仕事と人

キヤノンヨーロッパ 知財部門

キヤノンヨーロッパの知財部門は、ロンドンに拠点を置き、国際色豊かな現地メンバーおよびキヤノン株式会社からの駐在員で構成されています。キヤノンヨーロッパ 知財部門の主たる役割は、①欧州・中東・アフリカ地域(EMEA地域)における知的財産活動と、②キヤノン(株)の欧州出願および英国出願の代理人業務です。①の業務としては、模倣品対策やブランドマネジメント、さらには、EMEA地域内のグループ会社のための発明発掘や出願・権利化、特許訴訟サポートなどがあります。EMEAという広範な地域を担当しているため、何十もの国や地域の人々と仕事をすることに面白さがあり、EMEA地域内の国々への海外出張が多いことも魅力の一つです。②については、キヤノンヨーロッパ 知財部門の弁理士と駐在員、そしてキヤノン(株)の知財部員の三位一体で、広範な技術領域の出願・権利化に対応しています。特に、キヤノンヨーロッパ 知財部門は標準必須特許の取得活動について強みをもっており、標準必須特許の取得活動に関してキヤノングループにおいて中心的な役割を果たしている点に特徴があります。

以下、標準必須特許の取得活動についてご紹介します。

(写真左)Sarah Gibson/聞き手
CEL Principal Attorney
30年以上の知財経験があり、通信技術分野の標準必須特許を取得するために、キヤノンリサーチセンターフランスの技術者チームをサポート
(写真右)Philip Walker/話し手
CEL Standards Essential Patent Manager
弁理士として18年のキャリアがあり、デジタル技術標準のグローバル特許戦略に関する豊富な経験と知識をもつ

Sarah Gibson(以下SJG):キヤノンヨーロッパの知財部門は、標準必須特許(SEP:Standard Essential Patent)の取得に力を入れています。SEPとは何か、なぜ重要なのでしょうか。

Philip Walker(以下PW):SEPとは、標準規格の実施に必要不可欠な特許であり、標準規格を実装した製品やサービスを提供する場合に必ず利用する特許です。つながる世の中において、標準規格を実装した製品やサービスは業界を問わず増えています。したがって、標準技術の重要性は増してきており、知財戦略上、非常に価値の高い特許であると言えます。

SJG:キヤノンヨーロッパの弁理士として、どのような技術分野の特許活動をサポートしていますか。

(写真左)Sarah Gibson/聞き手
CEL Principal Attorney
30年以上の知財経験があり、通信技術分野の標準必須特許を取得するために、キヤノンリサーチセンターフランスの技術者チームをサポート
(写真右)Philip Walker/話し手
CEL Standards Essential Patent Manager
弁理士として18年のキャリアがあり、デジタル技術標準のグローバル特許戦略に関する豊富な経験と知識をもつ

PW:私は、長年にわたり、キヤノンリサーチセンターフランスで研究が進められている動画符号化の標準関連出願に携わっており、キヤノンヨーロッパではHEVC、VVCなどの動画符号化関連で何百ものSEPを権利化してきました。また、キヤノンリサーチセンターフランスで創出された5Gの標準関連発明にも携わっており、これらの出願・権利化を進めています。キヤノンヨーロッパが扱う主な標準技術分野は動画符号化と5Gですが、キヤノン(株)で創出された標準関連発明の出願(Wi-Fiなど)も扱っています。

SJG:キヤノンヨーロッパの弁理士、キヤノンリサーチセンターフランスの技術者/知財部門、キヤノン(株)の知財部門はどのように連携しているのでしょうか。

PW:特許出願段階では、キヤノンリサーチセンターフランスの技術者とキヤノンヨーロッパの弁理士とのやり取りがほとんどです。キヤノンリサーチセンターフランスの技術者たちは標準として採用されそうな技術に関する発明を創出し、キヤノンヨーロッパの弁理士はその発明をもとに特許出願書類を作成して出願します。
その後、弁理士は、技術者と協力してキヤノン(株)の知財部門に対して特許がどのように規格に対応しているかを示すクレームチャートを提供し、キヤノン(株)はどの国に特許出願するかを決定します。特許出願の審査段階では、キヤノンヨーロッパ、キヤノンリサーチセンターフランス、キヤノン(株)の三者間で権利範囲やリスク・機会について相談しながら、標準をカバーする特許を取得します。

SJG:キヤノン(株)やキヤノンリサーチセンターフランスとは良好な関係にあるようですね。

PW:はい、キヤノン(株)の知財部門およびキヤノンリサーチセンターフランスの技術者/知財部門とは長年連携しており、彼らとの関係は非常に良好です。関係者全員が非常に優れた知識をもっているため、細かな点について建設的な議論をすることができています。キヤノンヨーロッパ、キヤノンリサーチセンターフランス、キヤノン(株)が良好な関係を築いていることで、比較的小規模なチームでありながら、膨大な数の案件を、高品質を維持しながら効率的に処理することができています。

SJG:動画符号化に関するキヤノンヨーロッパとキヤノン(株)との間のやり取りをいくつか見てきましたが、議論の内容の細かさと効率性、スピードには感銘を受けました。

PW:SEPの世界では、時として締め切りが非常に厳しく、たとえば、複数の特許出願を提出するにあたって、標準化技術を提案するべき標準化会合が開催されるまでに数日しかないケースも多々あります。SEPの取得は時間との戦いであり、迅速に行動しなければならず、議論を効率的に行うことが全てです。キヤノン(株)がキヤノンヨーロッパの仕事を信頼しており、同様にキヤノンヨーロッパがキヤノン(株)の理解力を信頼していることにより、スピーディーに質の高いやり取りをすることができています。
キヤノンリサーチセンターフランスの技術者は、長い間、さまざまな標準化活動をしてきた実績があり、特許請求範囲の文言の理解に優れており、文言解釈上の疑義を指摘できるほどです。そのおかげでキヤノンヨーロッパの弁理士はキヤノンリサーチセンターフランスの技術者と突っ込んだ特許議論をすることができています。このように、キヤノンヨーロッパ、キヤノンリサーチセンターフランス、キヤノン(株)のスムーズな連携の裏には、キヤノンリサーチセンターフランスの技術者の知財への深い理解があるのです。

SJG:長年の経験を生かした、本当の意味でのチーム活動ですね。
最後の質問になりますが、仕事でやりがいを感じることは何でしょうか。

PW:キヤノンヨーロッパ、キヤノン(株)、キヤノンリサーチセンターフランスのチームワーク、そして、キヤノンヨーロッパ 知財部門がそのチームの中心的役割を果たしていることに、非常に満足しています。標準必須特許がキヤノン知財戦略の中核を担うようになってきており、知財戦略に貢献していることに誇りを感じています。今後も、より多くの標準関連案件を扱う見通しであり、キヤノンの標準特許取得活動をロンドンから盛り上げていきたいと考えています。

インタビュー 2022年8月23日