キヤノン知財の歴史

ターニングポイントでたどる知財史

キヤノンの知財活動は、1935年に「キヤノン(Canon)」を商標登録するところから始まります。
以降、海外での特許取得や発明賞受賞、特許課の設立、他社との攻防など、数々のターニングポイントを経て現在にいたります。85年以上にわたる長い知的財産活動の歴史から、特筆すべき事柄をピックアップして紹介します。

  • 1935年キヤノン最初の商標登録

    1934年に誕生した、カメラの最初の試作機は「KWANON(カンノン)」と名づけられました。この名前は、観音様の御慈悲にあやかり世界で最高のカメラを創る夢を実現したい、との願いを込めたものでした。やがて、カメラの本格的な発売開始に向けて、世界で通用するブランド名が必要になりました。そこで翌年、「キヤノン(Canon)」を商標として登録しました。現在のキヤノンのロゴマークのデザインは、この時の商標登録出願書に書かれた文字が原型となっています。「C」の文字の先端が内側に折れ、シャープに尖っている独特な形は、当時からのデザインです。

    • 1934年からのキヤノンロゴ
      1934-
    • 1935年からのキヤノンロゴ
      1935-
    • 1953年からのキヤノンロゴ
      1953-
    • 1956年からのキヤノンロゴ
      1956-
    カンノン(試作機)
  • 1943年キヤノン最初の特許登録

    キヤノンの知的財産活動は、ライカ社(ドイツ)の特許に触れない実用新案を取得するところから始まりました。そして1943年に、キヤノンで初めてとなる「遮光幕の捲揚が完了せざれば之を釈放し得ざらしむる装置」という、カメラに関する特許が登録されました。その後、事業を行う外国でも特許の取得を意識し始め、1952年には、アメリカで最初のカメラホルダーに関する特許が登録されました。

    特許第156571号
    米国特許
    第2,589,892号
  • 1958年全国発明表彰(社団法人発明協会)で
    発明賞受賞

    キヤノンでは、技術部門のトップが「世界一の製品づくりを進めるには、『特許』と『デザイン』に注力する必要がある」と早くから説いており、独自技術の開発とその特許権利化に力を入れていました。初めて賞を受賞したのは1958年。多大な功績を挙げた発明として、社団法人発明協会が主催する全国発明表彰にて、発明賞を受賞しました。それ以来、恩賜発明賞、科学技術庁長官賞、特許庁長官賞、日本商工会議所会頭発明賞、朝日新聞発明賞、など数々の賞を受賞。21世紀に入ってからも、内閣総理大臣賞をはじめ多数の賞を受賞しています。

  • 1958年特許課創設

    キヤノンの研究開発が、カメラ・光学機器以外の分野へと広がり始めると、研究開発部門の体制固めと呼応して、技術部に「特許課」が設置されました。この時の特許課は4人体制で、社内の発明者と外部の弁理士とのやりとりを仲介する仕事が中心でした。その後、研究開発の成果を確実に権利化することを目標に拡充されていき、事業の展開に対応した知的財産活動を推進する体制が作られていきました。

  • 1960年知的財産権に関する取扱規定を制定

    1960年には、発明などの奨励策として、「発明考案に関する特許権・実用新案権・意匠権の取扱規程」「事務取扱要領」「特許審査委員会規程」を制定しました。開発活動を活発に行い、その成果を知的財産権という形にした従業員には、会社が一定の対価を支払うことを明文化したことで、開発活動はより活発化していきました。キヤノンの従業員発明に対する基本的な取り組み体制はこの時固まりました。

  • 1960年代他社との特許攻防がスタート

    1960年代に入り、キヤノンは複写機の開発を始めました。当時、独占的に普通紙複写機を販売していたゼロックス社の特許網に触れない複写機の開発は不可能だとされていましたが、1965年には、ゼロックス社の特許網に抵触しないNP方式という独自システムの開発に成功しました。複写機事業に先行してNP方式に関する強力な特許網を形成し、1967年に複写機事業をスタートさせました。ゼロックス社とはさまざまな攻防がありましたが、1978年にクロスライセンス契約を結びました。この挑戦から、事業における特許戦略の重要性が社内に浸透。知的財産活動を重視する姿勢は今日にいたるまで受け継がれています。

    キヤノン初の複写機
    「NP-1100」
  • 1987年商号商標審議会を設置

    1987年に設置された商号商標審議会にて、キヤノンブランドを維持し向上させるため、商号・商標での「キヤノン」の使用および「Canonロゴ」使用に関するルールなどを規定しました。以来、標章管理委員会(2003年)、ブランドマネジメント委員会(2011年)と名称の変遷を経ながら、知財本部長が委員長を歴任。関連する多くの部門と連携し、キヤノングループの全体最適を最重要視した観点からキヤノンブランドを維持・向上させる活動を行っています。

  • 1987年単年の米国特許登録件数で
    初のランキング1位に

    特許に対して高い意識を有する企業となったキヤノンは、世界最大の市場である米国において特許取得を積極的に行ってきました。1987年には、米国特許登録件数ランキングで初めて1位になっています。この年は、上位5社のうち3社が日本企業でした。米国特許を重視する姿勢は現在も受け継がれており、キヤノンは、米国特許登録件数ランキングで、1986年から5位以内にランクインし続けています。

    1987年の米国特許登録件数
    1 キヤノン 846
    2 日立製作所 845
    3 東芝 824
    4 GENERAL ELECTRIC COMPANY 779
    5 U.S. PHILIPS CORPORATION 687
  • 1989年知的財産法務本部へ名称変更

    知的財産部門は年々強化され、特許の出願件数の増加やライセンス交渉の増加に伴い要員が増加してきました。組織の名称も拡大につれて1972年には「特許部」、1983年には「特許法務センター」に、1987年には「特許法務本部」となりました。1989年には、特許だけでなく、意匠、商標、営業秘密などさまざまな知的財産を扱うことから、「特許法務本部」から、「知的財産法務本部」へ名称を変更しました。現在では数百名の組織となっています。

  • 1990年単年のライセンス収入が100億円を超える

    キヤノンの知的財産活動は、ライセンス収入の獲得が主目的ではなく、事業の発展を支えるために行われています。強い特許を多数保有することで、特許を侵害する第三者に侵害訴訟を提起したり、他社とクロスライセンスを結び事業の自由度を確保したりすることで、事業の発展に貢献してきました。クロスライセンス締結の際は、自社の特許力が他社よりも強い場合、ライセンス収入を得ることができます。キヤノンの単年のライセンス収入は、1990年には100億円を突破し、その後も高い水準を維持しています。

  • 2000年代米国のPAEとの係争が激化

    2000年代に入ると米国で、特許を他者から購入し、自らは特許を製品化することなく、主にほかの事業会社に対する特許訴訟を通じて収入を得る「PAE(Patent Assertion Entity)」が台頭し始めました。以降、キヤノンに対してもPAEによる訴訟が数多く提起されましたが、根拠のない不当な訴訟には断固として立ち向かい、いくつかのケースでは完全勝訴を勝ち取っています。

  • 2001年発明ブラッシュアップ会議をスタート

    キヤノンでは、特許につながるアイデアは(特許)提案と呼ばれ、そのアイデアを生み出した発明者自身が提案書という形で執筆します。知財部門は、この提案書から、発明の本質を見極める作業、すなわち、アイデアを技術思想として捉える作業を行った上で、知財担当者や代理人により出願明細書を仕上げ、特許出願を行っています。キヤノンは1990年代~2000年代前半に1万件前後の特許出願を行っていましたが、開発期間の短縮要求などに伴い十分な検討がされていない提案が散見されるようになり、また、技術思想化により提案書と出願明細書の中身が大きく変わってしまうことも増え、その対応に多くのリソースを割いていました。そこで、2001年、アイデアの段階で権利化の可能性を含めて発明の本質を見極める検討を行い、それを評価し、案件ごとにどこまで明細書を充実させるかを判断する試みを始めました。アイデアを評価し、グレードアップさせるという仕組みは定着し、現在も受け継がれています。

  • 2003年キヤノン技術情報サービス株式会社を設立

    2003年に知的財産法務本部の一部を分社化し、キヤノン技術情報サービスを設立しました。特許出願件数が爆発的に増加し、特許調査業務の重要性が増大する中で、特許調査業務の強化および効率化をめざすものであり、国内外のキヤノングループ会社に対して調査サービスの展開をスタートさせました。

  • 2010年代特許を侵害する互換消耗品に対する権利行使を本格化

    キヤノン特許を侵害する互換消耗品に対する権利行使体制を強化し、世界各国での訴訟活動を本格化させました。

  • 2010年代以降海外IT企業等とのクロスライセンス本格化

    さまざまなモノがつながる時代には、異業種との連携が必須となり、ひとつの製品に搭載される機能も飛躍的に増加します。このような変化を見据え、キヤノンはいち早く2010年代から海外IT企業をはじめとする異業種企業とのライセンス交渉をスタートさせました。事業競合だけではなく、優れた技術をもつ異業種企業と早い段階でクロスライセンスを結ぶことにより、将来の事業における自由度を確保するとともに、訴訟リスクを低減しています。

  • 2014年LOTネットワークの設立

    米国における特許訴訟件数は、2009年ごろから2013年にかけて急増し、2013年には過去最高の6,000件以上を記録しました。訴訟件数急増の主要因は、PAEによる訴訟が増えたことにあり、このPAE訴訟に多くの事業会社が苦しんできました。キヤノンは、PAE訴訟の脅威を抑制するため、Googleなど5社と連携し、2014年に「LOTネットワーク(License on Transfer Network)」を設立しました。LOTネットワークについて詳しくはこちら

事業別にたどる知財史

キヤノンの知的財産活動は、事業とともに歩み、発展してきました。
さまざまな挑戦を通じ、社内には知的財産を重視する考えが根づいており、事業部門と知財部門が密に連携を取りながら、知的財産活動を行っています。ここでは、プリンティング、メディカル、イメージング、インダストリアルの4つの事業について、これまでの取り組みや成果を紹介します。