レーザー光と並んで「夢の光」といわれるのが、放射光です。
この光は、電子の方向をそろえて加速することで得られる人工的な光です。
放射光が最初に観測されたのは、レーザー光の開発とほぼ同時期で、約50年前になります。ともに人工光源として、レーザー光は赤外~紫外線領域の光源に、放射光は真空紫外~X線領域の光源に利用されています。放射光は、電子を加速して磁石などで進行方向を変えてやると発生します。放射光は高エネルギーで対応波長領域が広いのが特徴ですが、発生して利用するのには大規模な設備が必要なため、現在は実験施設での研究などに使われています。
電子など、電気を帯びている粒子は“光の衣(ころも)”をまとっています。“光の衣”とは、正と負の電荷が引き合ったり、同符号の電荷どうしが反発しあったりする「電磁力」のもとになるものです。電磁力は、「光子」をキャッチボールしあうことで発生すると考えられています(→詳しくは【光と単位】)。その光子を、粒子は“衣”としてまとっているとされているのです。
さて、そのような“光の衣”をまとい、高速に走っている電子が急に止まったらどうなるでしょう? 軽い衣は前方に吹き飛んでいってしまいます。
この衣は、そのときの速さ、エネルギーによって光やX線などの電磁波として観測されます。
では、高速な電子の進行方向を曲げてしまうとどうなるでしょう? 軽い衣はその曲がり方についていけず、直線方向に飛び出していきます。この場合も同様に電磁波が出てきます。これが「シンクロトロン放射」と呼ばれる現象で、この際に観測される電磁波が「放射光」なのです。
電子を加速しながら、電子をくるくるとまわすようなリング型の設備があるとします。そこでは「シンクロトロン放射」により、次々と電子からはがれた“光の衣”が光やX線などの電磁波として飛び出してきます。まわる電子の速度(エネルギー)を調節することによって、任意の波長の電磁波、放射光を得ることができます。放射光は、リングのところどころに開けてある穴から取り出します。
実際のリング型の施設では、X線領域の放射光を利用するため、電子を光速程度に加速します。電子を光速まで加速するには非常に高い電圧が必要で、ほかにも制御や安全のためのさまざまな大規模装置が必要になります。全体に巨大な設備になるので、施設は世界中に20程度しかなく、日本では兵庫県に、世界最高性能の「SPring-8(スプリング・エイト)」があります。SPring-8は、リング1周の長さが1.4kmもあります。
SPring-8のような放射光施設では、どのような研究が行われているのでしょうか。
そこでは、放射光を研究対象の物質にあてて、物質の原子の配列や構造の解析、新材料の創製、半導体などの光の波長以下の超微細加工などをしています。特に、新薬の創出に深い関係をもつタンパク質の構造解析に威力を発揮します。そのほか、いん石や宇宙塵、遺跡出土品や化石など、地学や歴史学の研究に使われます。