きれいな写真を撮る。
そのために必要なものはいうまでもなくカメラ、そして、「レンズ」です。
このふたつがお互いの性能を生かしきって初めて、目の前の光景は美しい写真として記録されます。
「デジタルカメラで撮る写真は、もう十分にきれい」
そう思っている人も多いことでしょう。しかし、写真の進化に上限はありません。
いま、デジタルカメラで主流となっているミラーレスカメラの登場が、より画質の高いレンズの実現につながっていることをご存知ですか?
光を曲げれば「収差」は起こる
私たちがデジタルカメラで撮影するとき、「光」は交換レンズの中のたくさんのレンズを通りぬけて、イメージセンサーへとたどり着きます。交換レンズはいわば、目の前の光景をイメージセンサーに収まるサイズに縮小するように光を曲げる役割を果たしているのです。
ところが、光を曲げることでどうしても起きてしまうのが、ゆがみや色にじみなどの「収差」と呼ばれる現象です。この収差を少なくすればするほど、点は点として、線は線として、四角は四角として正確に写しとることができます。
また、写真の醍醐味のひとつである「ボケ」は、球面収差を抑えることで、よりきれいに、より自然に表現できます。すなわち、交換レンズを設計する上では、「収差をいかに抑えるか」こそが、非常に重要なポイントなのです。
ミラーレスカメラで広がる交換レンズの可能性
収差は、光が曲がるために起こる現象ですから、収差を抑えるためにはなるべく光を曲げないこと、特に無理に曲げないことが重要になります。収差の影響はおもに写真の周辺部分に現れます。これを抑えるためには、なるべくレンズをイメージセンサーの近くに置いて、周辺部分の光をコントロールすることが理想です。
一眼レフカメラでは、レンズからイメージセンサーの間にミラーを置く必要があるので距離がありましたが、ミラーレスカメラはその名の通り、イメージセンサーの前にミラーがありません。これにより、レンズとイメージセンサーの距離(バックフォーカス)を大きく縮める「ショートバックフォーカス」により、これまで不可能だった場所にレンズが配置できるなど、設計の自由度が上がり、交換レンズの新しい可能性が大きく広がることになったのです。
大口径マウントとの相乗効果で、さらなる高画質化
収差をさらに少なくするために有効なのが、イメージセンサーに最も近いレンズを「なるべく大きくする」という手段です。そうすれば、イメージセンサーに届ける光を最後に無理に曲げる必要がなくなります。
キヤノンのレンズ交換式ミラーレスデジタルカメラ「EOS R」シリーズでは、カメラと交換レンズ「RFレンズ」をつなぐマウントのサイズを「直径54mmという大口径」に設定。ショートバックフォーカスと大口径レンズの相乗効果によって、さまざまなタイプの収差の発生が抑えられ、よりクリアな解像度、より自然なボケの表現を実現しています。
シミュレーションで、品質を確固たるものに
「RFレンズ」がより高い性能を発揮するためには、より高い品質が求められます。従来の製品開発では、コンピューターで設計したのち、いくつもの試作品をつくり、実験や検証をくり返していました。しかし、キヤノンでは製品の動作をシミュレーションで確認する独自の「試作仮想化技術」による開発を追求。その結果、試作品をいくらつくってもカバーできない、製品で起こりうるさまざまな問題を忠実に再現して、性能と設計精度を確認し、品質を確実に高めることができるようになりました。
「RFレンズ」の光学設計では、長年の開発経験を詰め込んだ自社開発の光学設計ツールを駆使してレンズを設計する一方で、さまざまな条件のもと独自のシミュレーションで検証。実写同等の色や明るさ、ゴースト※1を設計の初期段階で確認できるようになり、レンズごとに最適なコーティングを選択するなど、ゴーストやフレア※2が極めて少ないレンズを実現しました。
- ※1 レンズ内に強い光が入るとレンズ内の光が反射し、円形の像をつくること
- ※2 強い光の反射により、光の斑点やムラが画面に出ること
ほかにも、どこにどういった力がかかりやすいのかといった持ちやすさや落下衝撃テスト、さらにはカメラと「RFレンズ」との連動テストにいたるまで、あらゆる使用シーンを想定したシミュレーションを実施し、データを積み重ねることによってバラツキの少ない品質をつくり込んでいます。
理想に近い美しいレンズをめざして
光学の理論上、交換レンズ内のレンズの配置は、「左右対称に近いほうが収差を抑えやすい」ことがわかっています。ショートバックフォーカスと大口径マウントの組み合わせによる相乗効果によって、「RFレンズ」は一眼レフ時代のEFレンズに比べて左右対称性のバランスが向上。レンズ設計者なら誰もがめざす理想の美しいレンズへと近づいたレンズが続々誕生しています。