100-500mmズームを高画質で実現しながら、小型・軽量化にも成功
RF超望遠ズームレンズ
飛行機の迫力ある離着陸、あるいは運動会で頑張る子どもの一瞬の表情。身の回りには望遠レンズが欲しくなる撮影シーンがたくさんあります。キヤノンは、これまでよりズーム域を大きく拡大しながら、軽量化も実現した超望遠ズームレンズを製品化。写真撮影の可能性を大きく広げています。
2020/12/23
100-500mmズームで撮影領域を拡大
スポーツの勝敗を分ける一瞬や、獲物を狙って水中に飛び込む野鳥の姿などを迫力ある構図で撮影をするには望遠レンズが欠かせません。プロフォトグラファーのみならず、運動会の記録や鉄道・飛行機といった身近な撮影にも望遠レンズはよく使われ、広い範囲の焦点距離をカバーする100-400mmのズームレンズはカメラファンのいわば定番となっていました。ズーム倍率をさらに広げることができれば、表現の可能性が大きく広がることは明らかなのですが、従来のレンズ開発では、サイズが大きく、重くなり、画質も悪くなるという難題はなかなか解決されることがありませんでした。
2020年、キヤノンはEOS Rシリーズ向け望遠レンズとして、新たにこれまでにない焦点距離をカバーするRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMをついに製品化し、発売しました。高画質や高速AFを維持しながらズーム域の拡大と軽量化という難しい課題を克服。キーパーツの新開発やキヤノンが長年培ってきたレンズ設計ノウハウなど多くの技術がつぎ込まれています。
EOS Rシステムの高画質特性を、望遠撮影性能の向上に活用
キヤノンには、超望遠ズームレンズとして、広いズーム域と高画質を実現するEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMというレンズがあり、これまで長い間人気を博してきました。このレンズのユーザーからの要望で最も多かったのは望遠側のズーム域の拡大でした。ミラーレスカメラEOS Rシステムに対応する超望遠ズームレンズの開発にあたっては、EOS Rシステムの大口径、ショートバックフォーカスという特性をどう生かすべきか、開発チームはさまざまな検討を行いました。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMと同じスペックなら小型化、軽量化できるという選択肢もありましたが、開発チームが選んだのは、望遠側に100mmのズーム域を拡大した100-500mmレンズの開発でした。500mmという超望遠の世界をより多くのユーザーに体験して欲しいという思いが、決断を後押ししました。
しかし、ズーム域をただ広げるだけでは副作用としてレンズの大型化やAFスピードの低下、取り入れられる光量の低下、低画質化など多くの課題が生じます。これまでと同等以上の画質、AFスピード、取り回しのしやすさなどの確保を使命に、技術者たちはこれまでのすべての設計を見直し、課題を一つずつ解決しながら開発を進めなければなりませんでした。
同タイプのEOS一眼レフカメラ用レンズEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM(左)に比べ、RF100-500mm
F4.5-7.1 L IS USM(右)の全長は14.6mm長い一方で、レンズ重量は約200gの軽量化を実現。
より滑らか、高速なAF駆動を実現
RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMに搭載されているテクノロジーのうち、最も特徴的なものは2つのナノUSMを搭載した電子フローティングフォーカス機構です。電子フローティングフォーカス機構は被写体とカメラとの撮影距離に応じてレンズ内のレンズ群を動かす機構で、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMでは、広いズーム域で収差補正を行うために、2つのフォーカスレンズ群を搭載しています。この2つのレンズ群を動かすために採用したのが、キヤノンが新開発した小型かつ薄型の超音波モーター、ナノUSMです。これまで用いてきたリングUSMでは回転運動を直進運動に変換させる必要がありましたが、ナノUSMは、もともと直進方向に動作するため、無駄なく力を与えられ、高速なAF駆動を実現しました。
さらに、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMは、ズーム域の拡大により、レンズを移動させる距離(ストローク量)も増加しています。その長さは、同じ望遠ズームレンズRF70-200mm F2.8 L IS USMの約1.5倍。そのため、レンズ群を支持するガイドバーとの接触部に初めてベアリング機構を採用しました。レンズ群を動かす際に働く抵抗は大幅に低減され、大きなレンズ群を素早く、正確に制御できるように、滑らかなAF駆動が可能になり、特に動画撮影などで高い効果を発揮しています。
また、この2つの大きなレンズを制御する技術の素となったのは、テレビやスマートフォン用画面の製造に欠かせないフラットパネルディスプレイ(FPD)露光装置の制御技術です。キヤノンがトップメーカーとなっているFPD露光装置では、巨大な2つのステージを高速で動かしながら、サブミクロン※1の精度で位置関係を素早く制御する必要があり、今回、フローティングフォーカス機構の制御アルゴリズムに応用されました。開発チームにかつてFPD露光装置の開発に携わった技術者がいたからこそできた、光学の総合力をもつキヤノンだからこそ実現した制御技術です。
リングUSM
USM(Ultrasonic Motor:超音波モーター)は、キヤノンが世界で初めて実用化に成功した、超音波域の振動により進行波を発生させ駆動するモーター。リングUSMでは、筒状のカム機構を連結し回転運動を直進運動に変換します。フォーカスユニットを高速で駆動かつ的確に停止することができ、高速AFを可能にしました。
ナノUSM
チップ状に薄型化した振動子を利用し超音波振動で前後に駆動します。ナノUSM自体が直進運動をするためフォーカスレンズをダイレクトに動かすことが可能。リングUSMよりも制御性に優れ、動画撮影時にも滑らかなピント追従を可能にしました。
歴代最多枚数※2のUDレンズを使用。色収差を徹底的に補正。
従来の一眼レフ用レンズの設計では、像面近くにレンズを配置できなかったため、画面周辺部まで高画質化を達成するためには前側にレンズを多く配置する必要がありました。EOS Rシステムでは、大口径・ショートバックフォーカスという特長を生かし、像面の近くにレンズを配置できるため、レンズ設計の自由度が格段に上がり、収差を効率よく補正することが可能になりました。その効果によってレンズ前方に配置される大きなレンズの枚数を減らすこともできるようになりました。さらに新型ナノUSMの開発により、独立制御可能なフォーカス・フローティング機構を実現することが可能になりました。
レンズの高画質化にはキヤノンが長年取り組んできたシミュレーション技術も大きく生かされています。シミュレーションはパソコンとソフトさえあれば簡単にできてしまうというわけではありません。入力する材料特性などのパラメーターはノウハウの塊です。材料が一つ変われば、シミュレーションの結果が変わってしまいます。キヤノンは、多くのレンズ開発を通して磨き上げられたノウハウをRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMの開発に惜しみなく注入。望遠域で発生しやすい色収差を抑えるスーパーUDレンズやUDレンズ、ゴースト・フレアを抑制するコーティングASCなどの配置の最適化を実現すると同時に、堅牢性についても、落下シミュレーションを綿密に行うなど、きめ細かな検証を行いました。
EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMのレンズ構成
望遠レンズでは、被写体の輪郭に色のにじみとなって現れる色収差が発生しやすい。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMでは、色収差補正能力の高い蛍石とスーパーUDレンズをそれぞれ1枚使用し、効果的な補正を行っていました。
RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMのレンズ構成
RFマウントレンズの特性により、像面の近くにに大きなレンズを配置できることで、収差補正能力を高めています。色収差補正能力の高いUDレンズ6枚、スーパーUDレンズ1枚搭載。UDレンズの使用枚数は歴代キヤノンレンズで最多です※3。
すべての設計を見直した軽量化
キヤノンは100-500mmの撮影を楽しめるよう軽量化にも徹底的にこだわりました。ナノUSMの採用で、リングUSMに比べて、部品点数が少なくなり、軽量化。さらに、マニュアルフォーカスリングの電子化をはじめ、使用している部品・部材のすべてを一から見直しました。すべての部材の軽量化検討をはじめとした地道な改善を積み重ねることで、重さ約1370g(三脚座含まず)という軽量化を実現。従来のEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM(約1570g、三脚座含まず)からズーム域を拡大したにもかかわらず全体で、約200gの軽量化を実現しました。一見、RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMは望遠側F値が暗いために軽量化できたのではと思われがちですが、100-400mmの範囲では従来の100-400mmレンズとほぼ同等のF値を実現していることからも、このレンズが高画質と軽量化を両立していることが分かります。
望遠撮影の可能性をさらに広げる
キヤノンならではの高画質を維持しながら、キヤノン初の100-500mmという焦点距離範囲の拡大と軽量化を同時に実現したRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM。撮影者はこれまで以上に快適に、よりクリエイティブに撮影を楽しむことができ、撮影領域の可能性の拡大に貢献します。キヤノンではこれからもRFレンズの技術向上を図り、撮影者の表現領域をさらに拡大していきます。