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従来よりも少ないX線照射量で、高精細な画像の取得が可能に

患者さんの負担が軽減される次世代CT

広島大学病院とキヤノンメディカルが共同研究を進める「フォトンカウンティングCT」。従来よりも少ないX線照射量で高精細な画像を取得でき、腫瘍の悪性度なども正確に判別できることが期待される次世代の画像診断装置です。実際に使用した先生からは、「X線照射量を10分の1に減らして撮影しても画質がかなりよくて驚きました」という声も。新しい医療の実現に向けて臨床研究が進められています。

2024年10月23日

患者さんに寄り添った新しい医療を探求

広島大学病院は厚生労働省より「特定機能病院」「がん診療連携拠点病院」「高度救命救急センター」に指定され、高度先進医療を担う病院として地域医療にも大きく貢献し、広島県において中心的な役割を果たしています。「新しい医療の探求」を理念の一つに掲げ、患者さんに寄り添いながら、高度で安全な医療の提供をめざしています。また、国内の医療機器メーカーと共同で患者さんの被ばく量低減につながるCT技術を研究し、日本から世界に向けて優れた技術を発信していくことを推進しています。

高度な医療に欠かせないのが画像診断装置です。広島大学病院放射線部長の粟井和夫先生とキヤノンメディカルシステムズ(以下、キヤノンメディカル)は、従来のCT装置より少ない被ばく量で高精細な画像が得られる、次世代のCT(コンピューター断層撮影)装置「フォトンカウンティングCT」(以下、PCCT)の臨床研究を共同で進めています。

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広島大学病院
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広島大学大学院医系科学研究科
放射線診断学研究室 教授
広島大学病院 放射線部長
粟井 和夫先生

X線照射量を大幅に減らせる可能性も

脳、心臓などの臓器、あるいは血管や骨にいたるまで、全身のいろいろな部位の検査に使われるCT装置。体の周りから照射し通り抜けたX線を検出器で読み取り、コンピューターで精密な断層画像をつくり出します。CTは一般的に、X線照射量と画像のノイズが反比例する関係にあり、X線照射量を多くすることで高精細な画像が得られますが、そのぶん被ばく量が増加し、患者さんの負担が増えてしまいます。しかし、X線照射量を減らすと画質が劣化し、不鮮明な画像になってしまいます。

こうしたトレードオフの関係を解消し、「低被ばく」と「高精細」を両立する次世代CTとして注目を集めているのが、PCCTです。「数多くあるPCCTのメリットのなかで、やはり一番は、患者さんの被ばく量を減らせることです」と粟井先生はいいます。従来のCT装置は、光の最小単位であるフォトン(X線光子)を一定数ためてから、フォトンの量を計測することで、診断画像をつくり出しています。この方法では、一度フォトンをためてからまとめて計測するため、ノイズも一緒に測ってしまいます。一方、PCCTは、一つひとつのフォトンを高速かつ正確に数える方法のため、ノイズも識別することができ、結果としてノイズを排除した高精細な画像を得ることができます。たとえば、治療効果の判定や再発がないかの確認などのためにCT検査を頻繁に受ける必要のある患者さんにとって、PCCTは少ないX線照射量でノイズの少ない画像を得られるため、負担軽減につながります。

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キヤノンメディカルのPCCTで撮影した画像をはじめて見た粟井先生は、「従来のCTでは見えなかった細かいところまで鮮明に見える画像が出てきてすごく感動しました」と当時の心境を語ります。「従来は見えにくかった骨や肺などの細かい部分まで見えるので、骨の疾患や肺がんなどの診断が変わってくるのではないかと期待しています」。

さらにX線照射量を10分の1に減らして撮影したところ、それでも画質がかなりよくて驚きました。臓器には、X線照射量を減らしやすい臓器とそうでない臓器がありますが、臓器によっては、被ばく量を9割近く減らせる可能性があります」と、粟井先生は大きな期待を寄せています。

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PCCTで撮影した画像を確認
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従来のCTで撮影した画像とPCCTで撮影した画像

体内の物質識別により、腫瘍の悪性度判定などにも期待

一つひとつのフォトンを正確に計測できることに加え、PCCTでは、体内の物質を透過したフォトンそれぞれのエネルギー情報を取得し判別する「マルチエネルギースキャン」が可能です。そのため、体内物質に関する情報も高精度に取得できるようになります。

従来のCTでは、組織や臓器の病変がある箇所を見つけやすくするために患者さんにヨード造影剤を投与しますが、細い血管や消化管など血流が乏しい組織や臓器は、ヨード造影剤が入りにくい場合があります。マルチエネルギースキャンにより、どの部分にどのくらい血液が流れているのかを定量化できるようになるため、虚血などの症状を視覚的に判断できるようになると期待しています。また、腫瘍の悪性度が高いかどうかなども判別できるようになる可能性があります」と粟井先生。

  • ※臓器や組織に流入する血液の量が必要量に対し著しく減少した状態。

PCCTでは、複数の造影剤を同時に投与することも期待できます。これまでのCTでは、造影剤を物質ごとに識別することができないため、使用できる造影剤がヨード造影剤の1種類に限られていました。しかし、PCCTでは、物質をエネルギーごとに識別できるため、血流が乏しいところには入り込みにくいヨード造影剤に加えて、血流が乏しいところにも入り込めるほかの造影剤も使用できるうえ、ヨード造影剤とあわせて2種類以上の造影剤を同時に投与できます。「たとえば血液中でできた血の塊(血栓)が血管を閉塞してしまう血栓症の診断の際は、血の塊と、新鮮な血それぞれにくっつく2種類の造影剤を投与して、体の中の動脈硬化を画像化、視覚化するなどの研究が進んでいくでしょう。今まで使われたことのないような新しい物質が造影剤の候補として検討されています」。PCCTにより、従来は鮮明に撮影できなかった部位の病変を診断できる可能性があるのです。

日本から世界へ優れた技術を発信していく

粟井先生は「PCCTは臨床でのいろいろな可能性を秘めています」と話します。装置の特性を見ながら具体的な臨床活用へのイメージと、それを検証するための研究テーマの検討が進められています。マルチエネルギースキャンについても、分析結果がどのように診断に影響するのかについての探索を開始しています。「従来見えなかったものが見えるようになるなど、画像診断の精度が向上することは間違いありません」と、粟井先生はPCCTの将来性を力強く語ります。

キヤノンはこれからもよりよい医療の実現に向けて、広島大学病院とともにPCCTの研究開発を加速させ、新たな臨床価値の追求を図っていきます。

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広島大学病院放射線部とキヤノンメディカルのメンバー

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