従来の技術では難しかった選別を実現し、循環型社会の構築に貢献
黒色のプラスチック選別技術
家庭用電化製品や自動車の内装などに多く使用されている黒色プラスチック。キヤノンは、リサイクルの現場でプラスチック片の種類を判別する際、判別の難しい黒色と、その他の色のプラスチック片を高精度に同時選別する技術を開発しました。効率良く判別を行うことで、再利用するプラスチック量の最大化に貢献していきます。
2024年9月25日
従来の技術では難しかった選別を実現し、循環型社会の構築に貢献
家庭用電化製品や自動車の内装などに多く使用されている黒色プラスチック。キヤノンは、リサイクルの現場でプラスチック片の種類を判別する際、判別の難しい黒色と、その他の色のプラスチック片を高精度に同時選別する技術を開発しました。効率良く判別を行うことで、再利用するプラスチック量の最大化に貢献していきます。
2024年9月25日
日ごろ、馴染みのない「ラマン」という言葉。
はるか昔、約100年前に散乱光のなかに「入ってきた光とは種類の異なる光がある」ことを発見したのは、インドの物理学者、チャンドラセカール・ラマン博士です。この発見により、ラマン博士は1930年にノーベル物理学賞を受賞。発見された光は、博士の名前から「ラマン散乱光」と呼ばれるようになり、ラマン散乱光を用いた物質評価方法は、いまでは研究分野と製造分野で必要不可欠な分析方法となっています。
日本国内では、プラスチック製のレジ袋が2020年7月に有料化されました。このことは、我々の身近なエコロジー意識を目覚めさせてくれました。いまでは、近所のちょっとした買い物にもエコバックをもっていく人も多いのではないでしょうか。
さらに、2022年4月には、プラスチック資源循環促進法が施行され、容器包装のプラスチックだけでなく、製品に使用されているプラスチックにもリサイクルの対象が広がりました。
私たちの生活のなかで廃棄されるプラスチックのうち、約2割※1が新たな製品の材料として再生利用(マテリアルリサイクル)されていますが、残りの多くは焼却して熱エネルギーとして活用しているものの、プラスチックそのものは再生利用ができていませんでした。再生利用する際は、プラスチックの純度が求められるため、ABS※2やポリプロピレン(PP)など種類を正確に判別する必要があるからです。
従来のプラスチック選別技術は、テレビのリモコンなどで使用されている近赤外線という人の目に見えない光をプラスチックに照射して、どれだけその光を吸収しているかということを測定することで判別を行っていました。その方法では、明るい色(白色系)のプラスチックは判別できていましたが、「黒色プラスチック」の判別は実現できていませんでした。特に、家庭用電化製品や自動車の内装に多く使用されている黒色プラスチックは、光を吸収しほとんど反射もしないため、再生利用のための判別が困難でした。
とはいえ、ラマン散乱光は散乱する光のなかでもごく一部の微弱なものなので、正確に計測しようとすると時間がかかります。キヤノンは、ラマン散乱光をとらえて分析するラマン分光方式に、自社の計測・制御機器を組み合わせることで、その解決の糸口を見つけたのです。
キヤノンが開発したトラッキング型のラマン分光方式を用いたプラスチックの選別技術は、「検出」「識別」「分別」の工程に分かれます。
まず、装置にさまざまな種類のプラスチックが投入されます。ベルトコンベヤー上に流れるプラスチック一つひとつの位置と色をカメラでとらえます。
プラスチックの種類を計測するためのレーザー照射時間は、明るい色は少なくてすみますが、黒色プラスチックはラマン散乱光が少なく識別しにくいため量は多くなります。レーザー照射時間を色によって調整しながら、黒色プラスチックと明るい色のプラスチックを同時に計測していきます。
識別したプラスチックをエアーで分別し、回収対象とその他を別々に回収していきます。
このように大きく3つの工程を経て、プラスチックが高度に選別されることにより、再利用できるプラスチック量の最大化に貢献していきます。
いままでは、製品・部品を製造するメーカーには、「利用可能な再生プラスチックは必要量が供給されていない」「価格が高い」という不満がありました。
その一方で、リサイクル業者には、「選別に適したプラスチックの色は明るい色なのに、資源リサイクルの現場には、黒を含む濃い色のプラスチックが多い」「選別精度を上げるとコスト高くなる」という課題があり、製品をつくる側とリサイクルする側にミスマッチが発生していました。
そのミスマッチに一石を投じたのが、キヤノンのラマン分光方式を用いたプラスチック選別技術です。キヤノンは、2024年6月より、この技術を搭載したプラスチック選別装置の受注を開始。再生可能な明るい色のプラスチックと黒色プラスチックを同時に回収し、リサイクルコストの低減を図ることで、メーカーとリサイクル業者間のミスマッチを解消していきます。
キヤノンはこれからも、人々の生活をより一層豊かにする製品・サービスの提供と環境負荷の低減に向けて活動を続け、循環型社会の構築に貢献していきます。