未来に向けて

「これからの研究開発に向けて」

キヤノン株式会社
代表取締役副社長 CTO

本間 利夫

キヤノン株式会社 代表取締役副社長 CTO 本間 利夫

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キヤノンは創業以来、独自技術をもとに独創的な商品を開発し、事業の多角化を実現してきました。これを支えてきたのが、商品を生み出す「コアコンピタンス技術」と、技術蓄積のベースとなる「基盤要素技術」、さらにここに、生産・情報システム・知財・品質・デザインなどの商品開発を支える「価値創造基盤技術」を有機的に組み合わせる「コアコンピタンス・マネージメント」という研究開発の仕組みで、その仕組みがキヤノンの大きな強みになっています。

そして、その研究開発の現場では、知財部門のメンバーが技術者と一体となり技術と商品の開発活動を進めています。その中では、技術者が見逃しがちな新たな技術の芽を、知財の専門家の視点で権利化につなげる活動が日々行われ、技術を、そして事業を守るための知財活動が共同で行われています。

一方で、現状では、ニューノーマル社会の実現に向けて、さまざまな社会課題の解決に、技術が複雑に組み合わされるようになり、保有技術がこれまでとは違った技術分野に活用されることも起こっています。これからの研究開発では未来の予測されるニーズに応える技術開発を進めると同時に、開発する技術の活用による新たな事業の創出も考慮し、必要な知財を創出するとともに、知財を使って技術開発や事業の自由度を確保しておく必要があります。そのために、研究開発部門と知財部門との連携を深化させていきます。そして、社会課題の解決並びに未来のニーズに対応したイノベーションを起こし続け、新たな価値を未来社会に提供することをめざしてまいります。

知財活動の基本戦略
~勝ち続けるために~

キヤノンの知財活動では、「長期的な視点に立ち、目の前の戦いに勝ち続けるために」、技術や事業を先読みし、攻めの知財、守りの知財を実践してきました。それに応えるべく、以下の3つを有機的に結合したオープン・クローズ戦略を実践して勝ち続ける知財活動を基本戦略としています。

  1. 01.コアコンピタンス
    技術に
    関わる特許
  2. 02.通信、GUI
    などの汎用技術に
    関わる特許
  3. 03.他者が容易に
    到達できない
    検証困難な発明
  1. 01.競争領域において事業を守る特許としてライセンスせず、競争優位性の確保に活用する。
  2. 02.クロスライセンスに活用する(当該特許のライセンス許諾と引き換えに他社特許のライセンスを受ける)ことで、研究開発や事業の自由度を確保する。
  3. 03.ノウハウとして秘匿し守ることで、他社の追従を許さず、競争優位性を確保する。
知財活動の基本戦略知財活動の基本戦略

知財活動の推進

1960年代の電子写真のNP方式に始まり、バブルジェット、交換レンズ、消耗品、生産技術などの守りの知財は、長年にわたりキヤノンの現行事業のベースを支え、また、攻めの知財は、カメラやプリンターなどの電子化、デジタル化への対応に大きく貢献し、事業の発展や拡大に寄与してきました。

このような知財活動の基本的な考え方は変わることなく受け継がれていますが、時代とともに知財戦略・戦術は変化しています。たとえばカメラにおける競合相手はめまぐるしく変化し、事業では競合しないが特許で競合するIT系企業が出現するとともに、自動車や住宅など共通のIT技術を使う業界が広がり、知財問題の交渉先は多岐にわたっています。訴訟戦略・交渉戦略を時代に合わせて革新的に進化させ、相手に応じて臨機応変に戦うために戦術の引き出しを多く用意する必要があります。そのためにキヤノンは、戦う武器である特許ポートフォリオを事業ポートフォリオや時代の変遷とともに刷新する知財活動を推進します。

キヤノンはいま、商業印刷、ネットワークカメラ、医療機器、産業機器の4つの新規事業を飛躍させようとしています。また、自由視点映像、XRなどの次世代イメージング、次世代ヘルスケア、スマートモビリティなど将来のビジネス創出にも力を入れています。知財部門は、これら新しい事業が持続的に発展・成長するために、事業のコアコンピタンス技術の特許出願・権利化はもちろんのこと、時代を見据えてさまざまな分野の技術についても特許の出願・権利化を行い、強い特許ポートフォリオを維持するための活動を行っています。M&Aに伴い新規事業のコアとなる特許はグループ会社で多く生まれています。国内外グループ会社の知財部門とのシナジーを高め、キヤノングループとしての知財活動の基盤を強固にし、グループポートフォリオを強化していきます。

世の中は、ニューノーマル、DX時代となり、AI・IoTを組み入れたCPS(サイバーフィジカルシステム)に欠かせない技術がますます重要になり、また、SDGsなど社会課題の解決にも長期的に取り組まなくてはなりません。新規事業や現行事業に関わらず 、キヤノンの製品やサービスは、CPSや社会課題との有機的な結びつきが必要になります。
したがって、画像データの圧縮、無線通信、無線給電などIT系の標準必須特許や標準技術の製品実装特許の創出と活用に、より一層注力していきます。また、サイバー・フィジカル空間の出入口となるセンサー、アクチュエーター、ディスプレイ、UI(ユーザーインターフェース)自体やそれらを利用したシステムの知財にも注力します。省エネルギー、リサイクル素材、廃棄物の少ない製造方法など環境配慮技術には、長期的視点に立ち、これまで以上に取り組みを強化します。協調領域や社会課題に関連する領域では、特許の創出だけではなく、意匠・商標やブランド力の活用、サプライヤーやユーザーとのアライアンスなど、知財を使って新たな価値創造につなげていきます。

そしてキヤノングループとして、知財を活用し、事業の競争優位性と自由度を確保し、付加価値の高い、あるいは新しい価値を生む製品・サービスを提供し続け、より良い未来社会の創生に貢献していきます。

グローバル優良企業グループ構想
フェーズVIにおける知的財産活動NEW

キヤノンは、グローバル優良企業グループ構想フェーズVIにおいて、プリンティング、イメージング、メディカル、インダストリアルの各グループの事業競争力の強化を図る一方、ボリュメトリックビデオ、XRなどの次世代イメージング、次世代ヘルスケア、スマートモビリティといった将来のビジネス創出にも力を入れています。知的財産部門は、これらの事業が発展・成長するために、光学技術、映像処理・解析技術などのコアコンピタンス技術、AI・IoTを組み入れたサイバー&フィジカルシステムに欠かせない技術に関する知的財産の創出・権利化に力を入れています。

プリンティング プリントエンジン×ソリューション

プリントエンジン、材料、キーコンポーネントなどのプリンター本体に関する次世代コア技術の特許ポートフォリオを強化しています。 併せて、在宅ユーザー、シェアオフィスユーザーを含む多様な顧客へと提供されるさまざまなソリューション技術の特許ポートフォリオを構築することでプリンターを取り巻く印刷事業全体の差別化を支援し、印刷事業を支えるさまざまなグループ会社との知財連携体制を強化しています。

イメージング カメラ事業から光学産業へ

光学やセンサーなどのコア技術を駆使したミラーレスカメラに加え、ネットワーク技術をコア技術に融合させることで映像制作やセキュリティ用途のカメラ群へと映像ソリューションを展開しており、これらの特許ポートフォリオを拡充しています。
さらにボリュメトリックビデオ、XRなどの3次元空間の映像処理技術、運転支援用カメラに代表されるスマートモビリティ領域など、次世代のエンターテインメントや社会インフラを支える領域でも積極的に知的財産を創出しています。

メディカル 医療現場に提供される新たな価値、競争力強化と事業領域拡大

プレシジョン・メディシン(個別化医療)の提供へと進化するAIソリューション、次世代型検出器搭載CTなど、医療現場に次々と提供される新たな価値を創造する技術ポートフォリオを、知財戦略に展開します。
知的財産活動を通じて、グループ内の技術シナジー実現や国内外研究機関との連携支援、画像診断領域の競争力強化とヘルスケアITや体外診断などへの事業領域の拡大に貢献しています。

インダストリアル 半導体業界の革新

露光装置、ダイボンダー、OLED製造装置、スパッタリング装置などの分野においては、特許とノウハウによるオープン&クローズ戦略を実施し、産業機器IoTにも注力しています。
ナノインプリントリソグラフィ(NIL)では産学官連携やグループ会社連携を利用し、材料技術、要素技術、装置技術から半導体プロセスまで、強靭な特許ポートフォリオを構築しています。

グローバル優良企業グループ構想フェーズVIにおける知的財産活動グローバル優良企業グループ構想フェーズVIにおける知的財産活動

特許ポートフォリオの構築NEW

キヤノンは、さまざまな環境変化から次の時代の社会や経済の流れを読み取り、事業のコアコンピタンスに関わる知的財産権の取得はもちろん、これからのビジネスの流れを先取りした知的財産権の取得に大きなリソースを投入しています。同時に、定期的に特許の価値を評価し、保有する権利の入れ替えを行い、強い特許ポートフォリオを維持しています。

  • 事例1:映像処理・画像処理×AI

    キヤノンのコア技術の一つとして映像処理・画像処理技術がありますが、この技術をベースに新しい技術・発明が生まれています。たとえば、映像処理・画像処理技術×AI関連技術の世界における特許保有件数(ファミリーベース)は2位(2023年3月時点)です。このような要素技術は、イメージンググループの認識技術、メディカルグループの画像診断などに生かされており、より良い製品・サービスの実現に貢献しています。 世界における画像関連のMachine Learning&AI関連の特許保有ランキング(登録)

    事例1:映像処理・画像処理×AI事例1:映像処理・画像処理×AI
    LexisNexis社 PatentSight®を用いて当社作成
    (2023年3月2日のデータに基づく。ip-search Tech Field—スイス連邦知的財産庁が定義・維持している技術分野—および画像関連のIPCとしてH04N,G06Tを使用)
  • 事例2:3次元空間の映像処理

    キヤノンは、イメージングの役割を「撮る・見る」から、「映像体験」、「映像活用」へ広げ、新しい事業領域を作るために3次元空間の映像処理に力を入れています。これに対応し、コアコンピタンスと汎用技術の両者について知的財産ポートフォリオの構築を拡充しています。その一つとして、ボリュメトリック映像に関連する知的財産ポートフォリオがあり、たとえば 、ボリュメトリック映像の高画質化、アリーナやスタジアムにも対応した大規模映像データのリアルタイム高速処理に貢献する特許権や、映像制作、配信に貢献する特許権があります。このボリュメトリック映像技術は、米国でのプロバスケットボールや日本のプロ野球のスポーツ映像、CM、ミュージックビデオなどでも利用されています。 ボリュメトリック映像技術の特許ポートフォリオの推移(世界延べ数)

    事例2:3次元空間の映像処理事例2:3次元空間の映像処理
  • 事例3:標準化活動

    キヤノンは、国内人材だけではなく、標準化活動のエキスパートである海外研究所の人材も活用し、標準化団体への積極的な参画を通して世界の技術発展に貢献し続けています。これまでの技術貢献の中で生まれた多数の発明は、キヤノンの標準必須特許ポートフォリオを継続的に拡大させています。キヤノンの保有する特許としては、移動体通信(Beyond5G、6G)、無線LAN(Wi-Fi)、動画圧縮(HEVC、VVC)、無線電力伝送(Qi)などがあります。これらの次世代の技術標準を構成する特許が、自社のみならず他社の製品やサービスにおいても採用されることで、我々の特許の価値が高まり、キヤノンの知財競争力をますます高めています。

    事例3:標準化活動事例3:標準化活動