鳥のヒミツをときあかせ vol.5
鳥はどんな巣を作るの?
鳥の巣のヒミツ
鳥の巣にはいろいろな形があります。
ちょっと深いカップのような巣があったり、ツボのような巣があったり…。
大きな鳥は大きな巣を、小さな鳥は小さな巣をつくるけど、
小さな鳥でも大きな巣をつくるものもいます。しかも、材料もさまざま!
どんな巣があるか見てみよう!
チャレンジ1
どんな巣があるのかな?
見てみよう!
カラス類やサギ類、タカ類など、中型の鳥は木の枝を使って巣をつくります。たいてい、樹上に木の枝を積み上げた皿状の巣ですが、カササギの巣はちょっと変わっています。カササギは大量の木の枝を集めて、樹木や電柱の上に直径50センチメートルくらいの大きなボール状の巣をつくります。産座(卵をあたためる場所)は奥にあるので、巣の内部は見えません。アフリカにすむシュモクドリは全身茶色でコサギくらいの大きさの鳥ですが、巣は巨大です。シュモクドリの巣は木の枝を積み上げて、直径が3メートルにも及ぶ、カササギの巣を巨大化したような巣です。
一方、キジバトなどハト類のつくる巣は粗末です。彼らの巣は枝の上に小枝をすこし積み重ねただけの粗末な巣で、使い捨ての巣です。ハト類は年に何回も繁殖することができるので、一回一回の巣にあまり手間をかけないのでしょう。
泥でつくる
巣の材料に泥を使うのはツバメ類です。ツバメやコシアカツバメ、イワツバメなどは泥を集めて、カップ型やツボ型の巣をつくります。オーストラリアにはその名もツチスドリ(土巣鳥)という鳥がいます。白黒のハトくらいの大きさの鳥で、市街地にもたくさんいて、甲高い声で「キャアキャア」鳴いています。この鳥は太い枝の上に泥を集めてカップ状の巣をつくります。同じように泥を集めて巣をつくる南米のカマドドリ類はツグミくらいの小鳥ですが、ツチスドリは太い枝の上に泥を集めて、直径30センチメートルにもなるカップ型の巣をつくります。入り口から通路をぐるっと回った奥まったところに産座があります。
コケを使う
巣材にコケを使う鳥もいます。シジュウカラやヤマガラなどのカラ類は、巣穴は樹洞ですが、その中に大量のコケを運び込んで巣にします。コケは乾燥すると、空気を含んで保温効果もありそうです。巣の中央部分は羽毛や獣毛を敷きつめて、あたたかい産座になっています。
巣材にコケを大量に使うのはミソサザイです。ミソサザイはスズメの半分くらいの小さな鳥ですが、その巣はとても大きくて、直径20センチメートル以上はあります。「この小さな鳥がよくこんな大きな巣をつくれるなぁ」と感心するような立派な巣です。
穴を掘る
ショウドウツバメはツバメ類の中では例外的に、砂の崖に穴を掘って巣にします。河岸の崖に穴を掘って巣にしているのは、南米のコンゴウインコやアフリカのハチクイ類です。オオミズナギドリやウトウなどの海鳥は地面に穴を掘って巣にします。ウミツバメ類の巣も地面の穴です。
穴を掘るといえば、オーストラリアの北部のサバンナにはシロアリの大きな塚がたくさんあります。この塚に穴を掘って巣にする鳥がいます。インコ類ではヒスイインコ、カワセミ類ではラケットカワセミです。森には樹上性のシロアリもいて、このシロアリの樹上のボール状の巣に穴を掘るのがモリショウビンです。日本でも西表島や石垣島で、リュウキュウアカショウビンがタカサゴシロアリの樹上の巣に穴を開けて巣にしています。
チャレンジ2
芸術品!精巧な技術を見てみよう
小鳥類の多くは手の込んだ精巧な巣をつくります。メジロの小さな巣は高い木の枝先に上手につり下げられています。エナガはクモの糸などを使って、表面に地衣類をいっぱいはりつけて、すきまに羽毛を編み込んでつぼを逆さにしたような巣をつくります。コサメビタキやサンショウクイも地衣類を貼りつけて、枝の上にカップ型の巣をつくります。
ぬうという技術をもった鳥もいます。熱帯にすむサイホウチョウやセッカの仲間は、クチバシを使って、葉っぱを上手にぬい合わせて巣をつくります。日本のセッカはチガヤの葉に縦に小さな穴をいくつも開けて、そこに交互にクモの糸を通して、葉を何枚もぬいつけていきます。巣の外側にチガヤの白い穂をいっぱいつめ込むので、草の中に白いつぼが置かれているように見える美しい巣です。ツリスガラは日本では繁殖しませんが、エナガの巣と似たあたたかそうな吊り巣をつくります。ツリスドリの下向きに入り口のあるつぼのような巣やハタオリドリ類の巣は、草の葉できれいに編み上げられた芸術品です。
チャレンジ3
巣はどちらがつくるの?
巣の目的を考えよう
ところでこれらの精巧な巣を、オスとメス、どちらがつくるのでしょう? エナガは一夫一妻で、夫婦が共同してつくります。夫婦で共同するので、エナガの巣は〝求愛のための巣〞ではありません。
南米のツリスドリ類ではメスがつくります。たとえばキゴシツリスドリのメスたちは、一本の木に集団で多数の巣をつり下げます。メスは草の葉をていねいに編み込んで、20日間くらいかけて、枝からトックリを逆さにしたような巣をつり下げます。1本の木につり下がっている巣の数は時には250個にもなるそうです。けれどオスは巣づくりから子育てまで、いっさい関与せず、なわばり防衛に専念します。
一方、ミソサザイ・セッカ・ツリスガラ・ハタオリドリ類など、多くの鳥では、巣づくりはオスの仕事です。「なぜオスだけなのか」には理由があります。それはかれらの精巧な巣は、メスを呼び込んで、つがいを形成する、または交尾をするための「求愛のための巣」だからなのです。これら手の込んだ巣は、オスにとってはクジャクの派手な尾羽(上尾筒)と同じ機能をもっています。ミソサザイやセッカは、自分の身体にきれいな飾り羽を進化させるかわりに、巣を求愛のための飾りを兼ねるものにしたのです。
巣をつくらない鳥もいる
最後に、鳥はみんな巣をつくると思っているかもしれませんが、じつは巣をつくらない鳥もいます。
たとえば極寒の南極の冬に繁殖するコウテイペンギンは、雪や氷の上でお父さんが足の甲に卵を乗せて、お腹の羽でおおって温めます。ウミガラス類は断崖の岩棚の上に、直接卵を産んで温めます。ツカツクリの仲間には火山のある島で、地熱で暖かくなった砂に埋めて卵をかえさせる種類もいます。
まとめ
巣に使う材料もつくり方も形も、鳥によってさまざま。精巧な巣を作り上げる技術は本当にすごいよね。もし巣をみつけたら、近づかずにそっと遠くから観察してみよう。木の枝、泥、コケ…、まわりにあるどんな材料が巣に使われているかな?
※春から夏にかけては、鳥たちの繁殖時期です。子育ての季節、親鳥は特に神経質になるものが多く、周囲の危険を感じたり、巣の周りの様子が変化したりすると、巣を見捨ててしまうことがあります。親鳥が首を伸ばしてこちらを見ていたり、羽毛を逆立てたり、鳴き声を出しているときは、警戒しているサインです。野鳥の巣には、決して近づかないようにしましょう。
解説者紹介
上田 恵介Keisuke Ueda
1950年大阪府生まれ。
動物生態学者。元立教大学理学部生命理学科教授。元日本鳥学会会長。
鳥類を中心に動植物全般の進化生態学のほか、環境問題の研究にも取り組む。
日本野鳥の会評議員で、会長。会員による鳥類学論文集「Strix」の編集長も務める。