夜空に浮かぶ月や星、街を彩るイルミネーションやきらめく夜景。あるいは、望遠レンズでのズーム写真、花や虫に寄ったマクロ写真。しっかりとカメラを構えていたつもりでも、撮った写真を見てみるとブレていてがっかり……そんな経験が誰しも一度はあるのではないでしょうか。
その原因の多くは「手ブレ」にあります。手持ちでカメラを構えて撮影する時、プロであっても手ブレを避けることはできません。三脚などを使えば解決できますが、準備しているうちに絶好のシャッターチャンスを逃してしまうということも多いのです。
誰もが手持ちで鮮明に写せるように、いま、カメラはボディもレンズも大きく進化しています。
手ブレには3つの種類がある
実は、手ブレには3つの種類があります。カメラが上下方向に人がうなずくように回転したり、首を左右にキョロキョロ振るように回転したりする「角度ブレ」、カメラが上下左右に平行移動する「シフトブレ」、そして首をかしげるようにカメラがレンズの中心を軸として回転するのが「ロールブレ」です。たとえば、シャッターを押す時に、カメラが片側だけに少し下がるのが典型的なロールブレといえます。
このうち、最も影響があるのが角度ブレで、特に望遠になればなるほど影響が大きく出ます。また、シフトブレもマクロ撮影のように被写体がカメラに近ければ近いほど影響がはっきりと出てきます。しかし、角度ブレとシフトブレは、レンズ内手ブレ補正技術の進化によってレンズ内でブレにあわせて光の方向を変える補正ができるようになり、高い精度で解消できるようになりました。
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その結果、画像の周辺部※に影響を与えるロールブレが目立つようになってきたのです。ロールブレは、光の方向を変える補正を行う従来のレンズ内手ブレ補正では解消することができない代物でした。それは、ちょうど虫メガネのレンズの真ん中を中心にくるりと回しても、見えているものが回ってくれないのと同じ理屈です。
- ※画像の真ん中から離れた部分
ロールブレ解消のために「不動」を動かす
「それならば、カメラのボディ側で手ブレ補正をするしかない」
ロールブレを解消するためのボディ内手ブレ補正機構の開発が始まりました。しかも、単純にボディ内手ブレ補正機構を開発するだけでなく、レンズ内手ブレ補正と組み合わせた「協調制御」が目標として掲げられたのです。
ボディ内手ブレ補正の実現のためには、キヤノンではずっと「不動」だったイメージセンサーを「動かす」必要があります。イメージセンサーを動かすということは、イメージセンサーとメイン基板をつなぐフレキシブルプリント基板(FPC)もつねに動くため、FPCにしなやかさや耐久性を確保しないといけない、イメージセンサーが動いてもしっかりと光が届くようにシャッターユニットの開口を大きく広げないといけない、イメージセンサーのわずかな動きでオートフォーカスに悪影響がないかを網羅的に測定しなければいけないなど、多くの課題がありました。開発者たちの多くは内心「そんなことできるのだろうか?」と疑心暗鬼にさいなまれながらも開発がスタートしたのです。
イメージセンサーおよびその周辺部品は、従来大きく重いパーツで構成されていました。これらを、手ブレのような細かく速い動きに対応して「動かす」ことは困難でした。そこでキヤノンは、イメージセンサー周辺のパッケージ構造を新規に開発。さらに、ほかの周辺部品も開発することで、精密に「動かす」ための軽量化を実現し、機動性を手に入れました。
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多くの人の悩みだった手ブレの解消をめざして
高い精度のレンズ内手ブレ補正を実現していたキヤノンにとって、ボディとレンズの協調制御を高い品質で実現するためにはさらなるハードルもありました。膨大なレンズとボディの組み合わせによるバラツキを考慮しながら、両者の精度を追い込む必要があったのです。それは電気、制御、メカ、光学、製造技術といった分野にまたがり、開発、製造のあらゆる部門で大規模な取り組みとなりました。どれか一つでも追い込み切れない精度の項目が残れば、キヤノンのめざす高い品質の協調制御は実現できません。この大規模な挑戦に、困惑したり、躊躇する人もいました。しかし、精度が足りていない項目を全関係部門で常に共有しながら、根気強く各部門に協力を仰ぎ、ときにはボディ側とレンズ側でお互いを補い合って一つひとつハードルをクリアしていきました。
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一方で、手ブレは、撮影者の微妙な癖の違いで大きく異なるため、カメラ初心者からベテランまで、さまざまな人にカメラを構えてもらい、手ブレの中身を徹底的に調査。角度ブレ、シフトブレ、そしてロールブレがどのような割合で存在しているのかを解き明かしていきました。そこでわかった千差万別の手持ち撮影スタイルに対して、協調制御におけるボディとレンズそれぞれの補正比率を調整。実験室レベルでは多くの人たちに、数万枚にもおよぶ手持ち撮影をしてもらって性能の評価を徹底的にくり返し、ボディとレンズの組み合わせによるバラつきをなくし、手ブレ補正機能の完成度を高めていきました。
さらに、夜景や滝など、多くの実際的なシーンを想定した撮影テストも実施しました。滝のシーンでは、流れを生かした表現の撮影も試みましたが、背景がしっかりと止まって滝の流れが糸のように表現された撮影ができないという問題が発生したこともありました。このような問題にも一つひとつ原因を追究して対策を行い、さまざまな撮影環境下で評価をくり返し、品質を安定させていきました。
手持ちでこれまでにない写真が撮れるように
そして完成したキヤノンで初めてのボディ内手ブレ補正は、協調制御での高い性能を実現しながら、2020年に「EOS R5」「EOS R6」に搭載され、その後2021年に「EOS R3」、2022年には「EOS R7」「EOS R6 Mark II」へと継承されています。
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夜景などスローシャッターでも手持ち撮影ができるようになり、「これまで三脚なしでは撮れなかった写真が撮れた」という言葉を数多くいただいています。
「こんな写真が手軽に撮れてうれしい」という気持ちをひとりでも多くの人に味わっていただくために、キヤノンは撮影領域を拡大する取り組みをこれからも続けていきます。
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