しくみと技術スパッタリング装置
半導体の製造に欠かせない真空薄膜形成装置
生成AIの発展に伴い、データセンター向けの半導体を中心に需要が高まっています。スパッタリング装置は、高度な真空技術を使い、高品質・高精度な成膜を実現し、半導体製造を支えています。
2025年10月21日

スパッタリング装置のしくみ
スパッタリング装置とは
スパッタリング装置とは、半導体デバイスの回路をつくるために、ウエハー上に薄い膜を形成する装置です。特に、生成AIや自動車業界などでの需要が増加している半導体の製造に使われています。
半導体チップの製造工程は、電子回路パターンをウエハー上に形成する前工程と、電子回路が描かれたウエハーを一つひとつのチップに切り出して、電子機器の中できちんと動くように組み立てる後工程に分けられます。
半導体製造装置の1つであるスパッタリング装置は、主に前工程において、ウエハー上に配線などをつくるために必要な薄膜を形成(成膜)するために使われます。1つの半導体チップの上に、多いもので30層以上の膜が積み上げられ、1層の厚さは薄いもので1nm※以下という高精度な成膜技術が求められます。
※ 1nm (ナノメートル)は、10億分の1メートル
前工程



後工程



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キヤノンのスパッタリング技術
1nm以下の極薄膜を均一に形成できる「斜め入射回転成膜技術」
斜め入射回転成膜技術は、プラズマを発生させる「カソード」といわれる電極をウエハー面に対して斜めに配置して、ウエハーステージを回転させながら成膜を行う技術です。均一に成膜でき、膜の厚さのコントロールもしやすいため、とても薄い膜を精密に制御してつくることができます。さらに複数の成膜材料を配置でき、異なる種類の材料を積み重ねていく多層成膜も可能にし、30層以上を成膜することができます。
この技術により、半導体デバイスの省電力化に貢献する不揮発性メモリー※をはじめとした多様な半導体デバイスの製造に貢献しています。

※ 電源をオフにしても記憶内容が保存されるメモリー。USBメモリーやSSD、交通系ICカードなどが代表例
原子拡散接合技術への応用
半導体デバイスの製造では、ウエハーとウエハーを貼り合わせることで、高性能化する技術が進化しています。その技術を実現するのが、原子拡散接合装置です。スパッタリング技術を活用し、貼り合わせたいウエハーの接合面に接着剤としての薄膜(接着膜)を形成することで、材料同士を接合します。この際に、接合面で接触した原子が相手の原子の並び方に従って配列を変える原子拡散現象を活用することで、キヤノンの原子拡散接合装置は接合後の境目がほとんど判別できないほどに強固に接合できます。

右:原子拡散現象による強固な接合
(コラム)2024年度グッドデザイン金賞を受賞したスパッタリング装置「Adastra」
Adastraは、製造する半導体デバイスに合わせて装置構成を自由に選択できるため、多様なニーズに柔軟に対応できるスパッタリング装置です。生産性と環境配慮の両立が求められる半導体業界において、省スペース・省エネルギーでナノレベルの薄膜が成膜できるようになりました。この装置は、デザイン性やユーザビリティ向上が評価され、国内では、2024年度グッドデザイン金賞、第55回 機械工業デザイン賞IDEAで最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞。さらに、国際的なデザイン賞であるドイツの2025年度iFデザインアワードでも金賞を受賞し、技術力とデザイン性で高い評価を得ています。