闇夜で船舶の種類までも確認が可能なカメラ
超高感度カメラ
高性能なセンサーだけでは、高い品質の超高感度カメラをつくることはできません。キヤノンは、センサーに加え、レンズ、画像処理を自社で開発しており、これらを複合的に組み合わせて製品化を実現しています。
2023/10/16
市場のニーズに応えた製品開発
沿岸の警備、発電所などの重要なインフラ施設や河川の氾濫などの監視においては、目視が困難な暗闇や遠方でも、いち早く対象物を発見できる高度な監視システムが求められています。
約5km先の夜間の実写画像(使用レンズ:CJ45eX13.6B IASE-V H)
キヤノンはそのような要望に応え、低ノイズを特長とするカラー撮影用SPADセンサーを搭載したレンズ交換式超高感度カメラ、MS-500を世界で初めて※1製品化。超望遠性能をもつ放送用レンズと組み合わせることで、闇夜でも数km先の船舶を鮮明に撮影することが可能です。船舶を発見するだけでなく、船舶の種類までも確認できるようになります。
SPADセンサーのしくみ
カメラで広く採用されているCMOSセンサーは、ある一定時間に画素にたまった光の量を測るしくみを採用しています。蓄積された電気信号を読みだす際、ノイズも混在するため、特に暗い所での撮影において画質の劣化につながるという課題があります。
一方、MS-500に搭載するSPADセンサーは、画素に入ってきた光の粒子一つひとつ(以下、フォトン)を数える「フォトンカウンティング」というしくみを採用しています。画素にフォトンが入るとすぐに電荷(電気の量)に変換されます。その電子は雪崩のように増え、大きな信号電荷として取りだすことができます。一つひとつのフォトンをデジタルに数えることができるため、読み出しの際にノイズが発生しないことが大きな特長です。
これにより、星の出ていない闇夜のような暗い環境下でも、わずかな光を正確に検出し、被写体を鮮明にカラー撮影することが可能です。
センサーを搭載するだけでは終わらない製品開発
キヤノンは、世界最高画素数の約320万画素※2 1.0型SPADセンサーを開発しています。このセンサーを搭載する超高感度カメラの製品化にあたり、さまざまな課題を解決する必要がありました。
既存の高感度カメラに搭載されているCMOSセンサーとSPADセンサーでは、そもそもセンサー構造が異なるため、センサーの特長を生かし性能を最大限に引きだすには、電気回路、画像処理などで工夫が必要でした。たとえば、従来では、低照度環境で画像ノイズに埋もれて見えなかった映像が、読み出しノイズのないSPADセンサーでははっきりと見えてきます。そのため、いままでノイズに埋もれて気にする必要のなかった映像の細部に対しても気を配り、補正処理を含め、エッジ(映像の輪郭)強調や階調処理、色処理など、画づくりに関係するすべての項目について見直しを行い、一つひとつ解決していきました。
眼に見えない、ごくわずかな光をとらえる (4分13秒)
さまざまな技術をもつキヤノンならではのアドバンテージ
夜間の港湾の監視などでは、船舶の動きをとらえることはもちろん、船体の文字などもしっかりと確認できる高い技術力を必要とします。そこで大切になるのは、映像としてのバランスです。
キヤノンは、SPADセンサーをはじめ、放送用レンズ、カメラの映像エンジンなどを自社で開発・製品化し、それらの特性を深く理解しています。MS-500は、各デバイスの特性と知見を十分に生かして製品化を進めました。センサーやレンズの性能の良さを引きだしつつ、解像感や階調・色再現性の基本性能を上げるなど、各関連部門との連携により映像としてのバランスを整えました。
高感度カメラに搭載される約320万画素1.0型SPADセンサー
今回、約320万画素のSPADセンサーが、超高感度カメラに搭載されたことは大きな一歩です。キヤノンは、これからも市場のニーズを常に意識しながら、優れた製品を実現化し、事業活動を通して新たな価値を創造していきます。