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スーパーカラーマネジメント技術 スーパーカラーマネジメント技術

色にこだわるキヤノンが取り組む “人が感じる”色の再現

スーパーカラーマネジメント技術

広告デザインやポスター制作など、クリエイティブな仕事に関わる人々が大切にする”色”。撮影を行うカメラや画像を出力するディスプレイ、プリンターなど、入力・出力機器の高精細化が進み、表現できる色域が拡がっています。こうした中、制作者の意図に沿った色を実現するソリューションが求められています。

2023/10/16

機器間の色を統一管理する、カラーマネジメント

新しい技術は、社会にさまざまな変化をもたらしてきました。印刷もその一つで、印刷版を使い版画の原理で印刷するオフセット印刷から、現在では、コンピューター上で処理するデジタル印刷へのシフトが進んでいます。
ディスプレイやプリンターは機種やスペックに応じてそれぞれ個別に「表現できる色」が決まっています。幅広い色をもつ画像を、色表現ができる範囲が異なるプリンターで出力する場合には、表現できる色を照らし合わせて変換する作業が必要です。デジタル印刷において色の数値データを変換したうえで受け渡し、機器間の色を統一的に管理する重要な役割を担う技術がカラーマネジメント(色管理)です。これまでも機器間で表現する色を一致させるために、さまざまな技術が開発されてきました。

カラーマネジメント技術は機器間の色を統一的に管理する重要な役割

カラーマネジメント技術は機器間の色を統一的に管理する重要な役割

印刷物の多様化にともない、色合わせはますます重要に

デジタル印刷の機器は、大きくわけて複写機など紙にトナーを定着する電子写真方式と、家庭用のプリンターでなじみの深いインクジェット方式という2つの方式があります。また印刷する対象は、従来の紙からラベル用紙やフィルム、パッケージなど、多様化が進んでいます。
従来のカラーマネジメントで重点を置いていたのは、測定器で測った数値をプリンター間でどこまで近づけられるか。プリンターや用紙など、異なる条件下で印刷した際に、それぞれの印刷物の色を物理的に測定器で測って、それぞれが近い数値となることをめざしていました。しかしインクジェット方式と電子写真方式のように印刷プロセスの異なるプリンターや、マット紙や光沢紙といった用紙特性の違い、さらには布やシール、ラベルといった異なる材質など、印刷を取り巻く環境が多様化しており、たとえ測定器での値が同じであっても、人が見たときには異なって見える場合があることがわかってきました。

デジタル印刷の用途が多様化

デジタル印刷の用途が多様化

「従来測定されてきた色の物理特性」に加えて、「人はどのように色を感じているのか」まで踏み込んだのが、スーパーカラーマネジメント(以下、SCM)です。これまでキヤノンは、カメラやディスプレイ、プリンターなどの開発を通して、色について長年研究を重ねてきました。インクやトナーなど色に関する設計シミュレーションにも使うことができる独自の色空間データを全社共通基盤として構築したうえで、「色の知覚」を指標に追加しました。これにより、人が見たときに同じ色だと感じる“色の変換式”を確立することができました。

“人が感じる色”を自動で出力可能に

従来のカラーマネジメントでは、異なるプリンター間で色合わせをする際に、表現できる色の範囲(色域)が狭いプリンターでは、プリンターが表現できる色の範囲内に、色を圧縮して割り当てるため、人の目で見ると不自然に感じてしまう場合がありました。キヤノンでは、より色域差が大きいものまで対応できるSCMの開発を進めることで、 “人の目で見たときに感じる色”の再現を追求しています。

従来は色を重視して割り当てる色一致方式か、階調(濃淡)を重視して割り当てる階調方式が一般的

従来は色を重視して割り当てる色一致方式か、階調(濃淡)を重視して割り当てる階調方式が一般的

人の視覚認知特性は、明度(明るさ)、彩度(鮮やかさ)、色相(赤や緑、青など色味の違い)において、実際に測った色数値と感じ方が異なる傾向にあることがわかっています。SCMでは、こうした特性をこうした特性を利用した独自のアルゴリズムに基づき、人の目で見たときの印象に近づけるように色を割り当てる”マッピング処理”を開発しました。
また、印刷に使用される画像は多種多様な色をもっています。印刷に使われる画像のもつ色と、使用されるプリンターで再現できる色の範囲を照らし合わせ、色の割り当てを決定する動的処理の技術も導入しました。画像に応じて、色を「動的」に「マッピング処理」することにより、人の目にとって最も印象が近づいて見える効果を実現しています。

“人が感じる色”に自動で割り当て

従来のカラーマネジメント

従来のカラーマネジメント(左)

どんな画像でも画一的な色マッピング処理を行うため、人の目で見たときに濃淡の小さい平坦な色に感じてしまう場合がある

スーパーカラーマネジメント(右)

画像を自動で分析し、プリンターで表現できる色と照らし合わせ、表現できない色については、人の目で見たときの印象に近づけるように色をマッピングする

企業マーケティングのワークフローを変え、生産性向上に貢献

デジタル印刷機の普及にともない、企業内でオリジナルグッズを印刷してマーケティング活動に利用する動きが拡がりを見せています。たとえばポスターは大判プリンター、チラシはオフィス向け複合機、ショップカードは小型のインクジェットプリンターなど、成果物の用途に応じたプリンターを使って印刷されるケースが一般的です。出力する用紙やプリンターの機種が異なるケースや出力を複数の拠点で確認せざるを得ないケースにおいて、いかに色合いを揃えるかが課題となっていました。
SCMが導入されれば、何度も仕上がりを確認する時間や手間がなくなります。専門スキルがなくても色味を高度に合わせることが求められるオリジナルグッズの印刷などを内製化でき、企業マーケティングのワークフローが変わります。

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