近接場光とは、特殊な状況下で見られる“光のしずく”のことです。
この微細な光を使うと「回折限界」を超えて、光の波長より小さな物質を観察することができます。
光は波なので波長があり「回折限界」があります。この回折限界のため、一般のレンズを使った顕微鏡では、光の波長以下の物質を観察することができません。ナノテクノロジー分野ではナノメートルかそれ以下の世界を観察する必要がありますが、そこで活躍している顕微鏡には「近接場光」が使われています。この特殊な光は顕微鏡以外にも応用されつつあり、研究が進んでいます。
人間も、手足を動かすことができないような狭いところに入りこむと「身動きがとれない」状態になります。人間の手足の動きを“波長”に置きかえてみると、波(光の場合は「光波」)も同じように身動きがとれない状態になるのです。これが「近接場光」といわれる光の姿を理解するための入口になります。では、光ファイバー内を伝わる光を考えてみましょう。光の波は、髪の毛よりも細い光ファイバーでも、その中を自由に伝わっていくことができます。それは光ファイバーの直径が光の波長よりも大きいからです。では、光ファイバーの直径が波長より小さくなるとどうなるのでしょうか。もはや波長ぶんの長さを確保することができませんから、波のかたちをとることができなくなります。
つまり、身動きができなくなって進むことができなくなるのです。実際に、太い光ファイバーを次第に細くしていき、光の波長以下まで細くすると、光はその先に透過できません。
しかし、光ファイバーの先端からは、光がしずくのようになって少しはみ出します。これが近接場光です。
この現象は、光が完全に反射、つまり「全反射」する場合でも、入射点と反射点が完全に一致していないことから発生します。実は、この不一致は中学理科のレベルでは「同じ」とされています。それで一般には何ら問題はないのですが、本当は、入射点と反射点は光の波長ほどずれているのです。
全反射のとき、入射した光は、横図のように少しだけ外にはみ出し、外側を波長の長さほど回り道してから反射点に達します。そして、あたかも1点で反射しているかのように反射光が出てきます。この外にはみ出した光が「近接場光」です。光は、このようにはみ出す性質をもっているのです。光ファイバーの先端の“光のしずく”は、この近接場光そのものだったわけです。
近接場光を利用すると、これまでの光学顕微鏡では見れなかった波長以下の小さなものも見ることができるようになります。それが「近接場光学顕微鏡」です。これは、近接場光を物体に当て散乱する様子を横から観察します。光を利用した顕微鏡なので、さまざまなタイプが開発されているナノテクノロジー研究用の顕微鏡の中でも、試料の情報を豊富に得られる点で優れています。
この近接場光は、他への応用研究も進んでいます。
たとえば、CDやDVDなどの光記録媒体に応用して微細な読み書きができるようになれば、記憶容量が飛躍的に向上するかもしれません。半導体製造技術では、微細な加工ができるようになり、極小の高性能デバイスが出現する可能性があります。