仕事と人

内閣府への出向

キヤノン知財では、広い視野と高い視座をもった人材の育成に力を入れています。その一環として内閣府知的財産戦略推進事務局への出向があります。

西川 悟史

西川 悟史 (2013年入社)

  • 知的財産法務本部 特許技術職
  • 2019年7月~2021年6月
  • 内閣府知的財産戦略推進事務局に出向

出向したきっかけを教えてください。

―以前から上司との定期的な面談などの場で国内外グループ会社や外部団体への出向希望を伝えていました。キヤノン知財から歴代何名も内閣府に出向しており、過去の出向者からの話を聞き興味をもっていました。出向前はわからないことだらけで不安もありましたが、前任の高橋佳子さんから引き継ぎを受け、安心して出向できました。なお、高橋さんは知財本部全体を統括する部門へ帰任し、私は事業部門や開発部門と直接やり取りする部門へ帰任し、いまは双方の視点から新たな取り組みについて議論しつつ進めています。

出向先での業務について教えてください。

―内閣府知的財産戦略推進事務局は、知的財産推進計画*1の策定にあたって、企画・立案や各省庁との調整などを行います。私は、産業競争力強化に資する政策を担当するチームに所属し、「経営デザインシート」(図1)の普及啓発やオープンイノベーション推進、中小企業支援などの政策に従事していました。大企業の知財関係者や中小企業の経営者への政策説明や、有識者会議の運営などを行っていました。

*1 知的財産推進計画とは、知的財産基本法(2002年成立)に基づき、知的財産戦略本部が毎年策定する。知的財産戦略本部は内閣に設置されており、内閣総理大臣が本部長を務める。

[図1:経営デザインシート]
「企業等が、将来に向けて持続的に成長するために、将来の経営の基幹となる価値創造メカニズム(資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造する一連の仕組み)をデザインして在りたい姿に移行するためのシート」のこと。内閣府が2018年5月に公表。詳しくは「経営をデザインする(首相官邸ウェブサイト)」へ。

出向で経験したことや学んだことを教えてください。

―出向先の業務は、キヤノンとは業務の進め方も必要な知識も全く違うものであったため、出向先の「普通」に慣れることが最も大変でした。たとえば、政策説明をする立場として、さまざまな質問を受けてもその場でしっかりと回答できることが「普通」であり、そのレベルに達することが大変でした。どのような質問にも答えるためには、政策そのものだけではなく、その背景にある社会情勢、関連する政策(デザイン経営*2など)も含めて幅広く理解することが必要であり、それらは特許権利化業務とは全く異なるものであるため、理解に苦労をしました。苦労の甲斐もあって経営デザインシートの講演や政策の取りまとめ、関連省庁との調整などを任されるようになったのは、嬉しかったです。また、このような業務を通じて、各企業の知財上層部の方の意見や経営者が知財を見る視点に触れることができ、知財と経営が切り離せないことを実感して視野が広がりました。
また、「価値デザイン経営の普及に向けた基本指針~ニュー・ノーマルにおける価値デザイン社会の実現を目指して~」*3の策定に主担当として関わったことは特に印象に残っています。委員の方々のご意見、関係省庁の方針を踏まえながら、自身が盛り込みたいと考えていた要素を融合させつつ取捨選択し、一つの基本指針にまとめることはとても苦労しましたが、「価値デザイン経営」の理解がさらに深まりましたし、調整力や、経営デザインシートの考え方に倣ってこの基本指針を策定したこともあって、将来を構想する考え方も身につきました。自分の作成した文章や図面が公的な資料として広く一般に公開され続けるのは緊張感もありますが、非常にやりがいのある業務であったといまでも思います。

出向先で得た経験はいまの仕事にどう生かしていますか?

―知識面とマインド面、そして人脈の広がりがあります。知識面では、経営デザインシートを普及啓発する過程でほかにもさまざまなフレームワークについて学びましたので、帰任してからはシーンに応じてフレームワークを業務にうまく活用できるようになりました。たとえば、フレームワークは、うまく書くことに注力するのではなく、どう活用するかを意識しています。
マインド面では、先ほど述べたように、知財と経営は切り離せないことを改めて認識するようになり、経営者や事業責任者の立場になったつもりで自身の知財業務を考えるようになりました。たとえば、「この特許出願は事業全体においてどんな役割なのか。提供価値を実現するための機能や技術のうちどれに関連するものなのか」などを考えるようになりました。

出向先で得た経験はいまの仕事にどう生かしていますか?

「特許」だけではなく「知財」を意識するようになったのも大きな変化です。たとえば排他的独占権という観点で特許は重要ですが、特許以外の知財権あるいはノウハウなどの広義の知財がそのビジネスの肝になることもあります。ビジネスを推進するためのツールとしてどんな知財が必要なのかと広く考えるようになり、また、特許権利化にあたっては、目的に応じてどんな特許を新たに取得する必要があるのか意識をするようになりました。早いタイミングで、こういった考え方をできるようになったという点でも今回の出向はとてもいい経験だったと思っています。
それ以外にも、経営デザインシートを介していままで接点のなかったグループ会社の方とつながったり、出向中に知り合った他社知財部門の方と意見交換をしたりして、グループ内外での人脈を広げています。

出向を経て、自身は、未知の分野にチャレンジすることが性に合っていることにも気づき、新規事業立ち上げ支援にチャレンジしたいと思うようになりました。現在は、グループメンバーとともに、イメージング事業における新規事業立ち上げ支援として知財部門ができることを考えながら実践しています。将来的には全社横断的に新規事業立ち上げ支援を行えるような人材になりたいと思っています。

歴代の内閣府知財事務局出向者の一部。歴代出向者は、特許権利化部門、知財渉外部門などで活躍中。