仕事と人
キヤノンヨーロッパ 知財部門
Canon Europe Ltd.(キヤノンヨーロッパ)は、キヤノンの欧州・中東・アフリカ地域(EMEA地域)における販売会社であり、ロンドンに拠点を置いています。キヤノンヨーロッパの知財部門は、多様で複雑なEMEA地域におけるキヤノンの知的財産のサポートと保護において極めて重要な役割を果たしています。キヤノンヨーロッパの知財部門は、欧州の知財プロフェッショナルと、日本に拠点を置くCanon Inc.(キヤノン株式会社)からの駐在員とで構成され、特許・契約・ブランド・模倣品対策などの各知財機能を有しています。特許については、キヤノンヨーロッパ知財部門の弁理士と駐在員、そしてキヤノン株式会社の知財部員の三位一体で、広範な技術領域の出願・権利化に対応しています。特にキヤノンヨーロッパ知財部門は標準必須特許の取得活動について強みをもっており、キヤノングループ全体の標準必須特許の取得活動において中心的な役割を果たしています。
この記事では、キヤノンヨーロッパの知財部門が行う契約サポート、マーケティングおよびブランドマネジメントの支援、模倣品対策、欧州知財政策への関与について説明します。

契約サポート
知財部門は、EMEA地域全体で包括的な契約サポートを提供し、キヤノンの知的財産権とブランド品位が保護されるように、幅広い契約の作成、レビュー、交渉を行っています。これらの契約は、マーケティング、IT、秘密保持などの分野をカバーしています。知財部門は、キヤノンヨーロッパの法務チーム、各国の販売組織、グローバル契約チームと密接に連携し、商取引をサポートし、知財関連リスクの効果的な管理を行っています。また、地域全体の従業員に知財に関する知見やトレーニングを提供することで、知財リテラシーの向上に貢献しています。お客さまやサプライヤーとの契約においては、キヤノンの知的財産権を保護し、他社の知的財産を侵害するリスクを最小化することが特に重要です。さらに、知財部門は、お客さまに対する印刷および情報管理ソリューションに関するソフトウェア開発ツールのライセンスの供与・取得を円滑に進める役割を担っています。これにより、キヤノンのソフトウェア製品をEMEA地域における多様なIT環境で動作させることが可能になり、キヤノンはパートナーとともに、お客さまの変化し続けるニーズに対応しています。
マーケティングおよびブランドマネジメントの支援
知財部門は、EMEA地域におけるキヤノンのマーケティングおよびブランドマネジメントの支援においても中心的な役割を担っています。この地域は地理的にも文化的にも多様性に富んでいるため、業務はダイナミックでやりがいがありますが、その一方で、数十カ国のステークホルダーとの連携に加え、幅広い法システム、ビジネス文化、環境規制に対応することが求められます。
知財部門は、第三者の権利を尊重しながら、多様なオーディエンスの共感を呼ぶ高品質なマーケティングコンテンツの制作、管理、活用を支援します。また、主要な地域ブランド資産を保護するため、キヤノングループ各社がキヤノンのポリシーとベストプラクティスに沿ってグローバルな商標ポートフォリオを管理するように指導しています。文化や価値観の異なるさまざまな国・地域を抱えるEMEA地域においてブランド力を高いレベルで保ちかつさらなる高みをめざすために、知財部門は、キヤノンEMEAブランドマネジメント委員会のメンバーとして、EMEA地域の各グループ会社からのマーケティング提案を評価し、助言を行っています。これには、さまざまな背景をもった、クリエイター、企業(たとえば、キヤノン製品やブランドのプロモーションをサポートする他業種の企業)、イベント、慈善団体とのパートナーシップやスポンサーシップの構築支援も含まれます。たとえば、映画シリーズで有名なキャラクターを用いてマーケティングキャンペーンを行うときには、知財部門がキャラクターの使用権を確保するためのアドバイスと提案を行います。これら団体などとのコラボレーションを通じて、EMEA地域における新規のお客さまへのキヤノン製品の認知度の拡大をめざしています。これらの取り組みを通して、キヤノンのグローバルに認知されたブランドの評判、誠実さ、そして伝統を、この多様性を有するEMEA地域においても守ることに尽力しています。
模倣品対策

知財部門は、EMEA地域全体の模倣品対策とエンフォースメント戦略の策定にも取り組んでいます。エンフォースメントの面では、知財部門は、EMEA地域の70カ国以上においてキヤノンヨーロッパの模倣品対策および知財保護の取り組みを主導しています。広大な地理的範囲を考慮して、エンフォースメント戦略は、各国・地域の固有の法的および運用上の特性に合わせて調整されています。図1は、模倣品が押収された地域を示し、円の大きさは押収した模倣品の量を示しています。知財部門はCanon Middle East(CME)やCanon Central&North Africa(CCNA)といったEMEA内の地域販売会社と密接に連携し、市場における疑わしい活動の情報を収集しています。
IPチームは、警察、税関、模倣品対策の団体(たとえば後述するICCE)と密接に連携し、キヤノンブランドの模倣品の違法取引の取り締まりに取り組んでいます。特定された侵害行為に関する情報は、現地の専門の第三者調査委託業者に引き渡されます。彼らはさらなる調査を行い、エンフォースメントや強制捜査が可能なターゲットを特定します。過去5年間で、これらの取り組みにより、200万点以上の模倣品が押収され、多数の逮捕、起訴が行われ、有罪判決が下されました。こうした成果は、厳格な執行機関との強固なパートナーシップの形成、並びに、お客さまを模倣品から護り、キヤノンのブランド価値を維持するための継続的な取り組みによる賜物です。

欧州知財政策への関与
キヤノンヨーロッパの知財部門は、欧州および日本の産業界の団体と連携し、欧州における新たな法律や規則の策定にも関与しています。最近では、EUデジタルサービス法(Digital Services Act)とEUデータ法(Data Act)に対する提言を行いました。EUデジタルサービス法に関しては、オンラインプラットフォームにおける模倣品の流通を抑制するための対策に関する提言を、また、EUデータ法に関しては、強制的なデータ共有における知財および営業秘密の保護に関する提言を行いました。
このような活動を行う際の協力先としては、Imaging Consumables Coalition of EMEA(ICCE)、欧州委員会(European Commission)、情報技術産業協議会(ITI)、Digital Europe(DE)、日本貿易振興機構(JETRO)、知的財産保護連盟(IPPF)、IP Federation、Japan Business Council in Europe(JBCE)などの機関が挙げられます。このうちICCEは、EMEA地域における模倣イメージング消耗品の増加に直接対応するため、1997年に設立された非営利団体であり、知財部門はその設立当初からこの団体と協力してきました。教育、ロビー活動、情報交換を主な活動とするICCEは、志を同じくするブランドで構成されており、業界共同の摘発、エンフォースメント活動、裁判所を通じた刑事訴訟の提起を行っています。

(2025年7月現在)