写真の構図やピントがあっているか、目で見て確認するためにフォトグラファーが覗くカメラのファインダー。フォトグラファーは撮影のとき、つねにファインダーを通して被写体と向き合います。
ファインダーから見える光景によって、どのような作品に仕上がるかを考えながらシャッターを切る……フォトグラファーにとって、ファインダーは作品の出来・不出来を左右するほど大切な役割を担っています。
撮影に没入できないという声
これまで長い間、プロアマを問わず親しまれてきた一眼レフカメラは、人の目に見える色、明るさなどがそのまま見える光学式ファインダー(Optical Viewfinder、以下OVF)を搭載していました。近年、主流となってきたミラーレスカメラでは、色や明るさが調整された撮影画像を映し出し、「仕上がりを見ながら撮影できる」という電子ビューファインダー(Electronic Viewfinder、以下EVF)を搭載しています。
仕上がりを見ながら撮影できるのは、ミラーレスカメラならではの大きなメリットでした。しかし、「自分の目で見ている光景との違和感を感じる」「肉眼での見え方よりコントラストが高く、色が濃い」「目が疲れる」といった声が上がるようになり、キヤノンにも「EVFでも目で見た通りの見え方を実現できないか」という要望が寄せられるようになりました。
表現の道具であるカメラが、撮影に没入したいというフォトグラファーの足かせになるわけにはいきません。カメラを知り尽くしたメーカーが手がけるからには見た通りの見え方を追求し、中途半端なものはつくれないと意を決して、開発に取り掛かりました。
人の目そのものをデジタルで再現する
EVFで人の目で見た通りの光景を再現する。これは、人が肉眼でとらえる自然界の光と色の見え方をデジタルで再現することを意味します。実際、自然な色合いを再現するようなEVFはこれまでほとんどありませんでした。
キヤノンはこれまでの光と色を再現するための画像処理のノウハウをEVFに応用して検証を開始したものの、昼と夜、順光と逆光、晴れと雨、日向と日陰など、考えられるさまざまな撮影状況で肉眼での見え方を再現することはできませんでした。
ミラーレスカメラのさらなる発展のために「ここで諦めるわけにはいかない」と、原点に立ち戻り、EVFで人が色の階調をどのように感じているのかを解析することから再スタート。先入観を排除して検証を愚直に続けるなかで、肉眼と同じような見え方を実現するEVFと色の階調の関係性を示す新たな法則を見出すにいたったのです。
暗から明への転換も自然に人間の目が慣れるように
理論的には人の目の見え方は再現できる。
しかし、実際には撮影状況ごとに設定を調整する必要がありました。誰もが満足できる見え方の再現性をめざして、晴れた日の屋外はもちろん、曇り空や夕焼け、屋内や夜景、芝生や花、色白な人や浅黒い人など、数多くのシーン、被写体でテストと微修正をくり返し、一歩一歩、さまざまな環境において目で見た印象に近い見え方を再現できる機能へと磨き上げていきました。
そして、カメラが暗いところから明るいところに移動したときも、少しずつ明るさに慣れていく人間の目と同じように、即座に明るさをあわせることはせず、ゆっくりと明るく変化させるなど、より自然な見え方になる工夫も施しました。
ミラーレスカメラの可能性を広げる
こうして完成した機能は、オンにすれば目で見た通りに、オフにすれば仕上がり通りに。ファインダーの見え方を自由に切り替えることができる機能として、「OVFビューアシスト」と名づけられ、2021年11月に発売された「EOS R3」に初めて搭載。その後、2022年に発売された「EOS R7」「EOS R10」「EOS R6 Mark II」、そして、2023年春に発売が予定されている「EOS R8」「EOS R50」にも継続して搭載されています。
OVFビューアシストは自然な見え方のファインダーを好む、あるいは一眼レフカメラとミラーレスカメラを併用するフォトグラファー向けという側面も強く、万人が求めるものではないかもしれません。しかし、ストレスなく撮影に没入したいというすべてのフォトグラファーの想いに応える機能として、ミラーレスカメラの可能性を広げていきます。