コロナ禍の救急医療を円滑に
その場ですぐに検査する新型コロナウイルス抗原定性検査システム
15分という短時間で新型コロナウイルスを検出する抗原検査を実現。患者さんへの的確な診療と医療従事者の負担軽減を両立し、医療現場の環境の改善に貢献しています。
2021/9/9
抗原検査で感染をスクリーニング
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、医療機関では緊張が続いています。来院した患者さんが新型コロナウイルスに感染しているか一刻でも早くわかれば、隔離をはじめとした的確な対処ができるようになり、医療従事者の混乱や負担を和らげることができます。
キヤノンメディカルの検査キットを用いた迅速検査がすすむ横浜市立大学附属病院
横浜市立大学附属病院 感染制御部 加藤英明部長
2020年2月、横浜に入港したクルーズ船での新型コロナウイルスのクラスター感染の受け入れなど、日本における新型コロナ感染症の流行初期から治療に取り組んできた公立大学法人横浜市立大学附属病院では、短時間で感染の有無をスクリーニングする検査の必要性を感じ、いち早く新型コロナウイルスの抗原検査を導入しました。導入において、中心的な役割を果たしたのは、感染制御部 加藤英明部長です。
「本来当院は、新感染症の患者さんを受け入れる感染症指定医療機関ではないため、救急外来も通常の患者さんと新型コロナウイルス感染症の疑いがある患者さんの動線を分けられない状況にありました。PCR検査は入院と救急の患者さん全員に行っているのですが、半日以上の時間がかかり、朝検体を採取しても検査結果が出るのが午後。その間、院内感染の観点からも患者さんを陽性として扱う必要があって、受け入れ部門の負担はとても大きかったのです。そのため、短時間でスクリーニングできる抗原検査を検討しはじめました。」加藤部長を中心にさまざまな抗原検査を検討する中で、導入に至ったのはキヤノンメディカルの抗原検査キットでした。
感度が高く、偽陽性が少ない抗原検査を採用
「他の医療施設で従来のイムノクロマト法※と呼ばれる一般的な抗原検査の感度や偽陽性の発生など、運用に苦労している事例が多いことを見聞きしていたので、現実的に使うのは難しいかなと思っていました。そんな中で、イムノクロマト法による抗原検査と比ベてキヤノンメディカル独自の抗原検査キットは、より感度が高く、より偽陽性が少ないこと、また本学の微生物教室との共同研究の成果ということから、採用することになりました。」
抗原検査は、発熱などの症状がある患者さん(発症後1日目から9日目以内)から採取した鼻腔ぬぐい液(鼻の穴から2cm程度の場所から採取する粘液)や鼻咽頭ぬぐい液(鼻の奥から採取する粘液)を対象とした新型コロナウイルス感染症の検査に使われます。抗原検査は、「抗原抗体反応」という人体が持つ免疫のしくみを利用して、ウイルスの中にあるタンパク質(抗原)を検出します。キヤノンメディカルは、横浜市立大学の抗体技術と、独自の光検出技術をもとに、産学の共同研究を通して新型コロナウイルスを的確に、感度良く検出する検査キットを開発しました。
「感度が高い、測定時間が短い、交差反応が少ない(他のウイルスや細菌に反応してしまい偽陽性が発生するリスクが低い)」という検査の3大要素のバランスが取れた性能を実現。作業もその場でかんたんな前処理を行うだけで済み、特別な施設が不要で検査時間も短いことが特徴です。
1.患者さんから採取した検体と試薬を混ぜた試料をカートリッジに滴下します
2.カートリッジ内の光導波路膜から出射した光の減衰をもとに結果を判定します
光導波路膜(センサー)の表面に抗原を補える抗体を固定します。一方で、抗体を結合させた光散乱体粒子を用意し、目印として使います。抗原がないときは、抗原抗体反応が起きず、光散乱体粒子はセンサー表面には結合しないので、光を当てても散乱が起きません。抗原があるときには、抗原抗体反応が起き、光散乱体粒子に結合した抗体が抗原を捉える一方で、その抗原がセンサーに固定された抗体とも結合し、結果として、センサー表面に光散乱体粒子が集まります。センサーに光を当てると、光散乱体粒子の部分で散乱が起き、光が減衰するので、その減衰の具合を測定して抗原の有無を判定します。
医療現場で使いやすい操作性
キヤノンメディカルの抗原検査キットを導入して、実際に医療現場に立ち続ける医師の立場から加藤部長が非常に役立つと感じたのは、「コンパクト、使いやすさ」という特徴でした。
「当院では医師自身が患者を診ながらその場で抗体検査を行います。診察室の机の上に置いて使えるという設置面積の小ささがまず良いですね。そして、緊急で使うことが多いので、普通のコンセント(100V、3P)につなげられて、電源を入れるとすぐに起動するところがとても助かります。結果も短ければ4分、長くても15分ということで救急対応も早くできます。」
これまでの検査では不可能だったメリットも生まれています。「肺炎症状がある若い患者さんで、初期評価として胸部CT検査をすると、新型コロナウイルスが疑われる肺炎像がありました。同時に抗原検査を行ったところ、すぐに陽性の判定が表示され、素早く次のアクションに移すことができました。検査結果がない状態で診療を続けるのは非常に怖いことなのですが、抗原検査で来院後30分たたないうちに感染がわかるようになって、抗原検査である程度の感度でスクリーニングができることが現場の安心感につながっています。」
医療従事者の負担と不安を和らげる
イムノクロマト法による抗原検査は、抗原抗体反応が示した発色を目視で判定する必要があり、線が薄かったりすると「陽性」と判定してしまうなど、現場スタッフの判断基準の微妙な差異でばらつきが生じることがあります。その点、キヤノンメディカルの抗原検査はプラスマイナス表記で結果がわかり、現場の負担も少なくなります。抗原定性検査の感度はウイルス量が少なくてもいかに検出できるかがポイントで、6.64pg/mlという最小検出感度は一般的なイムノクロマト法と比較して約5倍の感度を持ちます。前処理の手間も不要で、測定時間はわずか15分、多量のウイルスの場合は4分で検出が可能です。さらに、交差反応を起こしづらい抗体を使うことで、交差反応性が発生するリスクも低減されています。
「土日休日と夜間には、PCR検査を実施するリソースの確保も難しい状況です。医療スタッフや窓口スタッフ、清掃するスタッフをはじめ、多くの職種のスタッフが感染病棟に入るため、科学的なエビデンスを基に安全性を確保した手順を説明することで、スタッフへ安心感を与えたいと思っています。今では、PCR検査や抗原検査が院内で行えるようになり、検査結果に基づいてスタッフに説明ができるようになったことは、この一年の大きな進歩ですね」と加藤部長。医療従事者の不安の軽減も精度の高い抗原検査の利点となっています。
次の感染症の流行に備えて
「新型コロナウイルスに感染し、昨日まで隔離されていた患者さんが、合併症もなく元気に歩いて帰れるようになった姿を見ると『よかったなぁ』と思います。」という加藤部長。今後は、予防から治療まで、すべての領域でCOVID-19の感染制御を図り、さらに今回の経験を生かして次の新興ウイルス感染症の流行への対策を立てていきたいとの抱負を持っています。
キヤノンは今後も患者さんのために、また医療従事者のためになる検査機器をいち早く提供できるよう活動を続けていきます。
*医療従事者向けの情報を掲載しているサイトです。