オフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE Gen3」開発秘話のメインビジュアル

コンセプトは「お客さまの利便性のために」全てをいちから見直したまったく新しい複合機

オフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE Gen3」開発秘話

キヤノンの新しいオフィス向け複合機「imageRUNNER ADVANCE Gen3シリーズ」(以下、Gen3)は、デザインから、操作性、機能性、スピード、静音性、画像表現、セキュリティ……細部にいたるまで検討と試行を重ねた新シリーズです。

今回の開発の特徴は、「お客さまの利便性を徹底的に追求する」を唯一無二のコンセプトに、全てをいちから見直して開発に挑んだこと。オフィス環境の進化に合わせて新たな機能を提供してきたキヤノンの複合機は、2009年から名称を「imageRUNNER ADVANCE」とし、進化を続けてきましたが、第三世代であるGen3は、これまでとは大きく違う進歩を遂げています。クラウドサービス、セキュリティ機能も大幅に強化したGen3。

求められる利便性を実現するために、こだわり抜いた開発者たちが大いに語ります。

目次

複合機としての画質にこだわるどんな用紙にもくっきり鮮やかな画像を描く「尖った」電子写真システムとは?

Profile
開発者飯田 貴則のポートレート画像です。

飯田 貴則(イイダ タカノリ)

2008年入社。入社から継続して複合機のプリンターエンジン物理プロセス開発を担当。
モットー:明るく前向きに全体最適を考える
アフター5の過ごし方:子供と遊ぶ、ゴルフ練習、読書

今、複合機にはどのような画質が求められているのでしょう。

飯田:

仕事で使うビジネス文書のプリントが多いので、まず、文字の黒がハッキリしていること。そして、元の画像の色や階調の再現というより、写真や絵が鮮やかでくっきりしていることなんです。ですから、「見て実感できる」鮮明さにこだわりました。

Gen3で出力した写真

Gen3で出力した写真です。
木の質感がリアルで、芝生もみずみずしい。緑も鮮やかに表現。
Gen3で出力した写真です。
色彩豊かなプリントを可能にするプリンター色域の拡大で、発色よく表現
Gen3で出力した写真です。
シャープネスコントロールの活用で、芝や葉もくっきり鮮やかに表現
飯田:

そして、その鮮明な画(え)を、あらゆる紙質で表現できるようにすることに、こだわりました。「コピー用紙」といわれる紙は千差万別。お客さまにとっては同じように見えても、細部は大きく異なるため、全ての紙に同じようにプリントすることが難しいのです。たとえば、再生紙は目で見ると表面が少しザラザラした程度ですが、顕微鏡で見るとかなりの凹凸があります。凹凸があると、トナーが紙にのりにくく、画質が悪くなってしまいます。

紙質が違っても、同じような鮮明な画質ですか?何だか難しそうですね。

電子写真プリントのプロセス

電子写真プリントのプロセス図です。

1. 帯電

感光ドラム表面にマイナスの静電気を帯びさせます。

電子写真プリントのプロセス図です。

2. 露光

光で感光ドラムに画像を描きます。レーザー光の照射部分は静電気がなくなります。

電子写真プリントのプロセス図です。

3. 現像

トナーを感光ドラムに近づけると、静電気のない部分にだけトナーが付着します。

電子写真プリントのプロセス図です。

4. 転写

感光ドラムから中間転写ベルトにトナーを移し、用紙裏側からプラス電荷を与えて、トナーを用紙に移します。

電子写真プリントのプロセス図です。

5. 定着

トナーが転写された用紙に熱と圧力を加えて、トナー用紙に定着させます。

飯田:

複合機の電子写真という記録技術は、「帯電」「露光」「現像」「転写」「定着」の5つのプロセスから成り立っています。その中の転写プロセスでは、各色の感光ドラム上に作られたトナーの像を、電圧によって一度色毎に順次、中間転写ベルト上に移し、重ねられたCMYKのトナー4色の画像を逆方向の電圧をかけて紙へと転写させます。

どんな紙にも鮮明な画質を実現するためには、この転写プロセスの担う役割が非常に大きいんです。中間転写ベルト表面で、感光ドラムからトナーを移す時に、トナー像を乱さずとどめるための電気的な特性と、凹凸のある紙へトナーを転写する時に、トナー離れが良くなる化学的な特性を同時にもつ必要があります。中間転写ベルトの根本的な材料の選定から見直し、相反する特性をもつ難しい設計を行うことに成功しました。

また、トナーも抜本的な改良を行いました。省エネ性、生産性を向上させるためには、複合機の約70%の電力を消費する定着プロセスの熱効率を上げる必要がありますが、効果的なのはトナーを溶けやすく改良することです。電子写真プロセスにおいてトナーを変更する場合、あわせて電圧や駆動タイミングなど、プロセス設計をいちから考え直す必要があります。そのため、開発工数が膨大になりリスクも伴います。しかし、お客さまは省エネ性を求めているため、トナーを変えなければならないと私は考えました。

トナーはどのように変えないといけなかったのですか。

飯田:

簡単に言うと「硬くて溶けやすい」トナーにしたんです。単純に低温で軟化しやすいだけだと、倉庫や輸送時などで高温になってしまうと、トナー同士が固まってしまい、鮮明な画像をつくることができなくなってしまいます。そこで、熱で溶けやすい性能と、倉庫などの高温環境でもトナーが固まらない性能を両立するために、トナー粒子の表面をシェル構造にして、内部を軟化しやすい構造にすることを考えつきました。

トナー断面模式図です。
トナー断面模式図
低融点トナーのイメージ画像です。
低融点トナー
飯田:

どんな用紙にもくっきり鮮やかな画像を描けて、省エネと高耐久も実現するトナーの開発という高い目標に対し、改良ではなくいちから見直した、いわば「尖った」電子写真システムによって、お客さまのニーズに応えきるというのが今回の開発の原点だったのです。

いちから見直すにあたり、心がけたことはなんですか。

飯田:

私の所属するプロセス部門は、電子写真プロセス各工程の特性値と目標値を明確にした上で、始めはシミュレーション、そのあと実験などをして、画像形成に関わるさまざまな「仕様」を決めていく部門です。自分たちの達成したい条件設定のためには、メカや電気、ソフト部門へ、わかりやすく伝える努力とコミュニケーションが必要です。「お客さまの利便性を最大にする」というコンセプトがあったので、みんなが同じ方向を向いて一致団結でき、ベストな条件の選択ができたと思っています。チームワークは、一人ひとりの、高い目標を実現するんだという強い志によって支えられるものです。シビアなやり取りの長い日々を経て、製品として形になって、最初の1台の出荷にたどり着けたときは、本当にうれしかったです。


お客さまの快適を実現するメカにこだわる動いていることにも気づかない「静かさ」、
ID認証時間も含めた「実感」できる速さの追求

Profile
開発者前野 正樹のポートレート画像です。

前野 正樹(マエノ マサキ)

2008年入社。入社から継続して複合機のプリンターエンジンメカ開発を担当。
キヤノンのここが好き:自由に仕事ができるところ。私の「こうすべき・こうしたい」を実行させてもらえる
入社以来一番うれしかったこと:自分の担当部分が、市場で高評価を受けたこと

Profile
開発者吉本 哲博のポートレート画像です。

吉本 哲博(ヨシモト テツヒロ)

2005年入社。入社から継続して複合機のプリンターエンジン電気開発を担当。
キヤノンのここが好き:課題解決にあたって複数の要素・部門メンバーが一丸となって検討を行えること
アフター5の過ごし方:居酒屋めぐり

ハードウエアの開発で、一番こだわった部分はどこですか?

前野:

複合機は、お客さまの業務をアシストするのが仕事です。プロジェクトチーム全体のスローガンである「お客さまの利便性を徹底的に追求する」を念頭に、①オフィスに溶け込める静粛性、②お客さまを待たせない業界トップの速さ、③いつでも安定した高画質の提供、の3つに特にこだわって基本性能の向上を図り、使った人が「実感」できるレベルまで徹底的に磨き上げていきました。

音の大きさというのは、もちろん数値で測れるのですが、多分に感覚的なものでもあります。使っている人以外は機器が動作していることに気づかないことが理想だと考え、そこをめざしました。

そのために、最新の計測手段を使った音の数値化やシミュレーションの活用をしながら、静粛化設計に取り組みました。耳障りに感じる突発的な音などには集中的に対策を講じて、音のレベル増減が極力ないようにしたんです。

音の増減を少なく、ですか。空調も、急に大きくなったりするととても気になりますよね。

前野:

そうなんです。空調も元から音はしているんですけど、大きくなった時だけ気になりますよね。お客さまの業務の邪魔にならないように、音の大きさだけでなく音質と音の増減にもこだわって、「気にならない」状態を作り出しました。

複合機というのは、原稿をスキャンして、紙を送り、トナーを補給・搬送し、熱と圧力でトナーを紙に定着させ、その後ステイプルなどの後処理を・・・というように、排紙トレイに出ていくまで、いろいろな動作を同時にさせています。紙の端が段差を乗り越えるときの突発音、エアフローの風切り音やからくりの動作音というように、音源もさまざまです。ですから、「この音を下げれば」という答えを見つけるのは簡単なことではありませんでした。

さらに、静かにすればするほど、うるさいユニットの音が目立ってしまうため、すべてのユニットで協力して静粛化していく必要がありました。メカ設計だけでなく、制御・シーケンスなど電気・ソフト設計の力も合わせて、一つひとつの音に取り組んでいきました。開発が進むにつれ、チームの信頼感と一体感は強くなっていった気がします。

Gen3の稼働音削減イメージ図

Gen3の稼働音削減イメージ図です。

スピードに対するニーズも大きいと思いますが、速さについては、どのように取り組みましたか?

吉本:

速さと言うと、昔はコピーのスタートボタンを押してから紙が出てくるまでのスピードのことを言っていました。しかし、お客さまの実際の使い方を考えると、それでは不十分なことに気がつきました。

オフィスでの複合機の使い方は、「自分の席から印刷の指示をして、後で取りに行く」というスタイルから、「印刷指示をしたあと、複合機の前で個人認証をしてその場で印刷する」というスタイルに変わってきています。ですから、お客さまが自分の席を立ってから、印刷物を受け取るまでのフローの「どこでも待たせない」ことが大切です。Gen3では、お客さまが近づくと、人感センサーによって、お客さまの到着前に起動を開始し、複合機の前に立つとすぐに画面操作が出来ます。お客さまが印刷ボタンを押すと同時に最速で印刷できるようになっています。そのために、スリープ状態からの復帰の速さ、印刷準備の速さ、印刷の速さの全てを見直すことが必要でした。

一番苦労したのは、これまでのように複数の機能を順に立ち上げていくのではなく、全ての立ち上げ動作を並列で行えるようにして、起動時間を半分以下に短縮したことでした。各ユニットでの動作時間を100分の1秒単位で短縮するとともに、起動プロセスをできる限り同時に行えるよう設計もいちから見直しました。

起動処理の短縮

起動処理の短縮の従来比に関する図です。

静かさと速さの両立の実現は、どのような時に実感されますか?

前野:

実際に、お客さまから「速くなったのに、すごく静かになりましたね」と言っていただける、という話を販売担当者から聞いたときに、こだわり抜いてよかったと実感しましたね。お客さまの利便性にどこまでも貢献していくという一貫したコンセプトのもと、速さと静粛性を両立させ、使う人とオフィス環境の快適性に貢献できたと思っています。

静かさと速さの両立を実現することは、とても大変そうですね。

前野:

複合機は「動くからくり」がぎっしり詰まった機械で、それだけに、静粛性を追求するときは留意しなければならない場所もとても多く、特に今回は、印刷スピードも速くしているので、業界トップランナーの静粛性を実現することは本当に大変でした。と同時に、高い目標にチャレンジするのは、とてもやりがいのあることでした。駆動や紙の流れをとにかく高効率にスムーズにすることを繰り返して、解決することができました。

吉本:

高い壁や難しい課題を解決できたとき、最もやりがいを感じますよね。良い製品を実現しようと考えると、おのずと目標設定も高くなり、いくつもの技術、要素が複雑に組み合わさってできる複合機の開発では、解決の難しい課題がたくさん発生してしまいます。

そういった課題は、どのように解決するのですか?

吉本:

複合機は、複数の要素技術のメンバーが集まって、コンカレントな体制で開発が行われています。各要素の知恵を持ち合って、課題を解決するためのあらゆる可能性をみんなで考え、仮説を立てていきます。仮説をもとに一致団結して取り組むことで、はじめて課題が解決できるようになるんです。


お客さまが求めるセキュリティにこだわるこれからの時代のセキュリティを先取りした複合機であるために

Profile
開発者穂岐山 剛のポートレート画像です。

穂岐山 剛(ホキヤマ タケシ)

2000年入社。2013年から複合機のセキュリティ認証(CC認証)取得や、セキュリティ機能の開発を担当。
心がけていること:どんな仕事も自分を成長させるチャンスだと前向きに捉えること
好きな本:「人を動かす」(デール・カーネギー著)

Profile
開発者清水 将太のポートレート画像です。

清水 将太(シミズ ショウタ)

2009年入社。入社から継続して複合機のセキュリティ開発を担当。
キヤノンのここが好き:プライドを持って仕事をしている技術者に囲まれて仕事ができるところ
好きな本:「水滸伝」(北方謙三著)

Gen3の特徴に、セキュリティ機能の強化がありますね。

穂岐山:

セキュリティには大きく2つの側面があります。一つは、内部からの情報漏えいを防ぐこと、もう一つは、サイバー攻撃から複合機自身を守ることです。

情報漏えいを防ぐために、「SIEM(シーム)(Security Information Event Management)」と呼ばれるログ管理システムに対応できるようにしました。SIEMは、大規模オフィスを中心に利用が拡大してきているセキュリティ技術で、SplunkやMcAfeeなどといったさまざまなベンダーから製品が出されています。PCや通信機器、複合機などの動作状況を伝えるための標準規格である「syslog」をSIEMサーバーに集め、ユーザー側があらかじめ作成した不正検知ルールに従って、不正を検知するというシステムです。検知した内容はIT管理者の端末にメールなどで通知されます。

SIEM

SIEM対応のイメージ図です。
穂岐山:

たとえば、スキャンした文書データを社外メールアドレスに送信している、深夜にコピーを大量にとっている、個人認証に連続で失敗しているなどをSIEMが検知することで、管理者が適切に対処することを可能にします。

起動時改ざん検知という機能が加わったそうですが

清水:

昨今のサイバー攻撃の攻撃対象は、PCやサーバーばかりでなく、IoT機器や携帯機器などに拡大しはじめています。ネットワークにつながる複合機も攻撃される可能性は否定できません。いざというときのための対策として、複合機のプログラムが書き換えられていないかどうかを複合機自らがチェックする「改ざん検知機能」を開発しました。

Gen3では複合機自らが起動の度に、出荷時やアップデートのときに保存されたプログラムの正解値と比較して、変わっているところがないかを調べます。もしも書き換えを検知したときは、機器の停止、もしくは自動的に改ざんプログラムを正しいものに書き換えるといういずれかの動作を行います。そして、重大な改ざんの場合は機器をストップさせ、サービスエンジニアが復旧させるまで使用することができなくなるようにしました。

改ざん検知を起動の度にすることで、起動スピードに影響は出ないのでしょうか。

清水:

もちろん影響が出てしまいます。ただし、セキュリティと利便性の両立をめざして、最低限の影響になるよう検討しました。セキュリティ機能なので、抜け漏れは絶対にないようチェックを行いつつ、いかに起動を高速化できるか、1000分の1秒単位の細かい検討を重ねました。

改ざん検知機能を実現するうえで、独自の工夫はありますか?

清水:

セキュリティ技術という分野では、独自性が必ずしもメリットになりません。標準的な技術で仕組みが公開されているにもかかわらず攻撃を受けないということは、それだけ頑丈な技術だと言えるのです。一方、独自技術は一般的でないゆえに、そもそも攻撃を受けないため、開発者が見つけられなかった「穴」があることもあります。そこで、標準技術やベンダー各社が提供している技術を細かく調べ、Gen3に合わせてどうカスタマイズできるか、穴のないように作るにはどうしたらいいかを特に時間をかけて検討し、カスタマイズした部分の脆弱性を取り除くことができました。

セキュリティの確保には、特有の難しさがあるのですね。

穂岐山:

セキュリティは重要な機能でありながら、これまであまり前面に出ることはなく、「守れて当然」という暗黙の認識があったように思います。セキュリティがクローズアップされ、Gen3で強化できたこと、それが実際に市場に出たことには大きな喜びを感じています。同時に、今後もさらに安心できる製品を届けていかなければという意識がいっそう高まりました。

清水:

お客さまに「セキュリティ機能があってよかった」と喜んでもらえたとしたら、もちろんうれしいのですが、それは攻撃を受けたときなので開発担当者としては複雑な気持ちにもなります。結果的には守れて良かったけれど、お客さまにとっては攻撃を受けたこと自体が不幸なことですよね。より高度なセキュリティに挑戦することも開発者のやりがいではありますが、それが必要とされるような社会にはなってほしくないという気持ちもあります。


複合機ならではの利便性にこだわるどんなに優れた機能も、使いやすくなければ使わない。「簡単・便利」の答えとしてのクラウドサービス

Profile
開発者井上 健太のポートレート画像です。

井上 健太(イノウエ ケンタ)

2012年入社。入社から複合機および周辺ソフトのUX(ユーザーエクスペリエンス)の担当を続けている。
キヤノンのここが好き:上下関係なく発言しやすい雰囲気がある
アフター5の過ごし方:家族とのだんらん

クラウドサービスも便利になったそうですね。

井上:

「uniFLOW Online」という、複合機とクラウドとを連携してさまざまなサービスを提供する、機能拡張プラットフォームを搭載しています。個人認証をする、利用履歴を管理してレポートを作成する、スキャンデータを複合機から直接外部ストレージサービスへ送信する、クラウドでつながっている他の複合機で印刷する、モバイル機器から印刷するなど、業務の効率化に貢献できる多種多様な機能があります。

uniFLOW Online

uniFLOW Onlineのイメージ図です。
クラウドサービスへの直接配信
uniFLOW Onlineのイメージ図です。
どこでも印刷

複合機の機能は、いろいろできても操作が複雑というイメージもあるのですが…

井上:

どんなに優れたサービスでも、使いにくいものは利用してもらえませんよね。uniFLOW Onlineはまだスタートしたばかりのサービスですが、誰にでも気軽に高度な機能を使ってもらえること、とにかく便利だと思ってもらえることが第一と考えています。高度な機能、複雑な仕組みはクラウドが担い、お客さまの操作はボタンを1つ押すだけ、そのような形をめざしてサービスのあり方を組み立てました。設置後最初のセットアップも、アカウントの作成からデバイス接続まで、手のかかる設定はできる限り減らし、複合機側の簡単な操作だけで完了できるようになっています。

クラウドでのサービスというのは、何か理由があるのですか?

井上:

uniFLOW Onlineのようにクラウドでサービス提供することにより、複合機本体に搭載されていない機能や、処理が重たい機能、導入が難しいシステムを、クラウドに接続するだけで簡単に利用できるようになります。さらに、同じクラウドに接続している複合機であれば、どこでも同じ機能が使えます。

たとえば、たくさんある領収書を1枚1枚スキャンするのは大変ですよね。uniFLOW Onlineは、複合機の原稿台にランダムに並べられた領収書を、1回のスキャンで1枚ずつ分けて認識し、それぞれの領収書に分けてデータ化できます。これが同じクラウドに接続した複合機であれば同じサービスがどこでも使えるのです。

お客さまがクラウドを使ったことで業務効率アップの実感が得られれば、クラウド利用へのハードルが下がり、世の中のクラウドサービスの普及やワークスタイルの変革に貢献できると考えています。

ドイツの会社との共同開発ということですが。

井上:

uniFLOW Onlineの元となるソフトウエアを作ったのが、ドイツにあるキヤノングループ会社のNT-ware社で、機能拡張プラットフォームを作るために、共同で開発を進めてきました。日本とは文化も考え方も違うので、コミュニケーションでは苦労しました。たとえば、ドイツの人は説明書などの長文を読むことをあまり厭わないそうで、操作画面でも説明文を表示することが多いのですが、日本では視覚的な情報が好まれるため、画面にはアイコンや絵を表示する方がわかりやすくなります。意見が合わないときには「お客さまが気軽に使える」というコンセプトの共有を大事にして、何度も打ち合わせを重ねて解決方法を見出していきました。

海外との中身の濃いやり取りは、それだけでもやりがいを感じます。私自身はまだ英語がそんなに堪能ではないのですが、ビジネスチャットなどを積極的に活用し、コミュニケーションを図っています。今後はドイツに行って仕事をするチャンスもあるかと思うので、楽しみですね。

クラウドとの連携で、今後がますます楽しみになりますね。

井上:

複合機というと、一般的にはコピー機、プリンターといったおなじみのイメージが強いかもしれませんが、開発に自分が携わってみると、メカ、化学、電気、基本ソフト(OS)、組み込みソフト、クラウド、セキュリティなど多種多彩の技術が結集した製品だと知って、本当に面白いと思いました。あらゆる技術のエキスパートたちと関わりながら、お客さまの困りごとを解決できたり、便利だと思ってもらえる仕事ができることに、心からやりがいを感じています。自分の専門分野の知識が、ダイレクトにお客さまの役に立っていることを感じられるのも、楽しいと思える点ですね。


オフィス環境が変わるたび新しい機器へと生まれ変わりながら現在に至る、複合機の進化の歩幅は想像以上。ワークスタイルの変化や、それに伴って生まれる新たなニーズにいかに応えるか、どうすればもっと便利に、快適になるのか、開発者たちはその答えを求めて日々挑戦を続けているということを知りました。

開発者たちの言葉は、プロフェッショナルならではの充実感と、同時に、明確なコンセプトのもと意見の違いや立場を超えて想いを一つにできる、チームだからこそのパワーを感じることができました。最強のチームが生み出す「function」が、どんなふうに「Multi」になっていくのか、これからも目が離せません。

開発者の集合写真です。

インタビュー・構成 : 後藤依子(ごとう よりこ)
印刷会社、編集プロダクションを経て、フリーのディレクター・ライターとして独立。半導体、エネルギー、工業機器、環境など、幅広い分野で執筆業を中心に制作に取り組む。