キヤノンサイエンスラボ

テレビと液晶

太陽の光や照明のほかに、日常的に見ている光には何がありますか。
テレビやスマートフォン、コンピューターなどで文字や映像を見るときに欠かせないのが、ディスプレイ(情報表示装置)です。ディスプレイにはさまざまな方式がありますが、20世紀は「ブラウン管ディスプレイ」が広く使われていました。
しかし、いまは「液晶ディスプレイ」が主流になり、テレビ、スマートフォン、タブレット端末、ノートパソコン、ゲーム機、デジタルカメラ、カーナビ……と、多方面で活躍しています。また、新たな装置として有機ELディスプレイも急速に普及しています。

ブラウン管は電子線で光る

かつてテレビの主流だったブラウン管は、内部を真空にしたじょうご型のガラス容器です。根元の部分に電子銃という装置があり、ここから画面(の裏側)に向けて電子を飛ばします。画面裏側には「光の三原色(赤、緑、青)」の光を出す3種類の蛍光体が塗られていて、電子が当たるとその強さに応じた明るさで光ります。電子の進む方向は磁力で曲がるので、電子銃の近くにある偏向コイル(一種の電磁石)の磁力を調節して画面のさまざまな場所に当てます。画面各部分の赤、緑、青の明るさを変化させて、さまざまな色の画像を表現する仕組みです。

しかしブラウン管は電子を放出するために高い電圧が必要で、電子銃などの装置が大きく重いのが欠点です。大きな画面全体に電子を当てるためには電子銃から画面までの距離が必要で、薄型化にも限界がありました。特に軽さや小ささが必要な携帯機器には利用しにくかったのです。

結晶と液体の両方の性質を持つ「液晶」

現在のテレビや携帯機器の多くでは、ブラウン管よりはるかに軽くて薄くコンパクトな液晶ディスプレイが使われていますが、そもそも「液晶」とは何なのでしょうか。
「液晶」とは、液体でありながら結晶のような性質を持つ物質の状態のことです。ふつうの物質は温度が上がっていくと、固体から液体に、さらに気体にと変化します。これは物質を作っている分子の結びつきや並び方が変化するためです。しかし物質の中には、固体から液体に変化する途中で、結晶(ふつうは固体)のような分子の結びつきや並び方のまま、液体のように流れるものがいくつかあります。この「結晶(固体)と液体の性質をあわせ持つ」状態のことを、液晶と呼びます(*1)。身近なところではイカスミや石けん水のようなものも液晶なのです。

最初の液晶物質は1888年、オーストリアの植物学者 ライニッツアによって発見されました。安息香酸コレステリルという物質が固体から液体に変化するとき、14℃でいったん白くにごった液体のような状態になり、179℃という高い温度で透明な液体になることを見つけたのです。白くにごっているときには性質は液体ですが、結晶のような分子の並び方を持つことがわかり、固体や液体、気体などとは異なる物質の状態だと考えられました。のちにこの状態が「液晶」と呼ばれるようになります。

液体は分子同士がゆるく結びついて流動しますが、結晶は分子が規則正しく並んでいます。光が規則正しく並んだ分子を通ると、通り抜けた光の性質が変化することがあります。例えば分子が棒のような形のとき、“棒”の向きが一方向にそろっていると偏光(*2)という現象が起きます。そして、さまざまな液晶状態を示す物質の中には、電圧をかけることで分子の並ぶ向きが一方向にそろうものがあります。これが液晶ディスプレイに使われる液晶物質です。

注*1…もともと「液晶」は物質をさす言葉ではなく、状態を指す言葉です。しかし最近では、液晶状態になる物質そのものも液晶と呼ぶことが多くなっています。

注*2…光は波の性質を持っているため、普通さまざまな方向に振動しながら進んでいますが、この向きが一方向にそろうのが偏光という現象です。

液晶分子のねじれを利用して光を調節

液晶ディスプレイの構造はおもに、配向膜という溝がついた膜をはった2枚の透明電極板と、透明電極版にはさみ込まれた液晶物質、透明電極版の前後に配置された2枚の「偏光フィルター」の組み合わせでできています。偏光フィルターは1つの振動方向の光だけを通すフィルターです。
ディスプレイの後ろ側には光源*3が配置され、光を出します。光はさまざまな方向に振動しながら進みますが、1枚目の偏光フィルターを通ると振動の向きが一方向だけになり(偏光し)ます。その後、透明電極板、液晶物質、2枚目の透明電極版を通って2枚目の偏光フィルターに届きます。
しかし、2枚の偏光フィルターは90度ねじれたように配置されているため、1枚目の偏向フィルターを通った光はそのままでは2枚目の偏光フィルターを通り抜けることができません。2枚の透明電極板と挟まれた液晶物質によって光の振動の向きが90°ねじれるように変化することで、光は2枚目の偏光フィルターを通り抜けることができるのです。


偏向フィルターで一方向の光(赤)だけが通り、他の光(青)はさえぎられます。電源がオフの場合、2つの透明電極版に張られた配向膜の間にある液晶分子の並びのねじれと同じように光はねじれ、2枚目の偏向フィルターを通り抜けることができます。

この「光の振動方向を90度ねじる」はたらきを担うのが、配向膜と液晶物質です。
液晶物質の分子は、配向膜の細かい溝に接するとその溝にそった向きに並びます。2枚の透明電極に貼られた配向膜の溝は互いに90度に交差しているため、液晶物質の分子は光源側の配向膜から出力側(目に近い側)の配向膜までの間で、少しずつねじれて向きを変えています。光が液晶物質を通り抜けるとき、振動方向は分子の向きにそって変化するので、通り抜けたあとは90度変化します。つまり、2枚の偏光フィルターの間で光の振動方向が90度ねじれるので、光が通り抜けるのです。
そして透明電極板に電圧をかけると、今度は液晶分子が溝の向きにではなく電圧の向きにそろうので、ねじれがなくなります。光のねじれもなくなり、1枚目の偏光フィルターを通った直後と変わらないため、2枚目の偏光フィルターでさえぎられてしまいます。この2つの状態は電圧で自由に変えることができるので光の通り抜ける量が調整でき、画面上の1点1点の明るさを黒から白まで調節できるのです。


電源がオンの場合は、2枚の配向膜の間の液晶分子が電圧で分子の並びが変わってねじれがなくなり、光は直進します。直進した光は2枚目の偏向フィルターでさえぎられ、光は通りません。

さらに、青、緑、赤のフィルターを組み合わせることでフルカラー表示が可能になります。これが液晶ディスプレイの基本的な仕組みとなりますが、実際には、液晶のねじれの角度や分子の向きのそろえ方などによって「TN型」や「STN型」、「IPS型」、「VA型」などの種類があります。

*3 蛍光ランプが主流です。電卓や時計では反射板のこともあります。


液晶ディスプレイのこれまで

実は、液晶ディスプレイが実用化されはじめたのは、そんなに古いことではありません。ライニッツアの発見後、ふたたび液晶が注目されたのは、1960年代になってからです。63年にアメリカのRCA社のウィリアムズが液晶に電圧をかけると光の通り方が変化することを発見、68年に同社ハイルマイヤーがこの性質を応用した表示装置を作りました。商用化は78年です。このように開発にブランクがあったのは、液晶ディスプレイには半導体電子工学の進歩が必要だったからです。

液晶で複雑な図形などを描くには、画面に微細なマス目(「画素」といいます)のひとつひとつにオン・オフする電極を付け、光を通す、通さないをコントロールしなくてはなりません。カラー化するには画素にフィルターの装着も必要です。きれいな絵を表示する何万画素ものディスプレイを実現するには、半導体集積回路技術で使われるフォトリソグラフィ(光微細加工技術)の応用がなければなかったのです。

プラズマディスプレイ

液晶ディスプレイは大型化が進み、40型を超える大画面テレビが一般に普及するようになっています。80型を超えるものも実用化されるようになってきました。
液晶ディスプレイのように、薄型で大画面を実現するフラットパネルディスプレイ(FPD)には、プラズマディスプレイもあります。プラズマディスプレイは、放電現象で光る蛍光灯の原理を応用しています。
プラズマディスプレイのパネルのセルには、キセノンなどの希ガス元素が封入されています。セルに形成されている電極に電流が流れて電子が放出されると、気体の原子と衝突、原子核から電子が離れて不安定な励起状態が起こります。励起状態からもとの基底状態に戻ろうとするとき、エネルギーが光となって出てきます。

この光は紫外線なので、白色光ではありません。パネルの各セルは3つに区切られていて、RGBの3色にそれぞれ発光する蛍光体が塗られています。蛍光体が発色して、カラー表示される仕組みです。色の調整は光の強さで行い、RGB3色が均一に発光すると白になります。RGBが光らないと黒になります。

有機ELディスプレイ

ディスプレイの発光原理は、方式によってそれぞれです。液晶ディスプレイは、利用材料(液晶)とは別にバックライトの白色光源が必要です。ブラウン管は、加速させた電子を利用して蛍光物質を光らせます。プラズマディスプレイは、放電による紫外線を使います。そして性質の異なる材料の組み合わせに電流を流すことでRGBの3色に発光する素子を使って表示するのが自発光型ディスプレイです。
自発光型ディスプレイとして普及が進んでいるのが、有機EL(Organic Light Emitting Diode:OLED)ディスプレイです。材料には「有機化合物」を使います。有機化合物とは、炭素(C)を含む化合物全般(CO、CO2などは除く)のことで、身近な有機化合物の代表にはプラスチックがあります。有機化合物以外の無機化合物を材料にして無機ELディスプレイもできますが、直流では長時間安定動作できないため、現在は、直流低電圧で駆動できる材料が見つかっている有機ELディスプレイが実用化されています。

有機ELディスプレイの構造は、上図のようになっています。両端の電極(マイナス極・プラス極)に電圧をかけると、マイナス極から出る電子は電子輸送層の分子によって、発光層に注入されます。一方プラス極の側からは、電子が抜け出した“穴”である「正孔(せいこう)」が正孔輸送層の分子によって発光層に注入されます。発光層では、電子と正孔が再結合して励起状態となり、もとの基底状態に戻るとき、光が発生します。発光する色は、材料に使われている物質が発する光の波長によって決まります。
有機ELディスプレイの材料には、さまざまな物質が試されてきました。現在、大型テレビや中小型ディスプレイなどで実用化され、平面照明という新たな照明器具としても商品化されています。さらにフレキシブルなディスプレイなどの対応も始まり、材料や製造方法の探求が盛んに行われています。

関連情報