鳥が教えてくれること vol.7

COP10から10年
新たなる目標は

2022年11月更新

COPとは?

生物多様性は動物や植物だけでなく、人類にとってもさまざまな恵みをもたらす非常に重要なものである。国単位ではなく世界全体で生物多様性を保全する必要があることから、以下を目的として1992年に開催された国連会議(リオ地球サミット)において「生物多様性条約」が採択され、翌1993年に発効した。

  1. 生物多様性の保全
  2. 生物多様性の構成要素の持続可能な利用
  3. 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分

締約国は196の国と地域で、2年に1回開催される締約国会議(Conference of the Parties)は「COP」と略される。

達成されなかった愛知目標

2010年に愛知県名古屋市で開かれた生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)では、2050年までに達成すべきビジョンとして日本から提案された「自然と共生する世界」が採用され、2020年までの短期目標として20の愛知目標が採択された。このときに設定した愛知目標がどの程度達成できたかについては、各国から提出された国別報告書や「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)」の報告書をもとに「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)」にまとめられた。
GBO5によると、「ほとんどの愛知目標についてかなりの進捗が見られたものの、20の目標で完全に達成できたものはない」とされている。日本の達成状況を見ると、以下の6つの目標は達成できたとされているが、残りの14目標については進捗したが不十分となっている。

<達成した6つの目標>

目標9
侵略的外来種対策
目標11
陸域の17%、海域の10%を保護地域等により保全
目標16
ABS(遺伝資源へのアクセスと利益配分)に関する名古屋議定書の施行・運用
目標17
国家戦略の策定・実施
目標19
関連知識・科学技術の向上
目標20
資金を顕著に増加

世界的に目標が十分達成できなかった要因の一つとして、各国が定めた国別の目標の範囲やレベルが世界的な目標達成と整合していなかったことが指摘されている。

愛知目標と達成状況
(出典:環境省「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」より)

必要とされる社会変革

一方でIPBESの報告書(2019)では、「自然がもたらすもの(NCP)」(※1)の劣化を引き起こす要因は過去50年で加速していることと、その要因として従来からの取り組みがある陸域や海域の利用、生物の狩猟採取、気候変動、汚染や外来種などの直接的な要因とは別に、生産や消費、人口動態、貿易、技術革新、ガバナンスなどの間接的な要因があるとされている。そしてこれらの要因に対処するためには、従来の保全活動などでは不十分であるため、社会変革の必要性が叫ばれている。

※1 従来使われてきた「生態系サービス」という概念は、自然がもたらす負の側面を含まないという誤解を与えるため、近年では「自然がもたらすもの(Nature's contributions to people= NCP)」に移行しつつある

生物多様性減少を明示する直接的または間接的な変化要因による世界的な自然劣化の例
(出典:IPBES「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書 政策決定者向け要約」より引用)

「ネイチャーポジティブ」という新たな概念

こうした報告や分析をもとに、現在「ポスト2020生物多様性枠組」と呼ばれる、愛知目標の次の目標・行動計画の検討が行われている。そのなかで出てきた重要な概念が「ネイチャーポジティブ(※2)」だ。
COP10が開催された当時、生物多様性の劣化がある時点を超えてしまうと、回復不可能な劣化が急速に進行するという考えがあり、愛知目標では「自然と共生する世界」を実現することをめざし、「2020年までに生物多様性の損失を止めるための効果的かつ緊急の行動を実施する」という20の個別目標が設定された。これに対して次期生物多様性枠組みでは、これまでの取り組みの延長では不十分なため、2030年までの期間で生物多様性のロスをマイナスからプラスに転じ、回復軌道に載せ、2050年には十分回復した状態にもっていくことが必要という考え方がされている。

※2 生物多様性や自然を優先する、増やす、損失をプラスに転じさせるなどの意味を持つ

生物多様性の損失を減らし、回復させる行動のポートフォリオ
(出典:Global Biodiversity Outlook 5 (Secretariat of the Convention on Biological Diversity, 2020))
ネイチャーポジティブにおける3つの定量目標
(出典:Rockström, J., Locke, H. et al.:Nature-positive World: The Global Goal for Nature(2021))

ネイチャーポジティブ実現のための「30by30」

30by30(サーティ・バイ・サーティ)と呼ばれる目標は、「ポスト2020生物多様性枠組」のなかで議論されている「陸域及び海域の30%を健全な生態系として保全する」という目標だ。2021年6月に開催されたG7サミットでも、「G7 2030自然協約」というネイチャーポジティブの実現に向けた目標の一つとして、G7各国が世界に向けて自国の少なくとも同じ割合を保全・保護することについて約束した。愛知目標では陸域の17%、海域の10%の保全が目標だったので、かなり野心的な目標だと言える。
この目標を実現するために、国の法律等による保護地域の拡張も検討されているが、それだけでは不十分なため、地域、企業、民間の取り組みが生物多様性の向上に貢献している場所(OECM:other effective area-based conservation measures)を認定・登録しようという動きがある。実はこの考え方は現在の愛知目標にも盛り込まれていた。愛知目標の「目標11」では「陸域の17%、海域の10%が保護地域等により保全される」とあり、保護地域等の「等」がこれにあたるが、日本国内では具体化されてこなかったものである。
現在、新たな取り組みとして、企業やNGOなどの民間、地域が管理する土地のなかで生物多様性の向上に貢献している場所を「自然共生サイト(仮称)」として環境省が認定し、保護地域と重複していない部分については世界のOECMのデータベースに登録する仕組みづくりが進められている。国による認定は、企業の生物多様性向上の取り組みの評価として、また民間の取り組みの後押しになるものだ。2022年4月には産業界、官公庁、民間を合わせた17団体が発起人となって「生物多様性保全のための30by30アライアンス」が発足し、「自然共生サイト」への認定の試行がスタートしている。

ビジネスとネイチャーポジティブ

生物多様性とビジネスの関係性を強化する取り組みもその一つ。ネイチャーポジティブを実現するためには、自然資源の消費の削減や、持続可能な生産の取り組みが必要なことが示されている。一方で、世界経済フォーラムの報告書(2020)では、世界のGDPの半分以上(44兆ドル)が自然の損失によって潜在的に脅かされていることが示されている。またネイチャーポジティブな経済に移行することで、年に10兆ドルのビジネスチャンスと4億人の雇用を生みだせるとされている。
そのために企業を動かす取り組みとして、企業の財務情報に生物多様性への関与を開示するという動きがでてきている(TNFD)。まだ検討中とのことだが、調達から生産、廃棄までどのように生物多様性に影響しているかという情報を開示して、投資家はそれを参考にして投資先を選ぶという仕組みだ。すでに気候変動の分野ではカーボンの排出、削減の情報公開が行われ、カーボンクレジット(※3)という仕組みがあるが、今後、生物多様性クレジットというしくみもでてくるかもしれない。

※3 企業が森林の保護や省エネルギー機器導入などによる温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)をクレジット(排出権)として発行し、他の企業などとの間で取引できるようにする仕組み

未来の世代に向けた選択と行動

コロナの影響で、2020年に開催される予定だったCOP15は2022年12月に延期になってしまった。しかし、その間に開催されたG7での2030年「自然協約」やその後のG20で、各国首脳がネイチャーポジティブや新型コロナウイルスの経験から将来のパンデミック予防のためのワンヘルス、海洋プラスチックへの取り組みなど、次期生物多様性枠組での議論に対して好意的な宣言がでている。
一方、国内においては環境省を中心に、次期生物多様性国家戦略の策定に向けた議論が行われており、愛知目標の達成が不十分だった原因として、各国の国家戦略の目標や指標が十分でなかった点が指摘されている。次期国家戦略はCOP15の内容も受けて年度末までには策定されるので、注目する必要がある。
私たちが未来の世代にどんな自然を残せるかは、今を生きる私たちの選択と行動にかかっている。

解説者紹介

葉山 政治

1957年福岡県生まれ。
サンクチュアリのレンジャーを経て、財団事務局の自然保護室の担当となる。
野鳥保護事業全般を統括するなかで、野鳥保護や生息地保全に関する法令の改定や、自然環境に関する施策への提言などの活動を行っている。

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