たとえば、がんの診断などで、今後の治療の要否を正確に確認することも期待できます。PCCTは、予防から予後までという広い範囲をカバーできるため、患者さんの健康維持・向上に寄与することが見込まれます。

PCCTで撮影した胸部画像


キヤノンは、2023年4月より、国立がん研究センターとPCCTの臨床研究を開始し、医療機器としての効果測定や、安全性を検証しています。臨床研究を進め、新たな診断方法の開発や臨床的な有用性を検証することで、PCCTの早期実用化をめざしていきます。

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