キヤノン知財の歴史
イメージング分野の歴史
イメージング
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1930-1940年代キヤノンの起源・カメラ事業からのスタート
キヤノンの起源は、国産高級カメラの開発を志した技術者らが1933年に立ち上げた精機光学研究所にさかのぼります。1934年には「KWANON(カンノン)」と名づけられた国産初の35mmフォーカルプレーンシャッターカメラを試作し、1936年には「ハンザ・キヤノン*」という名称で製品化しました。「ハンザ・キヤノン」はライカカメラ社(ドイツ)の特許に係らない、上部に飛び出した特徴的なファインダーを有していました。キヤノンで初めてとなる特許は、1943年のカメラの遮光幕の機構に関する特許でした。
- * 35mmフォーカルプレーンシャッター式距離計連動カメラ
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1950年代独創的なカメラ開発
1951年には現在のフラッシュ接続の原型となるレール直結式のフラッシュ同調装置を採用した「Ⅳ型」、翌年には世界で最初にスピードライト(外部ストロボ)に同調するX接点を内蔵した「Ⅳ Sb型*」を発売するなど、独創的なカメラ技術を開発し特許を取得していました。このカメラは機能精度、仕上げ程度も最良でライカにも劣らない、日本のカメラ史上に残る名機とうたわれました。フラッシュ同調装置に関する特許第0229067号は、1958年に社団法人 発明協会が主催する全国発明表彰において「発明賞」を受賞しました。
- * 35mmフォーカルプレーンシャッター式カメラ
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1960-1970年代新機能搭載カメラを矢継ぎ早に開発
あまりの安さにカメラ業界から発売反対運動が起きた「キヤノネット」(1961年発売)は、わずか2年半で生産台数100万台を突破するほどの爆発的なブームを巻き起こしました。この製品に搭載した最新のシャッタースピード優先式EE(Electric Eye:自動露出)技術を筆頭に、その後もフィルムの簡易装填技術などを開発して製品に搭載。1976年に発売した「AE-1*」は一眼レフカメラとしては世界で初めてマイクロコンピューターによる中央集中制御方式を採用し、部品点数の大幅な削減による低価格化と電子化による撮影性能向上を両立させるなど、高画質な撮影をより身近で簡単なものにするべく画期的な新製品を次々と開発。こうした革新的な技術は数百件の特許により保護され、1978年の一眼レフカメラにおけるトップシェア獲得に貢献しました。
- * 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ
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1980-1990年代AF一眼レフカメラEOSの誕生
1985年に世界初のオートフォーカス(AF)搭載一眼レフカメラが発売され、大ヒットとなる中、キヤノンも他社製品を凌駕する一眼レフカメラを発売すべく、AFに必要な距離を高精細に測ることができる測距センサー、レンズとカメラの間の通信を完全電子化するための電子マウント、高速かつ静かにレンズを動かすためのリング型超音波モーターなど、多数の独自技術を開発しました。1987年、これらの技術を搭載した「EOS 650*」を発売。「EOS 650」の開発で生み出された技術は多数の特許により強固に保護され、自社製品の差別化と販売拡大に貢献しました。また、測距センサーの開発で培われた技術は、当時カメラの撮影用途には向かないとされたCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor/相補型金属酸化膜半導体)センサーの高画質化技術の開発とCMOSセンサー搭載カメラの製品化へとつながりました。測距センサーに関する特許(特許第1950665号)は1996年に全国発明表彰の「発明賞」を受賞しました。
- * 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ
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1990-2000年代デジタル一眼レフの内製と先駆的機能の製品搭載
1992年発売の「EOS5 QD*」、1995年発売の「EOS 55」には、撮影者の目の動きに合わせ自動で合焦する、視線入力AF機構を世界で初めて搭載しました。この視線入力AF機構は、画期的な機能であり、国内外で数々の賞を受賞しました。また、特許出願も集中的に行うことで他社参入を阻む強固な特許ポートフォリオを築きました。2000年には、内製したCMOSセンサーを搭載したキヤノン初のデジタル一眼レフカメラ「EOS D30」を発売。高画質が求められる一眼レフにCMOSセンサーを搭載する技術では多数の特許を取得しました。この技術に関する特許第2505768号は、2004年に全国発明表彰において「発明賞」を受賞、特許第3467013号は、2015年に全国発明表彰において「日本経済団体連合会会長発明賞」を受賞しました。
- * 35mmフォーカルプレーンシャッター式一眼レフカメラ
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1990年ジェット機とたとえられた独創的なフォルムをもつカメラの発売
ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに、キヤノンのカメラ(北米名称「PHOTURA」、欧州名称/アジア名称/オセアニア名称「EPOCA」、日本名称「オートボーイジェット」)*が登録されました。1990年に発売したその製品は、円筒形のジェット機のような流麗なボディーで、カメラは四角いものという考え方が当たり前のアナログカメラ(銀塩方式カメラ)の時代において、外観デザインに一石を投じるものでした。
- * 35mmレンズシャッター式カメラ
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1995-2000年代世界初の光学シフト方式の手ブレ補正技術を搭載したレンズ製品群の発売
快適で高精細な写真撮影をユーザーに提供するため、1980年代から撮影時に問題となる手ブレを補正する方法の研究を開始し、1995年にはレンズをブレと反対側に動かす光学シフト方式防振機構を搭載したEFレンズを発売。これに対応し、1990年代から本防振技術の特許ポートフォリオを構築してきました。2008年にはカメラが回転することで生じる「角度ブレ」と、カメラが撮影面に平行に動いてしまうことで生じる「シフトブレ」の2種類を光学的に補正する「ハイブリッドIS(Image Stabilizer/イメージスタビライザー)」を一眼レフカメラ用交換レンズとして世界で初めて開発し、2009年発売のマクロ撮影用交換レンズに採用しました。ハイブリッドISに関する発明は国内外で特許登録されました。
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2001年身に着ける貴金属のような美しさを追求した
コンパクトデジタルカメラの発売時代はアナログカメラからデジタルカメラに移行し、首からぶら下げる四角いカメラに、身に着ける貴金属のような美しさを追求したコンパクトデジタルカメラ(北米名称「PowerShot S110 DIGITAL ELPH」、日本名称「IXY DIGITAL 200」)*を2001年に発表。ユーザーに対してカメラを着飾ることの喜びを提供したこの製品も、ニューヨーク近代美術館の永久コレクションに追加されました。コンパクトカメラの基本構成である、四角い外観とレンズ部分の丸い形状、これらを「BOX & CIRCLE」という基本コンセプトとし、意匠権で守れるのか、知財部門とデザイン部門の間で何度となく検討を行い、カメラの機種ごとに意匠の権利範囲を測りながら権利化を進め、シリーズ展開した結果、2009年度「グッドデザイン・ロングライフデザイン賞」を受賞しました。
- * デジタルスチルカメラ
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2010年以降映像制作市場への本格参入
2008年発売の「EOS 5D Mark II*1」に搭載した、一眼レフカメラとして世界初のフルHD動画撮影機能がハリウッドなどの映像制作のプロから高い評価を得たことを受け、長年の技術開発の蓄積による高度な光学技術に加え、培ってきたカメラのデジタル技術を生かして映像制作用のカメラやレンズの開発に着手しました。低ノイズの4K HDR動画を撮影できる35mmフルサイズCMOSセンサーや、過酷な撮影環境に対応するマウントロックシステムなどを新開発し特許を取得。デジタルカメラの開発で生み出された小型化や低コスト化に貢献する特許群も活用して、わずか2年程度で小型・軽量かつ大幅なコストダウンを実現した「CINEMA EOS SYSTEM」を開発し、2012年に映像制作市場へ参入しました。また機動性に優れた小型・軽量デジタルシネマカメラの意匠として、2014年に全国発明表彰において「内閣総理大臣発明賞」(意匠登録第1439774号)を受賞しました。
- *1 AFデジタル一眼レフカメラ
- *2 デジタルシネマカメラ