テレビニュースのなかで、なにげなく流れる街の様子や空模様。
街を行き交う人たちを眺めながら、今日の服装を考える……そんな経験はないでしょうか。
このような映像を撮影しているのは、「お天気カメラ」と呼ばれる放送用カメラシステムです。風のないおだやかな日常も、嵐の状況も、地震が起きた街の様子も、全国津々浦々からリアルタイムに鮮明な映像を絶えず放送局に送り届けています。じつは、このお天気カメラ、たくさんの過酷で難しい条件をクリアしなければならず、稼働するシステムのほとんどがキヤノンによってつくられていることをご存知でしょうか。
噴火をきっかけに生まれたお天気カメラシステム
お天気カメラの誕生は、1986年。伊豆大島の三原山で起きた噴火にさかのぼります。ある放送局から「山の様子を映像でとらえ続けたい。(それまで局内のケーブルが届く範囲だけで使用していた)キヤノンの屋外テレビカメラ操作システムが使えないか」と打診があったことがきっかけでした。インターネットもなかった当時、キヤノンの担当者は電話線をつないでなんとか操作できるようにし、放送局とともにシステムを島に設置。全島に避難指示が出た後も、遠隔操作で山の様子をとらえることに成功し、大きな反響を呼びました。
この経験をもとに製品化した屋外遠隔操作カメラシステムができると、放送各社はこぞって「お天気カメラ」として導入を進めました。
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頑丈につくる、でも密閉してはいけない
お天気カメラは、放送局の屋上をはじめ、空港、海沿い、山頂、さらに渋谷駅前スクランブル交差点にいたるまで、実にさまざまな場所に設置されています。そして、24時間365日、台風、地震、真夏の炎天下、雪、高温多湿の梅雨どき……どんな状況にさらされても耐え、放送局のプロたちが納得する高画質映像を送り続けなければなりません。
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風雨や寒さからカメラを守るだけなら、カメラの外装を頑丈にして密閉してしまえばいいと思いがちですが、気温が下がれば空気が収縮して水を吸い込みやすくなるため、それはできません。一方、密閉しなければ、今度は湿気も入ってきます。どこまで何をしたらよいか、試行錯誤を続けてのみ得られるノウハウが解決策になりました。
風速60m/秒よりも、吹き続ける風速20m/秒のほうがこわいことも
60m/秒にもなる暴風、非常に強い地震、暴風で巻き上げられ下から降ってくるゲリラ豪雨など想定しうる過酷な環境でテストが行われたお天気カメラ。しかし、設置の現場では、思いもよらないことが起こります。
お天気カメラは、なかには40メートルもある鉄塔の先端で使われていることもあり、地表ではあまり感じない地震の揺れでも、鉄塔の先では予想外の大きな揺れが起こります。また、風速60m/秒に耐えうる強度であっても、20m/秒程度の日常的に吹く風が強弱をくり返すことで思わぬ部分に金属疲労が現れることもあります。
キヤノンではこうした想定外の問題を、日常の保守・点検で見つけ出します。サービス担当者がわずかな傷みを見逃さず、「想定より劣化が早い」などの情報を開発にフィードバックします。開発サイドでは、原因究明とともに、改善・実験を行ってさらに品質を強化。このくり返しこそがお天気カメラの世界で他の追随を許すことなく、圧倒的な地位を築くキヤノンの強みになっています。
時計の長針のようにカメラを動かすというミッション
人間の目は、非常に敏感です。テレビの映像では、上下、左右に映像が動く時、あるいはズームで映像を拡大する時などに、ほんのわずかなひっかかり、ガタつきがあると気づき、違和感を感じます。まして、お天気カメラのお客さまは、映像のプロである放送局です。お天気カメラには、放送局が求めるカメラワークに応えるミッションもあるのです。
放送局内のスタジオで撮影するように、重量20~30kgにもなるカメラをゆっくり、なめらかに動かす。これは非常に難しい技術でした。重いものを動かそうとすれば静止摩擦で動かず、力が摩擦力を越えたとたんにガクッと動き出すことが普通です。熟練した映像のプロたちが身につけている、1時間で360度回る※という超低速度な「時計の長針の動き」を初動からスムーズに行えるよう、キヤノンは長年のノウハウを積み重ねた雲台(テレビカメラを載せる台)の技術を駆使。温度変化で微妙に変わるギアのかみ合わせの調整やギアのなかの一つひとつの歯車の面の精度にまでこだわり、お天気カメラを進化させました。
大雨や暴風、地震などをもリアルタイムの映像で伝え、災害時の行動抑制や避難にも役に立っているお天気カメラ。今日も休むことなく、あらゆる場所から映像をお届けしています。
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