仕事と人
イメージング技術における開発と知財の連携
開発部門における知財活動はキヤノンの知的財産の源泉です。キヤノンの祖業であるカメラの開発を担当するイメージング技術開発部門と知財部門の各担当者に、開発部門における知財活動についてインタビューを行いました。

福田 浩一
- イメージング事業本部
西山 知宏
- イメージング事業本部


上田 暁彦
- イメージング事業本部
若嶋 駿一
- イメージング事業本部


山下 豪
- 知的財産法務本部
岩田 修幸
- インタビュアー
- 知的財産法務本部

まず、皆さんが携わる知財に関する業務について教えてください
若嶋:私たちが所属する部署では、Dual Pixel CMOS AFなどに代表されるセンサーにおけるオートフォーカス(AF)技術全般と、Deep Learningなどによる画像認識、被写体追尾などの被写体認識関係技術を担当しています。開発を担当した製品・技術に関するアイデアを発明として特許にするために、知財担当者とさまざまな相談をしながら、特許出願の元となる提案書を作成・提出する業務も行います。また、新規技術の開発に際しては先行技術調査を行うのですが、自社以外の特許を読み込むことが多く、ここにはかなりの時間を費やします。

西山:提案書は、特許の明細書の下地となる原稿ですが、キヤノンでは、発明者が提案書を用意することが伝統になっています。ほぼ完成明細書のようなボリュームの原稿になることも少なくありません。これが入社時から当たり前なのですが、他社の開発部門では、数枚の発明説明資料を用意するだけのところもあることを後から知って驚きました(笑)。
上田:私は自部門の知財関係業務のリーダーを務めています。リーダーの役割は、活動の年間目標やスケジューㇽを設定する、アイデア発掘活動の進捗を管理する、また、知財担当者とのパイプ役です。

知財部門との業務上の関わり合いについて教えてください
山下:開発部門から発意されたアイデアが知財部門の担当者に届いた後、相談を繰り返して発明の整理をし、特許出願の内容を固めていきます。これを基本の流れとしつつも、悩むことがあれば随時発明者とやり取りし、密な連携を行えていると思います。この関係性は、昔から脈々と続くものですね。

上田:提案書を作成する前のアイデアに対して開発部門と知財部門が協力して多段階の検討を行い、内容をブラッシュアップしています。その甲斐もあって、我々の部門では、生まれたアイデアを特許に結びつける確率を高めています。それでも内容に行き詰った場合は、経験豊富な福田さんや知財の方のアドバイスを頼りに別の突破口を探します。
ところで、福田さんは、社内で特別発明功労者に認定されています。認定に至った経緯や要因はどのような点だと考えていますか?
発明功労者制度
ますますの発明を促すために、極めて多くの発明を為した従業員を発明功労者として認定し、他の模範とすべく2023年からスタートした制度。さらに、発明功労者のうち、優れた発明を複数為した従業員を特別発明功労者として認定する。
福田:私は、特許出願と製品・技術開発はセットで考えていて、製品に技術的に新規な要素を加えるときは、特許出願も合わせて一つの開発行為だと思っています。また、自分が担当した技術を競合に先駆けて製品に搭載するという、強いモチベーションも持っています。若い頃からそうした技術の特許出願では、製品で実施される形態を確実にカバーするという点に強くこだわってきました。新しい技術だからこそ、その技術をあとから真似する人が絶対に避けられない特許にするぞ、ということを強く意識して知財活動を続けてきました。その結果として、多くの発明提案を行うことができ、ありがたいことに発明自体も高い評価を受けることができたことが、特別発明功労者の認定につながったと思います。

若嶋:福田さんにアイデアの相談をすると感じるのですが、アイデアを多角的な視点から見られている点が印象的です。一つのアイデアをさまざまな角度からとらえることで、実用的な特許が得られるようにブラッシュアップできているのだと感じます。
山下:いまは設計していないが、将来を想像した製品に関係する発明を考える場合がありますが、設計行為をしていないため製品についての具体的な説明を記載するのが難しく、発明者が悩まれることがあります。通常は、そこを知財担当者がサポートするのですが、福田さん達の部門から出てくる提案書は、将来製品を見通した具体例が十分に記載された「説得力がある」内容となっていると思います。時にはすでに製品として世に出ていると勘違いしてしまうような完成度が高い特許提案書もあります。
開発部門の皆さんと知財担当者のエピソードを教えてください
福田:例えば、Dual Pixel CMOS AF(オートフォーカス)という撮像面位相差AFの技術は、いまでこそ、キヤノンのカメラにおける重要技術として知られるようになりましたが、開発当時は、概念的な技術を製品に落とし込み、理想とする特性を実現するのに大変苦労しました。当時の知財担当者が親身になってくれて、二人で夜遅くまで色々な相談をしたことをよく憶えています。新しい提案に対して熱意をもって前向きに特許出願に対応してくれるので、一緒に仕事をしていて本当に楽しかったです。また、私の発明には、数式や物理モデルが登場することも多いのですが、山下さんをはじめ、知財担当者の方々は、その数式やモデルが持つ物理的な意味をしっかりと理解したうえで、明細書で本質部分を上手に表現してくれるので非常に助かりました。
西山:昨年、私は社内の発明表彰制度で表彰されました。発明を提案した当初は、製品で使う形態の範囲でしか発明をとらえられていませんでした。しかし、当時の知財担当者が、発明の本質部分を見極め、より広い権利範囲をめざしてくれたおかげで、想定よりも随分と価値の高い特許を取得することができ、それが受賞につながったと感じています。

福田:逆に必要以上に広い権利範囲を狙う提案をしようとすると、知財担当者から指摘されることもあります(笑)。知財担当者は、単に権利範囲を広げるということではなく、権利活用まで想定して、広過ぎず狭過ぎず、最適な権利範囲とすべくアドバイスをしてくれます。また、蓄積されたノウハウを駆使して出願戦略なども提案してくれるので頼りになります。
特許出願業務以外では、どのような場面で連携していますか?
福田:特許は出願して終わりではなく、権利化してこそ財産になりますので、出願業務以外に権利化や権利活用の場面でも当然ながら連携しています。先に述べたDual Pixel CMOS AF技術に関しては、当時の知財担当者の熱意もあり、技術の外部公表や講演を積極的に行ってきました。
難解な点も多いDual Pixel CMOS AF技術ですが、知財部門から「日米欧の審査官に対して技術説明をしませんか?」と提案があり、欧州特許庁の審査官がキヤノンに来社した際に技術説明をしたり、日本特許庁や米国特許商標庁にこちらから赴き、大勢の審査官の方々に技術説明をしたりしました。実際の製品を見せながら説明を行い、参加した審査官からは、開発者から最新の技術について学べる貴重な機会になったと感謝されました。知財部門の方には、裏方として強力にバックアップしていただきました。
山下:福田さんから技術説明をしていただいたことで審査官に技術を正しく理解していただくことができ、その後のスムーズな権利化が実現できたと思います。
これからも特許出願や権利化といった業務だけでなく、キヤノンの知財をより充実したものとすべく、さまざまな場面で開発部門と連携した取り組みを実践していきたいと思います。
(2025年3月現在)