テクノロジー

イメージ

薄くて軽くて曲がる。次世代太陽電池普及への突破口

ペロブスカイト太陽電池向け高機能材料

「曲がる太陽電池」として注目が集まるペロブスカイト太陽電池。その耐久性を大きく向上させるとともに、安定した量産が実現できる可能性を秘めた高機能材料をキヤノンが開発しました。ペロブスカイト太陽電池は設置場所の自由度が高く、ビル・住宅の壁や窓などさまざまな場所で利用できるエネルギー源としての普及に貢献します。

2024年12月19日

薄くて曲がる次世代型、ペロブスカイト太陽電池

太陽電池は再生可能エネルギーとして国内外で活用が広がっています。家屋の屋根やビルの屋上、耕作放棄地などに太陽電池が設置されているのを目にするようになりました。これらのほとんどはシリコン型太陽電池と呼ばれるもので、ガラスなどの基板上にシリコンが形成される構造をとっているため、ガラス基板の重量に耐えられる強度のある場所にしか設置できないという課題がありました。

一方で、シリコン型太陽電池に代わる次世代型として近年注目が集まっている「ペロブスカイト太陽電池」。聞きなれない名前ですが、「ペロブスカイト」とは200年前、ロシア人の鉱物学者であるレフ・ペロフスキーが発見した鉱物に由来しています。このペロブスカイト太陽電池は「薄い・軽い・曲がる」という性質を持ち、シリコン型太陽電池の課題を解決すると同時に、LEDや蛍光灯など、直射日光と比較して非常に弱い室内光でも発電できるという特長を兼ね備えています。これまでのシリコン型太陽電池では設置ができなかったビル・住宅の壁や窓、高速道路の防音壁や自動車の屋根、さらには衣服への搭載など幅広いシーンでの活用が期待されます。

イメージ
「薄い・軽い・曲がる」ペロブスカイト太陽電池

二つの課題を同時に解決するキヤノン独自の高機能材料

世間からの関心が高まるペロブスカイト太陽電池ですが、実用化に向けては耐久性の向上と安定した量産の実現という二つの課題があります。

ペロブスカイト太陽電池は複数の材料を積層した構造となっています。具体的には図のように電極であるAu(金)、電子の流れを作るホール輸送層のHTL層、発電を担うペロブスカイト層、電子輸送層であるETL層、透明電極で構成されています。

イメージ
現在のペロブスカイト太陽電池の層構造

一つ目の課題である耐久性について、発電を担うペロブスカイト層は、水分、熱、酸素、光などの影響を受けやすいことからシリコン型太陽電池と比べて耐久性が低く、耐用年数が短いという問題があります。水分や熱、酸素などの影響は保護部材を用いることで防ぐことが可能ですが、長時間光が当たり続けるとペロブスカイト結晶を形成するハロゲンイオンが移動し、結晶が壊れ発電しなくなってしまいます。ペロブスカイト太陽電池は光が当たらないと発電しないにもかかわらず、光が当たり続けると発電しなくなるという相反する二つの性質があります。発電効率を維持しながら耐久性を向上するには高い技術的なハードルがあります。

イメージ

二つ目の課題は、ペロブスカイト層が有する凹凸によって安定した量産ができないことです。たとえば凸の部分では、HTL層を塗布した際に完全には覆えない箇所が出てしまい、飛び出たペロブスカイト層が電極と触れ、ショートしてしまうことがあります。ショートしている箇所が一つでもあると、全体の発電効率が大きく下がります。面積が大きくなればなるほど、ショートする箇所が増えてしまうため、大面積で安定して量産することが難しくなってしまいます。

  • ※電気回路が故障し、電極が機能しなくなってしまうこと
イメージ

太陽電池はいかに発電を効率よく、長く稼働させられるかが重要であり、ペロブスカイト太陽電池がもつ二つの課題は、普及への障壁となっていました。そうした中、キヤノンはこれまでの課題を解決するまったく新しい高機能材料を開発しました。
この高機能材料はペロブスカイト層の劣化原因となっていたハロゲンイオンの移動を防止するとともにペロブスカイト層で発生した電荷を流すという二つの機能を持っています。
新開発の高機能材料をペロブスカイト層とHTL層の間に塗布し、新しく層を設けることで、高い発電効率を維持したまま耐久性を高めることが実証されました。この高機能材料によってペロブスカイト層の凹凸を均一に覆うことができ、安定した量産を実現できます。また、耐久性が向上することにより、保守・修繕の負担が軽くなるというメリットもあります。

  • ※ペロブスカイト太陽電池の生みの親である桐蔭横浜大学との共同研究によって実証
イメージ
新開発の高機能材料を塗布したペロブスカイト太陽電池の断面図

複合機・プリンターで培ってきた技術を応用

キヤノンは製品の競争力を左右する基幹部品を材料も含め内製しており、新開発の高機能材料には、複合機・レーザープリンターの開発で蓄積してきた技術が応用されています。複合機・レーザープリンターの基幹部品である感光ドラムの層構造や各層の役割がペロブスカイト太陽電池とよく似ているため、感光ドラムで培ってきた技術を応用できるのではないかと着想を得ました。感光ドラムの層構造はペロブスカイト層の代わりとなる電荷を発生させる層があり、その上にHTL層、下にETL層があります。感光ドラムの材料技術を生かし、既存の材料に工夫を加えることでペロブスカイト太陽電池の発電効率を落とさず、耐久性の向上に貢献する材料を開発しました。

イメージ
現在のペロブスカイト太陽電池と感光ドラムの親和性に着目

ペロブスカイト太陽電池が脱炭素社会への流れを加速させる

発電効率がシリコン型太陽電池と同水準まで向上したことで、ここ数年注目が集まりつつあるペロブスカイト太陽電池ですが、耐久性と大面積での安定した量産の実現という二つの課題が普及への壁となっていました。キヤノンが開発した高機能材料によって、これらの課題の解決ができ、普及が期待されます。

耐久性が高く、大面積のペロブスカイト太陽電池が量産できるようになれば、世界中のエネルギー事情を大きく変える可能性が広がります。まずは、軽量で薄くて曲げられるという特性を生かし、シリコン型太陽電池が設置しづらい壁面などからの利用が広がる一方、将来的には寿命を迎えたシリコン型太陽電池と置き換わっていくことも想定されます。

新しい太陽電池が脱炭素社会への有効な手段の一つとなるためにキヤノンもその実現に技術で貢献していきます。

おすすめ記事

「最先端を切り拓く技術」内の記事を見る