未来に向けて

知財活動の基本戦略
~勝ち続けるために~

キヤノンの知財活動では、「長期的な視点に立ち、目の前の戦いに勝ち続けるために」、技術や事業を先読みし、攻めの知財、守りの知財を実践してきました。それに応えるべく、以下の3つを有機的に結合したオープン・クローズ戦略を実践して勝ち続ける知財活動を基本戦略としています。

  1. 01.コアコンピタンス
    技術に
    関わる特許
  2. 02.通信、GUI
    などの汎用技術に
    関わる特許
  3. 03.他者が容易に
    到達できない
    検証困難な発明
  1. 01.競争領域において事業を守る特許としてライセンスせず、競争優位性の確保に活用する。
  2. 02.クロスライセンスに活用する(当該特許のライセンス許諾と引き換えに他社特許のライセンスを受ける)ことで、研究開発や事業の自由度を確保する。
  3. 03.ノウハウとして秘匿し守ることで、他社の追従を許さず、競争優位性を確保する。

知財活動の推進

1960年代の電子写真のNP方式に始まり、バブルジェット、交換レンズ、消耗品、生産技術などの守りの知財は、長年にわたりキヤノンの現行事業のベースを支え、また、攻めの知財は、カメラやプリンターなどの電子化、デジタル化への対応に大きく貢献し、事業の発展や拡大に寄与してきました。

このような知財活動の基本的な考え方は変わることなく受け継がれていますが、時代とともに知財戦略・戦術は変化しています。たとえばカメラにおける競合相手はめまぐるしく変化し、事業では競合しないが特許で競合するIT系企業が出現するとともに、自動車や住宅など共通のIT技術を使う業界が広がり、知財問題の交渉先は多岐にわたっています。訴訟戦略・交渉戦略を時代に合わせて革新的に進化させ、相手に応じて臨機応変に戦うために戦術の引き出しを多く用意する必要があります。そのためにキヤノンは、戦う武器である特許ポートフォリオを事業ポートフォリオや時代の変遷とともに刷新する知財活動を推進します。

キヤノンはいま、商業印刷、ネットワークカメラ、医療機器、産業機器の4つの新規事業を飛躍させようとしています。また、自由視点映像、XRなどの次世代イメージング、次世代ヘルスケア、スマートモビリティなど将来のビジネス創出にも力を入れています。知財部門は、これら新しい事業が持続的に発展・成長するために、事業のコアコンピタンス技術の特許出願・権利化はもちろんのこと、時代を見据えてさまざまな分野の技術についても特許の出願・権利化を行い、強い特許ポートフォリオを維持するための活動を行っています。M&Aに伴い新規事業のコアとなる特許はグループ会社で多く生まれています。国内外グループ会社の知財部門とのシナジーを高め、キヤノングループとしての知財活動の基盤を強固にし、グループポートフォリオを強化していきます。

世の中は、ニューノーマル、DX時代となり、AI・IoTを組み入れたCPS(サイバーフィジカルシステム)に欠かせない技術がますます重要になり、また、SDGsなど社会課題の解決にも長期的に取り組まなくてはなりません。新規事業や現行事業に関わらず 、キヤノンの製品やサービスは、CPSや社会課題との有機的な結びつきが必要になります。
したがって、画像データの圧縮、無線通信、無線給電などIT系の標準必須特許や標準技術の製品実装特許の創出と活用に、より一層注力していきます。また、サイバー・フィジカル空間の出入口となるセンサー、アクチュエーター、ディスプレイ、UI(ユーザーインターフェース)自体やそれらを利用したシステムの知財にも注力します。省エネルギー、リサイクル素材、廃棄物の少ない製造方法など環境配慮技術には、長期的視点に立ち、これまで以上に取り組みを強化します。協調領域や社会課題に関連する領域では、特許の創出だけではなく、意匠・商標やブランド力の活用、サプライヤーやユーザーとのアライアンスなど、知財を使って新たな価値創造につなげていきます。

そしてキヤノングループとして、知財を活用し、事業の競争優位性と自由度を確保し、付加価値の高い、あるいは新しい価値を生む製品・サービスを提供し続け、より良い未来社会の創生に貢献していきます。

グローバル優良企業グループ構想
フェーズVIにおける知的財産活動NEW

キヤノンは、グローバル優良企業グループ構想フェーズⅥにおいて、産業別グループの事業競争力の強化を図る一方、ボリュメトリックビデオやXRなどの3Dイメージング、次世代ヘルスケア、次世代半導体製造、デジタルソリューションサービスといった将来のビジネス創出にも力を入れています。知的財産部門は、これらの事業が発展・成長するために、光学技術、映像処理や解析技術などのコアコンピタンス技術、AI・IoTを組み入れたサイバー&フィジカルシステムに欠かせない技術、標準技術、環境配慮技術などに関する知的財産の創出・権利化に力を入れています。

–事業の発展を支える知的財産戦略–

プリンティング サイバー&フィジカル

オフィス向け機器をはじめとする、さまざまな機器とシステムとを連携するサイバーフィジカルシステムを支える知的財産を創出。さまざまな機種のプリンターに共通して搭載されるコントローラー/エンジンの基盤やそれらのプリンターに付加価値を提供するクラウドの基盤を差別化する技術に加え、プリンターの環境対応技術や、プリンターから収集されるデータをAI利活用した新たな印刷ソリューションなど、 これからの時代に合った知的財産ポートフォリオを構築。

メディカル 医療現場に提供される新たな価値、競争力強化と事業領域拡大

プレシジョン・メディシン(個別化医療)の提供へと進化するAIソリューション、フォトンカウンティングCTなど、医療現場に次々と提供される新たな価値を創造する技術を保護する知的財産ポートフォリオを構築するとともに、知的財産活動を通じてグループ内の技術シナジーの実現およびグローバルに加速される臨床研究を推進し、画像診断領域の競争力のさらなる強化とヘルスケアITや体外診断などへの事業領域の拡大に貢献。

イメージング 「カメラ」から「イメージング」へ

ミラーレスカメラに加え、映像制作用カメラや監視用カメラなどの領域では、高度な光学技術だけでなく、ネットワーク技術を組み合わせた知的財産を創出。さらにボリュメトリックビデオやXRなどの3Dイメージング技術や、暗闇でも数km先の被写体を鮮明に捉えられるSPADセンサーなど、次世代のエンターテインメントや社会の安全・安心を支える領域でも知的財産ポートフォリオを強化。

インダストリアル エレクトロニクス産業向けに多彩な製造ソリューションを展開

露光装置、ダイボンダー、有機ELディスプレイ製造装置、スパッタリング装置などの製造装置に加え、Lithography Plusなどの製造ソリューションサービスに関する知財創出にも注力。2023年に製品を販売したナノインプリントリソグラフィでは産学官連携やグループ会社連携を利用し、光学や材料分野の要素技術、装置技術から半導体製造プロセスまで強靭な知的財産ポートフォリオを構築。

特許ポートフォリオの構築NEW

キヤノンは、さまざまな環境変化から次の時代の社会や経済の流れを読み取り、事業のコアコンピタンスに関わる知的財産権の取得はもちろん、これからのビジネスの流れを先取りした知的財産権の取得に大きなリソースを投入しています。同時に、定期的に特許の価値を評価し、保有する権利の入れ替えを行い、強い特許ポートフォリオを維持しています。

  • 事例1:映像処理・画像処理×AI

    キヤノンのコア技術の一つとして映像処理・画像処理技術がありますが、この技術をベースに新しい技術・発明が生まれています。たとえば、映像処理・画像処理技術×AI関連技術の世界における特許保有件数(ファミリーベース)は2位(2023年3月時点)です。このような要素技術は、イメージンググループの認識技術、メディカルグループの画像診断などに生かされており、より良い製品・サービスの実現に貢献しています。 世界における画像関連のMachine Learning&AI関連の特許保有ランキング(登録)

    LexisNexis社 PatentSight®を用いて当社作成
    (2023年3月2日のデータに基づく。ip-search Tech Field—スイス連邦知的財産庁が定義・維持している技術分野—および画像関連のIPCとしてH04N,G06Tを使用)
  • 事例2:3次元空間の映像処理

    キヤノンは、イメージングの役割を「撮る・見る」から、「映像体験」、「映像活用」へ広げ、新しい事業領域を作るために3次元空間の映像処理に力を入れています。これに対応し、コアコンピタンスと汎用技術の両者について知的財産ポートフォリオの構築を拡充しています。その一つとして、ボリュメトリック映像に関連する知的財産ポートフォリオがあり、たとえば 、ボリュメトリック映像の高画質化、アリーナやスタジアムにも対応した大規模映像データのリアルタイム高速処理に貢献する特許権や、映像制作、配信に貢献する特許権があります。このボリュメトリック映像技術は、米国でのプロバスケットボールや日本のプロ野球のスポーツ映像、CM、ミュージックビデオなどでも利用されています。 ボリュメトリック映像技術の特許ポートフォリオの推移(世界延べ数)

  • 事例3:標準化活動

    キヤノンは、国内人材だけではなく、標準化活動のエキスパートである海外研究所の人材も活用し、標準化団体への積極的な参画を通して世界の技術発展に貢献し続けています。これまでの技術貢献の中で生まれた多数の発明は、キヤノンの標準必須特許ポートフォリオを継続的に拡大させています。キヤノンの保有する特許としては、移動体通信(Beyond5G、6G)、無線LAN(Wi-Fi)、動画圧縮(HEVC、VVC)、無線電力伝送(Qi)などがあります。これらの次世代の技術標準を構成する特許が、自社のみならず他社の製品やサービスにおいても採用されることで、我々の特許の価値が高まり、キヤノンの知財競争力をますます高めています。

  • 事例4:ナノインプリントリソグラフィ

    キヤノンは新しい半導体製造技術であるナノインプリントリソグラフィの分野において、これまで10年以上にわたり研究開発を続けてきました。この長期的な研究開発と並行して当初から製品化を見据え、光学や材料分野の要素技術、装置技術から半導体製造プロセスまでをカバーする強靭な特許ポートフォリオを構築。2023年12月末現在、同分野での特許保有件数は世界において第1位となっています。2023年に発売したナノインプリント半導体製造装置は、これらの特許ポートフォリオで保護されています。 世界におけるナノインプリント技術の特許保有件数の推移

    LexisNexis社 PatentSight®を用いてキヤノン作成。
    2024年1月11日のデータに基づく。CPC(共通特許分類)としてG03F 7/0002を使用。
  • 事例5:イメージソリューションビジネス

    キヤノンは創業以来、カメラやレンズに代表される「モノ」のイメージング技術を極め、特許ポートフォリオを構築してきました。近年では、カメラから映像管理や映像解析のソフトウェアにいたるまで、トータルソリューションとして提供する「コト」のビジネスを支えるイメージング技術も強化し、特許ポートフォリオを拡大しています。2023年12月末現在、同技術領域での自社特許出願割合の推移では、「モノ」の特許から「コト」の特許へ年々シフトしており、知財面でも“変身を続けるキヤノン”を体現しています。 自社のイメージング技術の特許出願割合の推移

商標・意匠の活用

キヤノンは、商標と意匠に関する業務を一つの部門で取り扱っています。この部門は、商標、意匠の権利化にとどまらず、NFT、メタバース空間、AI創作物などの最新の技術、および著作権、不正競争防止法といった関連法の動向をウォッチングし、世界の各拠点の知財部門と連携した業務を遂行し、ブランド価値の最大化をめざしています。

商標のグローバルガバナンス

1935年に「世界で通用する商標」として考案されたキヤノンロゴ。以来キヤノンは190を超える国・地域においてキヤノンロゴを商標として出願してきました。多くの企業では近年のコーポレートガバナンスコードの改訂を契機としてグローバル知財ガバナンスの構築や経営に資する知財管理のあり方を模索していますが、キヤノンでは2000年代初頭に商標のグローバル管理ポリシーを制定し、キヤノンブランドの保護を推進しています。

また中国においては、漢字によるブランド浸透の重要性に早くから着目し、アルファベットのキヤノンロゴとともに漢字表記のブランドである「佳能」を2006年から併記しています。
中国語の「佳能」がもつ言葉としての良い響きは、第三者による多くの類似商標出願を招いていますが、キヤノンはこうした類似商標の出願に対して年間約50件の異議申し立てを中国で提起し、ブランドと消費者を保護しています。アジアでのこうした保全活動などが評価されて、Law Business Research社のウェブサイトマガジンであるWorld Trademark Reviewが主催する2023年のアワードにおいて 「Technology and Consumer Team of the Year」を受賞しています。

「キヤノンらしさ」とCanon Design Identity

キヤノンのデザイン部門では、製品ジャンルを超えてデザインの統制を図り、高品質なデザインを生み出すことでブランド価値を向上させることを目的とした「Canon Design Identity」と呼ばれるデザインにおける考え方を定めています。これを製品において体現すべく、デザイン部門では、「キヤノンらしさ」とは何かを言語化し、デザインの質を高める余地がないのかを毎週審議しています。知財部門においても、キヤノンブランドを形作るデザインの意志である「Canon Design Identity」を共有し、デザイン部門と同じ目線に立ち、意匠の出願・権利化活動を行っています。

知財MIX戦略の推進

キヤノンは、特許権、意匠権、商標権、ノウハウ、著作権など複数の知的財産を組み合わせて製品やサービスを守る知財MIX戦略を推進しています。そのため、商標・意匠の担当者は、事業部門やデザイン部門のみならず、開発部門や特許の担当者とも密接に連携しています。一種類の知的財産にとらわれない多面的な活動を行うことがキヤノン知財部門の文化となっています。

一つの例として、キヤノンの独自技術によるユーザーエクスペリエンスおよびそれを支えるユーザーインターフェースのデザインを保護する手段として、画像意匠に注目しています。画像意匠は、日本において昨今新たに意匠の保護対象として追加されたものです。特許と異なり意匠はデザインそのものを保護することができます。技術に根差したユーザーエクスペリエンスを特許で保護することはもちろんのこと、それを支える画像デザインやユーザーの使いやすさを追求したグラフィックユーザーインターフェースのデザインそのものも画像意匠として出願し、一つの製品を多面的に保護することを意識して、出願・権利化活動を行っています。
5年先、10年先を見通し、どういった意匠が有効に事業に生かせるのかを想像しながら、自由な発想のアイデア創出をめざしています。

画像意匠の一例:水準計測用画像 (意匠登録1731392号)▼

  • 画像図
  • 使用例参考画像図