キヤノン知財の歴史

プリンティング分野の歴史

プリンティング

  • 1965年キヤノン独自の電子写真技術の特許出願

    1962年、アメリカ生まれの普通紙複写機が日本で発売されました。この複写機はゼロックス社が開発したゼログラフィ方式を使用しており、ゼロックス社は製品に採用されなかった周辺技術を含めて600件余りの特許を取得していました。複写機事業に参入するには、ゼロックスの特許に触れずに製品を開発する必要がありました。キヤノンはゼロックス社のゼログラフィ方式とは異なる新たな電子写真方式であるNP方式を開発。1965年にNP方式の最初の特許を出願し、その後もNP方式に係る多くの特許出願をし、権利を取得しました。そして、1970年、キヤノン独自のNP方式の普通紙複写機「NP-1100」を発売しました。

    キヤノン初の複写機「NP-1100」
  • 1960年代後半多くの複写機メーカーにライセンス供与した
    ブレードクリーナー特許

    NP方式の開発では多くの特許を取得しましたが、中でも画期的だったのは感光体表面のクリーニングの発明です。ゼログラフィ方式は当時デリケートだったセレン感光体を用いていたため、ウサギの毛皮を使用したクリーナーを採用していました。一方、NP方式はセレンよりも強靭なCdSを感光体に用い、さらにこれを絶縁体で覆っていたため、硬いゴム製のブレードクリーナーを採用することができました。これにより、トナーを残さずにクリーニングすることが可能になりました。このブレードクリーナーについて多くの問い合わせがあり、ブレードクリーナーに関する特許は、後に多くの複写機メーカーにライセンス供与しました。

    ブレードクリーナーに関する特許の図面
  • 1979年普通紙への鮮明な画像印刷を可能とした
    複写機の発売

    1970年代、複写機は大型で高価であったため、世界中の複写機メーカーが小型化をめざして一成分現像の複写機の開発に取り組んでいましたが、普通紙にきれいに印刷できないという問題を解決できずにいました。そのような中、キヤノンは、1979年に、世界初のジャンピング現像方式を搭載した(乾式の)普通紙複写機「NP-200J」を発売。ジャンピング現像方式は、静電潜像が形成された感光ドラムに対して、絶縁性トナーを用いた現像剤を非接触の状態にし、静電潜像に絶縁性トナーを飛翔させて画像を形成するという新しい方式です。ジャンピング現像方式を採用することで構成がシンプルとなり、圧倒的な小型化、低価格化を実現し、世界中で大好評を博しました。この技術に関する特許は、科学技術庁による1979年度の注目発明に選定されました。この技術は、その後の複写機やレーザープリンターなどにも採用したキー技術であり、複写機事業の拡大に貢献しました。

    NP-200J(1979年発売)
  • 1982年一体型カートリッジを搭載した
    パーソナル複写機の発売

    1970年代まで複写機は定期的なメンテナンスが必要であるため専らオフィスで事務用に使われていました。1979年からキヤノンは家庭用の複写機の開発を開始。そして、トナーやドラムなど主要部品をまとめて交換する「一体型トナーカートリッジ方式」という革命的な発想の転換と技術の開発により、メンテナンスフリーの複写機を完成させました。1982年、このカートリッジを搭載したパーソナル複写機「PC-10」(愛称“ミニコピア”)を発売。小型で、ユーザーがトナーカートリッジを交換でき、定期的なメンテナンスが不要であったため、電子写真の生産から販売、アフターマーケットを大きく様変わりさせました。この一体型トナーカートリッジにはドラム周辺だけでも470件もの特許が盛り込まれました。このカートリッジの特許技術は、パーソナル複写機だけではなく、レーザープリンターにも活用されました。

    PC-10(1982年発売)
  • 1985年世界初のサーマル方式の
    インクジェットプリンターの発売

    1970年代半ば、キヤノンの研究者たちはインクジェット技術の幅広い可能性に着目し、日々研究開発を続けていました。ある日の実験中、インクを詰めた注射器の針に、熱したハンダごてが偶然触れ、針先からインク滴が勢いよく噴出。この偶然の出来事をきっかけにさまざまな実験と検証を重ね、ヒーターの加熱でインク滴を吐出させるというキヤノン独自のインクジェット技術が誕生しました。1977年、キヤノンは世界初のサーマルインクジェット(バブルジェット)技術の基本特許を出願し、その後のインクジェットプリンターの礎を築きました。この方式はバブルジェット(BJ)方式と名づけられ、1985年、BJプリンターの製品第1号である「BJ-80」を発売しました。1977年のバブルジェット技術の基本特許の出願以来、多くの特許出願を積極的に行い、その基本発明の一つである特許1396884号は、1994年全国発明表彰の最高賞である「恩賜発明賞」を受賞しました。

    発明のきっかけとなった
    「ハンダごてと注射針」
    BJ-80(1985年発売)
  • 1990年消費電力の低減を実現した新定着技術の開発

    1990年、キヤノン独自の新技術「オンデマンド定着方式」を開発しました。オンデマンド定着方式は、薄い定着フィルムとセラミックヒーターが接触する構造であり、定着フィルムと加圧ローラーで形成されるニップ部に挟まれる記録用紙上のトナーに対して、セラミックヒーターから定着フィルムを介してトナーに熱を与えて画像を定着させます。この機構により、ウォームアップ時間なしで複写することが可能となり、待機時の消費電力を大幅に低減することに成功しました。この定着方式を採用した機器でキヤノンは「省エネバンガード賞」を受賞しました。なお、この定着方式は、現在のレーザープリンターにも採用されています。

    オンデマンド定着方式
  • 1992年世界初、紙幣や有価証券の偽造防止技術を
    搭載したフルカラー複写機の発売

    キヤノンは、世界で初めて紙幣や有価証券の偽造防止技術を実用化し、1992年に同技術を搭載したフルカラー複写機「カラーレーザーコピア550/350」を発売しました。この偽造防止技術は1988年から検討されてきたもので、偽造追跡システムと紙幣認識システムの2つの技術から成ります。偽造追跡システムは、コピーする時に目に見えない暗号をつけることでコピーに使われた機械の特定を行うことができます。紙幣認識システムは、あらかじめ紙幣に関する特徴データを装置内に記憶しておき、紙幣を複写しようとすると黒く塗りつぶして出力、紙幣偽造を防止することができます。偽造防止技術に関する特許は、1980年代後半から他社に先行して多くの特許出願をしました。この偽造防止技術は、他社からの要望に応え、同業他社にも公平かつ非差別的に実施許諾を行いました。

  • 1999年薄型フラットベッドスキャナーの発売

    1999年に発売した薄型フラットベッドスキャナーは、日本刀のイメージを側面形状に用いることで、薄くてシャープなコンセプトを打ち出し、それまでの機能性が重視されていた無骨な製品に対して、ホームユースを前提としたスタイリッシュなフラットベッドスキャナー製品という新しい考え方を実現しました。この製品は、1999年に「グッドデザイン賞」を受賞、2001年に現在の公益社団法人日本インダストリアルデザイン協会の「JIDAデザインミュージアムセレクション」に選定され、2002年の平成14年度全国発明表彰において「発明協会会長賞」(意匠第1077104号)を受賞しました。

    薄型フラットベッド
    スキャナー
  • 2003年カスタマイズされたアプリケーションを
    追加可能なMEAP搭載の複合機を発売

    従来のMFPは、機能の豊富さゆえに操作が煩雑であり、またユーザーのワーフクローに合わせたカスタマイズが難しいという問題がありました。このような問題点を解決すべく、キヤノンはMEAP (Multifunctional Embedded Application Platform)を開発しました。MEAPは、キヤノン複合機に搭載されたアプリケーション・プラットフォームであり、複合機の機能に対応するAPI(Application Programming Interface)を共通化したソフトウエア基盤を用いています。このプラットフォームは、開発ベンダーがアプリケーションを搭載することができるという画期的なものでした。これにより、ユーザーのワーフクローに合わせてアプリケーションを選択し、複合機の機能をカスタマイズすることを可能にしました。キヤノンは、複数のMEAPアプリから、MEAPプラットフォームに相当する関数群を呼び出せるという、MEAPの基盤となる技術に関する特許を取得しました。